【偽計業務妨害罪|『偽計』の解釈・具体例】

1 偽計業務妨害罪|構成要件
2 『偽計』の基本的解釈
3 『偽計』の具体例|判例
4 インターネッツへの『犯罪予告』→偽計業務妨害罪が成立
5 捜査機関への『虚偽の通報』→偽計業務妨害が成立;狼少年事件
6 ドローン悪用×業務妨害罪

1 偽計業務妨害罪|構成要件

本記事では『偽計業務妨害罪』について説明します。
まずは条文の規定から整理します。

<偽計業務妨害罪>

あ 構成要件

虚偽の風説を流布し,又は偽計を用いて,その業務を妨害した

い 法定刑

懲役3年以下or罰金50万円以下
※刑法233条

う 『威力業務妨害罪』との関係

『偽計業務妨害罪』とは別に次条に『威力業務妨害罪』が規定されている
法定刑も同じなので実務上両方を合わせて『業務妨害罪』として扱うことが多い

2 『偽計』の基本的解釈

実務上『偽計』に該当するかどうかが問題となることが多いです。
まずは解釈論の基本部分をまとめます。

<『偽計』の基本的解釈>

あ 基本的解釈

人を欺き,誘惑すること
人の錯誤・不知を利用すること

い 注意

直接には機械に向けられた妨害行為も含む
=人の意思への働きかけを伴わない妨害行為
※通説

3 『偽計』の具体例|判例

具体的な事情が『偽計』に該当するかどうかが争われることが多いです。
判例として明確となっているレガシーな事例をまとめます。

<『偽計』に該当する具体例|判例>

あ 海底漁網破損事件

海上からは分からないように漁場の海底に障害物を沈めておいた
漁船の引く漁網を破損させた
※大判大正3年12月3日

い レガシー新聞競争過熱事件

ライバル紙の購読者(シェア)を奪おうと考えた
自社新聞を改題し体裁等をライバル紙と酷似させて発行した
※大判大正4年2月9日

う 裁判官を騙して明渡強行事件

内容虚偽の明渡請求の仮処分申請書を裁判所に提出した
裁判官は虚偽の証拠を前提に誤った事実認定を行った
裁判所は仮処分命令を発令した
被告人は相手の社屋について明け渡しを強制的に実現した
相手は経営ができなくなった
※大判昭和15年8月8日

え 発注が嘘→がっかり事件

他人名義で虚偽の電話注文をした
店舗は喜んで商品配達をした
虚偽だと分かりガッカリした
※大阪高判昭和39年10月5日

お そば屋の逆『今出ました』攻撃事件

そば販売店に無言電話を3か月間に970回繰り返した
※東京高裁昭和49年8月7日

か レガシー電話回線ハッキング事件;マジックホン

『マジックホン』という機器を使用して,電話機に対する課金装置の作動を不可能にした
※最高裁昭和59年4月27日
参考;スティーブ・ジョブスの制作事例
若かりし頃,同様の機能を持つガジェット制作に関わったことがある
※ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ 1』(自伝)講談社

U.S.A.でもマジックホン同様のテクノロジーは使われていたことがあるのです。
新テクノロジーの使用の局面では古今東西,『偽計業務妨害罪』に抵触するシーンがよくあるのです。

4 インターネッツへの『犯罪予告』→偽計業務妨害罪が成立

犯罪やその他の『事件発生』を予告して騒動にしてやろう,という少年の心は誰でもあるものです。
『事件発生』を実際には行わないとしても『予告』自体で『偽計業務妨害罪』が成立することもあります。
東・西で生じたケースの判例を1つずつ紹介します。

<インターネッツ殺人予告×偽計業務妨害罪|土浦事件>

あ 被告人が行った『殺人予告』

自宅PCからインターネッツ上の掲示板に『殺人予告』の投稿を行った

い 虚偽の『予告』内容

1週間以内にJR土浦駅において無差別殺人を実行する

う 警察の対応

掲示板閲覧者が警察に通報した
警察官8名が土浦駅構内・その周辺への出動・警戒などの業務を行った

え 裁判所の判断|公務執行妨害罪との関係

『暴行・脅迫』がないので『公務執行妨害罪』は成立しない

お 裁判所の判断|偽計業務妨害罪

『偽計業務妨害罪』が成立する
※東京高裁平成21年3月12日

<インターネッツ殺人予告×偽計業務妨害罪|アメリカ村事件>

あ 被告人が行った『殺人予告』

インターネッツ上の掲示板に『無差別殺人』を予告する投稿を行った

い 虚偽の『予告』内容

『6月16日3時にアメリカ村で無差別殺人おこします。』
『16に実行する事は決めたので実行します。』

う 警察の対応

掲示板閲覧者が警察に通報した
警察官が通称『アメリカ村』・その周辺への出動・警戒などの業務を行った

え 裁判所の判断|偽計業務妨害罪

『偽計業務妨害罪』が成立する
※大阪高裁平成21年10月22日

5 捜査機関への『虚偽の通報』→偽計業務妨害が成立;狼少年事件

『自分が事件を発生させる予告』ではない『虚偽通報』が問題になったケースもあります。
『第三者の犯罪行為』をでっち上げて捜査機関に通報するいたずら心です。
これも偽計業務妨害罪が成立します。

<解除保安庁への虚偽内容の通報×偽計業務妨害罪罪>

あ 被告人が行った『通報』

海上保安部に電話を掛け,次の虚偽の内容を伝達した

い 虚偽の伝達内容

国籍不明の外国人が,江の島付近海域に不法入国した

う 海上保安庁の対応

当該海域周辺における巡視船艇・航空機の出動・捜索
職員が当該海域周辺+江の島に出動・捜索

え 裁判所の判断

『偽計業務妨害』が成立する
※横浜地裁平成14年9月5日

6 ドローン悪用×業務妨害罪

現在,ドローンが一気に普及しています。
悪用すると,状況によっては『業務妨害罪』が成立します。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|ドローンの悪用×業務妨害罪|ウソの予告→偽計|実際の飛行→威力
なお,ドローンに関する法律問題全体についても別に説明しています。
今普及中のドローンに関連して問題となる機会が増えることが想定されます。
関連コンテンツ|無人ドローン×法規制・許認可と法律問題|現行法解釈|まとめ

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