【祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本】
1 祭祀供養物の承継・祭祀主宰者の指定
故人に絡んでトラブルとなるのは通常の財産の承継(相続)だけではありません。墓地や葬儀に関して、親族間で対立が生じることがあります。
本記事では、民法上の祭祀供養物や祭祀主宰者に関するルールの基本的部分を説明します。
2 墓所・葬儀に関するトラブルの典型例
実際の相続のケースで、相続財産以外に問題となることが多いのは、墓地・遺骨・葬儀に関するものです。
墓所・葬儀に関するトラブルの典型例
あ 墓地
墓所の管理を誰が行うのか
い 遺骨
遺骨を誰が承継するのか
う 葬儀
葬儀は誰が行うのか
3 葬儀の方式は喪主が判断・決定する
葬儀の内容・方式にはバリエーションがあります。相続人の間で希望する方式についての対立が生じることもあります。
このようなことは葬儀を主宰する者(喪主)が判断・決定します。ここで誰が喪主になるのか、について対立が生じるケースもあります。
最終的には、家庭裁判所に祭祀主宰者を指定してもらう手続が使えます。ただし、家庭裁判所が指定した祭祀主宰者と喪主はイコールとは限りません。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|祭祀主宰者と喪主|喪主の意味・権限・祭祀主宰者と別人を指定した事例
4 祭祀供用物の意味と承継する者
以上のような墓所・遺骨・葬儀に関しては民法上、一定のルールがあります。民法上、お墓や遺骨のことを祭祀供養物といいます。そして、この祭祀供養物を引き継ぐ者のことを祭祀主宰者といいます。
祭祀供用物の意味と承継する者
あ 「祭祀供養物」の範囲
系譜・祭具・墳墓(墓所)・遺体・遺骨(の所有権)
※最高裁平成元年7月18日
※高知地裁平成8年10月23日
い 「祭祀供養物」の承継者
祭祀供養物は、祭祀主宰者が承継する
相続(遺産分割)として承継者を決めるわけではない
※民法897条
5 祭祀主宰者の決定方法(優先順序)
では、祭祀主宰者には誰がなるのでしょうか。まず、被相続人が指定していれば、これが最優先です。次に、慣習で決まります。被相続人の指定も慣習もなければ家庭裁判所が決めることになります。裁判所も決められない、という場合には最終的に国(政府)の所有となります。
解釈は以上のようになっているのですが、現実にはこのどれでもない方法で祭祀主宰者(承継する者)が決まっています。それは、相続人その他の関係者の協議(合意)です。当然ですが、誰も文句がなければ、誰も裁判所に申立もしないので、問題は起きません。
祭祀主宰者の決定方法(優先順序)
あ 第1順位
被相続人が指定する
い 第2順位
(被相続人による指定がない場合)
慣習によって定める
う 第3順位
(被相続人・慣習がない場合)
家庭裁判所が定める(祭祀主宰者指定の調停・審判)
え 第4順位
(以上のいずれによっても適切な承継者がいない場合)
祭祀供養物は国庫に帰属する
※民法897条
※東京家裁平成12年1月24日
お 実情
現実には、ほとんど利害関係者間の合意により平穏裡に承継者が決められている。
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p83、84
6 被相続人による祭祀主宰者の指定(概要)
前述のように、祭祀主宰者の決定で最優先となるのは、被相続人による指定です。被相続人が祭祀主宰者を指定する方法・方式については、特に決まりはありません。そこで指定として扱われる具体的な方法にはバリエーションがあります。
これに付随して、具体的な財産の承継の部分で問題が生じることもあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|被相続人による祭祀主宰者の指定(方式・判定・指定の拒否や辞退など)
7 慣習による祭祀主宰者の決定(否定方向)
祭祀主宰者の決定ルールの第2順位は慣習となっていますが、実際には、そのような慣習があると認められることはほぼありません。
慣習による祭祀主宰者の決定(否定方向)
あ 慣習の意味
祭祀主宰者を決定する慣習とは
祭祀財産承継の問題の起こっているその地方の慣習あるいは被相続人の出身地の慣習またはその職業に特有の慣習などである。
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p85
い 家制度的な慣習(否定方向)
民法は、封建的な家族制度を廃止し、個人の尊厳自由等を基礎として制定されている
家制度的な慣習によって祭祀主宰者を決定することは否定される傾向が強い
※大阪高決昭和24年10月29日
※鳥取家審昭和42年10月31日
※広島高判平成12年8月25日
※東京家審平成12年1月24日
う 地域的な慣習(否定方向)
何らかの地域的な「慣習」の存在を認めたものもほとんど存在しない
※小脇一海・二宮周平稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p85
8 家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準(概要)
被相続人の指定、慣習で祭祀主宰者が決まらない場合は、最終的に、家庭裁判所が祭祀主宰者を決めることになります。
家庭裁判所が祭祀主宰者を指定する場合の判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準
9 祭祀主宰者の指定による法的効果
以上のように、何らかの方法で、祭祀主宰者は決まります。祭祀主宰者として決まった者は、祭祀供養物の所有権を取得します。また、通常、祭祀主宰者が、文字どおり、葬儀を行う(主宰する)ことになります。
ただし、法律上葬儀をする義務があるか、というとそうではありません。祭祀主宰者と喪主は一致するとも限りません。
祭祀主宰者の指定による法的効果
あ 祭祀主宰者指定による所有権移転
祭祀供養物の所有権を承継する
い 祭祀主宰者指定による義務発生(否定)
所有権移転以外の法律上の効果はない
→葬儀を主宰・実行する義務はない
※宇都宮家裁栃木支部昭和43年8月1日
う 祭祀主宰者と喪主(概要)
祭祀主宰者と喪主は一致するとは限らない(別人となることもある)(後述)
詳しくはこちら|祭祀主宰者と喪主|喪主の意味・権限・祭祀主宰者と別人を指定した事例
10 税務上は墓所・祭具は相続税非課税→節税策の工夫もある
民法上、祭祀主宰者が祭祀供養物を承継することになっています(前述)。
この点、税務上は墓所や祭具が相続税の課税対象外となっています。
このルールを利用した節税策も考案されています。
詳しくはこちら|税務上のみなし相続財産や控除・非課税(生命保険金・死亡退職金・墓地・礼拝施設)
本記事では、祭祀供養物の承継や祭祀主宰者の指定の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に墓地や葬儀に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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