【共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)】

1 共同訴訟形態の基本

訴訟で原告や被告が複数になることがあります。これを共同訴訟といいます。共同訴訟は、さらにいろいろな種類のもの(共同訴訟形態)に分類されます。本記事では、共同訴訟形態などの共同訴訟の基本的内容を説明します。

2 共同訴訟の基本

原則的に、民事訴訟は原告と被告が1対1で対立する構造となっています。しかし、原告または被告が複数人となることも一定の範囲で認められます。これを共同訴訟といいます。

共同訴訟の基本

あ 共同訴訟の意味

共同訴訟とは、訴訟手続の当事者の一方または双方に複数の者が存在する訴訟形態である

い 共同訴訟に関する条文

(共同訴訟の要件)
第三十八条 訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
※民事訴訟法38条
(共同訴訟人の地位)
第三十九条 共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。
※民事訴訟法39条

3 通常共同訴訟と必要的共同訴訟の分類

共同訴訟は、通常共同訴訟と必要的共同訴訟の2種類に分類できます。合一確定が必要な場合を必要的共同訴訟といいます。

通常共同訴訟と必要的共同訴訟の分類

あ 通常共同訴訟の意味

ア 合一確定の要否 通常共同訴訟とは、共同訴訟人の権利義務関係につき合一確定が要求されない場合のことである
イ 統一的判断の要請 通常共同訴訟においても、統一的判断の要請がある
ただし、論理上の合一確定が要請されるにとどまる
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p175

い 必要的共同訴訟の意味(概要)

必要的共同訴訟は、共同訴訟人の権利義務関係につき法律上の合一確定が要求される場合に成立する
論理上の合一確定では十分ではない
詳しくはこちら|通常共同訴訟と必要的共同訴訟との判別(必要的共同訴訟の意味と判断基準)

4 必要的共同訴訟に関する条文

必要的共同訴訟については、訴訟の進行に関していくつかのルールが民事訴訟法に規定されています。この規定の中の『合一にのみ確定すべき』の解釈に幅があり、問題となることがあります(前述)。

必要的共同訴訟に関する条文

(必要的共同訴訟)
第四十条 訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
2 前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
3 第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人について訴訟手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、全員についてその効力を生ずる。
4 第三十二条第一項の規定は、第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人が提起した上訴について他の共同訴訟人である被保佐人若しくは被補助人又は他の共同訴訟人の後見人その他の法定代理人のすべき訴訟行為について準用する。
※民事訴訟法40条

5 固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の分類

必要的共同訴訟は、さらに固有類似(必要的共同訴訟)の2種類に分類されます。共同訴訟にしなくてはならないのが固有必要的共同訴訟です。共同訴訟にしなくてもよいものは類似必要的共同訴訟です。この判別については後述します。

固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の分類

あ 固有必要的共同訴訟の意味

固有必要的共同訴訟とは
共同訴訟にすることが法律上強制され、合一確定しなければならない訴訟形態である

い 類似必要的共同訴訟の意味

類似必要的共同訴訟とは
請求について各自単独に適格をもち、 個別に訴えまたは訴えられるけれども、共同して訴えまたは訴えられた以上は、その訴訟物についての判決を共同訴訟人全員に合一に確定させ勝敗を一律に決めることが、法律上要求される場合が訴訟形態である
※新堂幸司著『新民事訴訟法 第6版』弘文堂2019年p788、789

6 共同訴訟形態の種類と認められる効果(まとめ)

以上のように、共同訴訟は、全部で3種類に分類できます。この種類(類型)によって、共同訴訟が強制されるか、訴訟進行が統一されるか、などの違いがあります。証拠共通など、3種類で違いがないこともあります。表にまとめます。

共同訴訟形態の種類と認められる効果(まとめ)

あ まとめ
合一確定の必要 共同訴訟の強制 訴訟進行の統一 主張共通 証拠共通 審理の併合
通常共同訴訟 なし なし なし なし(後記※1 あり(後記※3 あり
類似必要的共同訴訟 あり なし あり なし(後記※2 あり あり
固有必要的共同訴訟 あり あり あり なし(後記※2 あり あり
い 補足説明

(※1)最判昭和43年9月12日
(※2)共同訴訟人全員に有利な場合には主張共通の原則が及ぶ(民事訴訟法40条1項)
(※3)最判昭和45年1月23日

7 通常共同訴訟と必要的共同訴訟の判別(概要)

実際には、共同訴訟形態のうちどれに該当するのかが問題となることがよくあります。そのうち、通常共同訴訟と必要的共同訴訟の違いは、『合一確定』が要求されるかどうかなので(前述)、これにより判別できることになります。この『合一確定』の解釈についてはいくつかの見解があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|通常共同訴訟と必要的共同訴訟との判別(必要的共同訴訟の意味と判断基準)

8 固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の判別

固有必要的共同訴訟は、共同訴訟にしなければならない、つまり、実体上の当事者の全員が原告か被告に含まれていなければなりません。ここで、その理由(根拠)として具体的な条文の規定があるわけではありません。そこで、どのような場合に固有必要的共同訴訟に該当するか、ということを定める条文の規定はありません。根拠も判別基準も解釈によることになります。この解釈も、判例による統一的見解があるわけではありません。
ただ、多くの判例からは、管理処分権を基準にして判断するという枠組みは読み取れます。
必要的共同訴訟のうち固有必要的共同訴訟に該当しないものは、消去法的に類似必要的共同訴訟ということになります。

固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の判別

あ 固有必要的共同訴訟の成立根拠・基準

固有必要的共同訴訟の成立根拠・基準について
判例の考え方は基本的には管理処分権説(い)と解されている
ただし、訴訟法的要素(う)も考慮に入れて固有必要的共同訴訟の成否を判断しているケースもみられる
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p176
(必要的共同訴訟のうち固有必要的共同訴訟に該当しないものは類似必要的共同訴訟となる)

い 管理処分権説(実体法説)

固有必要的共同訴訟が成立するか否かは、請求(訴訟物)の実体法的性質により決まるとする考え方
すなわち、訴訟物として主張される権利義務関係についての管理・処分を誰がなしうるかという観点からみて、全員でこれをしなければならないような権利義務関係(総有関係や合有関係など)が訴訟に持ち出されてきたときには固有必要的共同訴訟が成立することになる

う 訴訟政策説(訴訟法説)

固有必要的共同訴訟が成立するか否かにとっては、 管理処分権の帰属ではなく、訴訟法的要因が決定的であるという考え方をいう。
いかなる訴訟法的要素を考慮すべきかについては様々な見解があるが、紛争解決の実効性(紛争の一回的解決の要請)や、判決の矛盾回避の可能性、当事者となっていない利害関係人の地位、手続の進行状況などの訴訟手続上の政策的考慮要因を重視・加味して、固有必要的共同訴訟の成否が決まることになる
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p176

9 訴訟手続上の政策的考慮要因の具体例(参考・概要)

固有必要的共同訴訟にあたるかどうかの判断において、訴訟法説では、訴訟手続上の政策的考慮をします。具体的には、固有必要的共同訴訟とした場合には当事者が漏れることが許されないので、現実には異常な手間や時間を要するとか、後から当事者が漏れていることに気づいた場合の手続の効力に問題が出るなどの不都合を考慮するということです。

訴訟手続上の政策的考慮要因の具体例(参考・概要)

固有必要的共同訴訟の成否の判断の中の政策的考慮要素の具体例として、固有必要的共同訴訟とした場合の不都合・不合理性がある
最判昭和43年3月15日では、土地の所有権に基づく建物収去土地明渡請求訴訟について、固有必要的共同訴訟とした場合の不都合や不合理性を詳細に検討し、これを否定した
学説としても具体的な不都合や不合理性を指摘するものがある
※福永有利稿/『民商法雑誌 59巻5号』1969年2月15日p806参照
※田中澄夫稿『共同相続人に対する土地所有権移転登記手続請求と必要的共同訴訟の成否』/藤原弘道ほか編『民事判例実務研究 第5巻』判例タイムズ社1989年p400参照
詳しくはこちら|共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)

10 類似必要的共同訴訟に該当する具体例

必要共同訴訟をさらに「固有」と「類似」に判別する基準は、前述のように、管理処分権と政策のふたつの考え方がありました。基準だけを突き詰めるとはっきりしないところがあります。具体例を把握すると理解しやすくなりますので、類似必要共同訴訟に分類される訴訟(の類型)の具体例を挙げておきます。

類似必要的共同訴訟に該当する具体例

あ 判決効が及ぶタイプ

数人の提起する会社合併無効の訴え
※会社法828条1項7号、8号、2項7号、8号
会社設立無効の訴え
※会社法828条1項1号、2項1号
株主総会決議取消しまたは無効確認の訴え
※会社法831条、830条2項
数人の提起する一般社団法人等の組織に関する同種の訴え
※一般社団法人法264条3項、266条、265条2項
数人の提起する人事に関する訴え
※人事訴訟法5条

い 判決効そのものは及ばないタイプ

数人の債権者による債権者代位訴訟
※民法423条
数人の差押債権者による取立訴訟
※民事執行法157条1項
数人の株主による責任追及等の訴え(株主代表訴訟)
※会社法847条
数人の社員による責任追及の訴え
※一般社団法人法278条
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p676、677

う 共有に関するタイプ

共有者の1人による妨害排除請求権
※札幌高裁昭和40年2月27日など(不正な登記の抹消請求)
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

11 共同訴訟形態の種類による違い(効果)

以上で説明した共同訴訟形態の中で、通常共同訴訟と類似必要的共同訴訟は、訴訟の当事者が実体上の当事者の一部だけであっても構いません。固有必要的共同訴訟では、実体上の当事者のうち1人でも被告(や原告)から欠けると訴え自体が不適法となってしまいます。具体的状況によっては手間やコストが大きくなることもあります。

共同訴訟形態の種類による違い(効果)

あ 通常共同訴訟の当事者

原告は、個別的に被告を選択して提訴すれば良い
被告が複数の場合、通常共同訴訟になる

い 類似必要的共同訴訟の当事者

ア 初回の提訴の時点 原告は、個別的に被告を選択して提訴すれば良い
被告が複数の場合、必要的共同訴訟になる
イ 追加提訴の後 先行訴訟と後行訴訟の弁論の併合が強制されるものもある
※会社法837条、民事再生法146条2項、人事訴訟法8条2項
併合が強制されていない一般の場合には、裁判所が裁量で併合を命じる決定をするが、実務上は、当事者が同一である場合、異なる当事者間では各請求相互間で法的関連性を有している場合、総じて当事者が自ら併合できるような場合に限られている。
※勅使川原和彦稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2018年p451、452

う 固有必要的共同訴訟の当事者

ア 基本的扱い 共同訴訟とすることが法律上強制される
→一部を被告から除外することはできない
イ 当事者の欠落の扱い 一部の当事者が欠ける場合、当事者適格を欠くことになる
→訴えが却下される
実際には、原告が当事者の欠落を治癒する対応をとることになる
詳しくはこちら|固有必要的共同訴訟における当事者の欠落(訴え漏らし)の治癒

12 『必要的共同訴訟』の用法の2義性

共同訴訟形態に関する議論の中で理解を妨げる要因として、『必要的共同訴訟』が2つの意味で使われている、ということが挙げられます。普通は文字どおり、固有と類似(必要的共同訴訟訴訟形態)の総称と思えるのですが、そうではなく固有必要的共同訴訟のことを意味する場合もあるのです。

『必要的共同訴訟』の用法の2義性

あ 2義性

『必要的共同訴訟』という用語を用いる場合の意味としては2種類(い・う)が存在する

い 固有・類似必要的共同訴訟の総称としての表現

固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の総称として『必要的共同訴訟』と言う場合がある
形式的に考えるとこのとおりである

う 固有必要的共同訴訟の意味

『必要的共同訴訟である』という表現がなされた場合、実体上の当事者の全員が原告(または被告)になる必要があるという意味であることがある
つまり、『固有必要的共同訴訟である』という意味で使われたということである

え 『必要的共同訴訟』の読み方が分かれる判例(参考)

判決文の中の『必要的共同訴訟(である)』の意味について2つの読み方が生じることがある
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例

13 被告となっていない者も含む複数人に対する強制執行

通常共同訴訟や類似必要的共同訴訟では、実体法上義務を負う者の全員を被告とする必要がありません(前記)。実体上の当事者(義務を負う者)ではあるけど被告にはなっていない者が存在することもあり得るのです。
具体例は、AB共有の建物が存在しているが、土地の占有権原がないというケースにおいて、土地所有者がAだけを被告として建物収去土地明渡請求訴訟を申し立てたという状況です。
詳しくはこちら|義務を負う者が複数存在するケースの共同訴訟形態(妨害排除・確認訴訟)
この場合、請求を認める判決が確定しても、効力が及ぶのはAだけです。強制執行をするためには、(Aを被告とする)判決のほかに、Bの同意書が必要になります。

被告となっていない者も含む複数人に対する強制執行

あ 原則

(実体法上義務を負う者であっても)被告から除外されている者には判決の効力が及ばない
→この者に対する強制執行はできない
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など

い 例外

被告となっていない者の同意書があれば強制執行ができる
※民事執行法25条
※民法251条
※最高裁昭和43年3月15日;上記見解が前提とされている
※滝澤孝臣編著『最新裁判実務大系 第4巻 不動産関係訴訟』青林書院2016年p387

本記事では、共同訴訟の基本的事項を説明しました。
実際には、具体的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
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