【建築協定の基本|建築制限の項目・制度導入フロー|運用例・問題点・信託の活用】
1 地域の街並み・環境維持のルール|景観条例・建築協定|日照・眺望・景観の判例
2 建築協定の運用・代表例|古都=京都|港町=横浜・神戸など
3 建築協定運用の実情・問題点|違反への対応コスト
4 建築協定|制度導入の条件|条例がある+住民全員の賛成+認可取得
5 建築協定|設定できるルールの内容|概要
6 建築協定|建築物に関する基準|項目
7 建築協定|認可要件=制限が不当ではない+目的が適正
8 建築協定|認可手続の流れ
9 地域の建築・その他のルールを『信託』で作る方法もある
本記事では『建築協定』の基本事項を説明します。
『建築協定違反建物』の撤去などの措置については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|建築協定の法的効果|違反に対する措置=工事停止・建物撤去・強制執行
1 地域の街並み・環境維持のルール|景観条例・建築協定|日照・眺望・景観の判例
一般的に『古い町並み・良い景観』を維持・保全する,というニーズが多いです。
街並み・景観を維持するルールは,法律・条例として作られています。
また,判例で『日照・眺望・景観』についての権利や利益が認められています。
詳しくはこちら|日照権侵害|建築基準法などの違反・違法がないと『違法性なし』の傾向が強い
詳しくはこちら|眺望権は権利として認められない|『眺望地役権』設定は有意義
しかしこれらのルールは,どうしてもある程度『粗い』ルール設定となってしまいます。
この点,もっと小さなエリア・区域でも住民主導で『建築協定』というルールを作れます。
これらの地域の環境維持のルールを整理しておきます。
<地域の環境維持ルール>
あ 明文ルールの設定
設定者 | ルール |
地方自治体 | 景観条例 |
特定区域の住民 | 景観協定 |
特定区域の住民 | 建築協定 |
い 曖昧なルール
ア 日照権イ 眺望・景観の権利・利益
なお,建築基準法における『建築協定』は一定の設定手続を経た『一定規格』のものです。
この点,『単なる近隣での約束』についても一般的名称(俗称)として『建築協定』と呼ぶことがあります。
本記事では以下,建築基準法で定められている『建築協定』について説明します。
最初に建築協定の実例や問題点を概観し,その後で制度の内容を説明します。
なお,似ている制度として『景観協定』があります(上記)。
これについては別に説明しています。
(別記事『景観協定』;リンクは末尾に表示)
2 建築協定の運用・代表例|古都=京都|港町=横浜・神戸など
『建築協定』は実際に多くの地域で運用されています。
<『建築協定』の実例|代表例>
あ 京都市
京町家が多く残っている通り単位で町並みの保全
い 神戸市・横浜市・福岡市博多区
3 建築協定運用の実情・問題点|違反への対応コスト
建築協定が運用されているケースにおいて『問題点』が生じています。
<建築協定運用の実情・問題点>
最近は建築協定違反が増えている
理由=『罰則』規定がない
※今川嘉文ほか『誰でも使える民事信託』日本加除出版p82
建築協定の違反については,規定や運用で『強制執行』も含めて強力な措置が取れます。
しかし,行政が指導・対応するわけではありません。
メンバー=住人自身で行う必要があるのです(後述)。
つまり,訴訟や執行手続の費用・時間・エネルギーといって『コスト』は『自己負担』なのです。
これが一定のハードルになっています。
逆に言えば,しっかりと行えば『違反状態を解消する』ことは可能です。
強制執行を含めた対応に関しては別記事で詳しく説明しています(リンクは冒頭記載)。
4 建築協定|制度導入の条件|条例がある+住民全員の賛成+認可取得
建築協定の制度について説明します。
最初に,建築協定の制度を導入する前提条件を整理します。
<建築協定|制度導入の条件>
あ 建築協定設定可能な地域
市区町村が条例で定める地域に限られる
※建築基準法69条
い 建築協定の要件
ア 協定区域内の土地所有者・借地権者の全員の合意イ 特定行政庁の『認可』 ※建築基準法70条1項
『認可』の申請をする『特定行政庁』については,別記事で説明しています。
詳しくはこちら|建築確認|審査内容=建築基準法等の適合性|審査の流れ|建設主事・特定行政庁
5 建築協定|設定できるルールの内容|概要
建築協定で設定できるルールの項目は,法律上限定されています。
<建築協定|設定事項の概要>
ア 対象区域;『建築協定区域』イ 建築物に関する基準(後述)ウ 有効期間エ 協定違反に対する措置(後述) ※建築基準法70条1項
6 建築協定|建築物に関する基準|項目
建築協定の内容のメイン部分は『建築物に関する制限』です。
これが『景観・環境を維持する』ための直接的なルールです。
設定できる事項は法律上明記されています。
<建築協定|建築物に関する基準+具体例>
あ 敷地
分割禁止・最低敷地面積の制限・地盤高の変更禁止・区画一戸建て
い 位置
建築物の壁面から敷地境界や道路境界までの距離の制限
う 構造
木造に限る・耐火構造
え 用途
専用住宅に限る・共同住宅の禁止・兼用住宅の制限
お 形態
階数の制限・高さの制限・建ぺい率や容積率の制限
か 意匠
色彩の制限・屋根形状の制限・広告物(看板)の制限
き 建築設備
屋上温水設備の禁止・アマチュア無線アンテナの禁止
※建築基準法69条
7 建築協定|認可要件=制限が不当ではない+目的が適正
建築協定は特定行政庁の『認可』を受けることが必要です。
『認可』の要件をまとめます。
<建築協定の認可要件>
あ 不当な制限ではない
土地・建築物の利用を不当に制限するものでない
い 目的が適正である
ア 次の目的のために必要である
・建築物の利用を増進する
・土地の環境を改善する
イ 典型例
住宅地としての環境or商店街としての利便を高度に維持増進する
※建築基準法73条1項,69条
『認可』を得て初めて建築協定が有効となるのです。
なお,運用の場面で『違反』への対応が問題となります。
これについては別記事で説明しています(リンクは冒頭記載)。
8 建築協定|認可手続の流れ
建築協定は,成立までに一定の手続が必要です(前述)。
全体の流れをまとめます。
<建築協定の認可手続フロー>
建築協定条例(があることを確認);69条
↓
地権者の合意;70条3項
↓
認可申請;70条1項
↓
認可;73条1項
↓
公告・建築協定書の縦覧;73条3項
※条文は建築基準法
9 地域の建築・その他のルールを『信託』で作る方法もある
『建築協定』は特定のエリアのルールを,住民主導で作る手法です。
同じようなルール設定方法として『信託』を活用するものも紹介します。
<地域の建築・その他のルールを『信託』で設定する方法>
あ 『信託』の概要
ア 土地所有権を『受託者』に移転・集約するイ 各居住者は『受益権』を購入・保有するウ 建築やその他の区域のルールは『信託契約』として規定する 契約に規定すれば『違反建築の撤去などの強制執行』も可能
い 『建築協定』との違い
ア 『信託』は特に規定内容の限定はない
建築協定では『建築物に関するルール』に限定されている
イ 『認可』などの公的手続は不要ウ 『公的な管理=公告・縦覧』はなされない
日本人の感覚として『所有権』への信頼が強いです。
『信託』のスキームの根幹は『所有権の代わりに信託受益権』という構造です。
この根幹部分が受け入れられるためにはある程度の時間を要すると思われます。
<参考情報>
※今川嘉文ほか『誰でも使える民事信託』日本加除出版p82