【名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)】

1 名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)
2 名の変更の条文規定と要件
3 名の変更の制度趣旨
4 名の変更の現実的理由の分類
5 名の変更の一般的・抽象的な基準(概要)
6 違法な命名と名の変更許可(概要)
7 名の変更の効力発生時期(最終的手続)

1 名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)

『名』つまりファーストネームを変更する方法があります。そのためには家庭裁判所の許可を得た上で役所に届出をする必要があります。
本記事では,名の変更の基本的な内容について説明します。

2 名の変更の条文規定と要件

まず,条文上,名の変更のためには家庭裁判所の許可が必要と規定されています。
そして,家庭裁判所が許可するためには『正当な事由』が必要であると規定されています。

<名の変更の条文規定と要件>

あ 条文規定(引用)

正当な事由によつて名を変更しようとする者は,家庭裁判所の許可を得て,その旨を届け出なければならない。
※戸籍法107条の2

い 裁判所の許可の要件

名を変更することについての『正当な事由』

う 氏の変更との比較(参考)

氏の変更の要件は『やむを得ない事由』である
※戸籍法107条1項
→名の変更よりも厳しい基準である
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p508

3 名の変更の制度趣旨

名の変更の制度としての目的は,名の機能やその他の支障を解消することです。
背景には,名を本人が決めたわけではないという事情があります。

<名の変更の制度趣旨>

あ 名の変更の意義や機能

名を変更することにより『ア・イ』を実現できる
ア 個人の同一性識別の回復イ 社会生活上の支障の除去

い 名の変更の許容性

命名が本人以外の意思・判断で行われた
→本人の意思に沿う名への変更を肯定する理由となる
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p516

4 名の変更の現実的理由の分類

実際に名を変更しようと思う動機・理由にはいろいろなものがあります。
多くの理由を分類します。

<名の変更の現実的理由の分類>

あ 永年使用

通用・通称名とも呼ぶ
他の事情により永年使用に至ることが多い

い 同姓同名
う 宗教名
え 珍奇・難解

『悪名』ともいえる

お 襲名
か 主観的感情
き 姓名判断
く 性別変更
け 前科の清算

※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510〜516
※高梨公之『家族法と戸籍の諸問題 戸籍時報100号記念』日本加除出版1966年p7〜;3項目の分類

実際には『永年使用(通称)』と他の分類が組み合わさるということが多いです。
詳しくはこちら|通称への名の変更の実務的傾向と実質的な趣旨

5 名の変更の一般的・抽象的な基準(概要)

裁判所が名の変更を許可するには『正当事由』が必要です(前記)。
要するに,実質的な合理性を裁判所が判断するということです。
この判断については,裁判例やそれ以外の多くの見解があります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|名の変更の一般的・抽象的な許可基準

6 違法な命名と名の変更許可(概要)

通常の名の変更とは,命名自体は適法であり,その後の事情・都合で名を変えるというものです。
以上の説明内容はこのようなものでした。
他方,違法な命名などのケースでは,当初から戸籍の名が不適切なものです。
そこで,形式的には戸籍の訂正手続が用いられるはずです。
しかし,実務では便宜的に変更手続が用いられることが多いです。
詳しくはこちら|戸籍『訂正』の手続と名の『訂正』の問題点(基本)

7 名の変更の効力発生時期(最終的手続)

以上のように,名を変更するには,家庭裁判所の許可を獲得することが非常に重要なプロセスとなります。
ようやく家庭裁判所の許可を得たとしても,正式には(法的には)まだ,名は変更されていません。役所に名の変更の届出をしてようやく正式に名が変更されたことになります。専門的な分類では創設的届出と呼んでいます。

<名の変更の効力発生時期(最終的手続)>

あ 家裁の許可の法的位置づけ

家庭裁判所の名の変更許可の審判の確定によって
名の変更の効力が生じるわけではない
(氏の変更と共通である)

い 変更届の受理の法的位置づけ

名の変更届が市町村長によって受理されることによって
名の変更の効力が初めて生じる
この届出は創設的届出である

う 家裁の許可と変更届の関係

家庭裁判所の許可審判があっても,申立人に届出義務が生ずるわけではない
※木村三男監『改訂 設題解説 戸籍実務の処理Ⅸ』日本加除出版2015年p189
※加藤令造著『全訂 戸籍法逐条解説』日本加除出版1985年p682

本記事では,名の変更の基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に名の変更を希望して(考えて)いらっしゃる方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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