【生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断(対抗要件or遺言の撤回)】

1 生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断
2 生前処分vs相続人(生前処分が優先となる)
3 遺言作成(遺贈)→生前処分(遺言の撤回)
4 生前処分→特定遺贈(対抗関係)
5 生前処分→包括遺贈(対抗関係)

1 生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断

売却や贈与などの生前処分遺言の内容が抵触することがあります。例えば同じ財産について,贈与を受けた者(受贈者)と遺贈を受けた者(受遺者)が存在するようなケースです。
この場合,生前処分と遺言作成の時期の前後や登記の有無で最終的に権利を取得する者が違ってきます。
本記事では,生前処分と遺言の優劣の判断を説明します。

2 生前処分vs相続人(生前処分が優先となる)

相続の基本的な理論は,相続人が被相続人の地位をまるごと承継するというものです。包括承継(一般承継)と呼びます。
そこで,遺言者(=譲渡などの処分をした者)の立場を相続人が引き受けるのです。そうすると相続人は財産を渡す立場にあるので,生前処分を受けた者に劣後する,という関係になります。

<生前処分vs相続人(生前処分が優先となる)>

あ 優先となる者

生前処分を受けた者が優先となる
=財産を承継できる

い 劣後となる者

被相続人の地位を承継した相続人は劣後となる

相続人については,遺言で承継する財産が指定されていても(遺産分割方法の指定),常に劣後となります。

3 遺言作成(遺贈)→生前処分(遺言の撤回)

遺言を作成した後に贈与などの(生前)処分をしたケースでは,遺言の撤回に該当します。遺言の効力がなくなるので,結果的に生前処分の効力が生じるだけになります。

<遺言作成(遺贈)→生前処分(遺言の撤回)>

あ 遺言の撤回

遺言を作成した後に遺言者が生前処分をした場合
遺言の撤回に該当する
※民法1023条
生前処分を受けた者が優先となる=所有権を得る
詳しくはこちら|遺言の撤回の種類(基本的解釈・具体例)

い 結論

遺言の内容(遺贈など)は効力を生じない
生前処分だけが効力を生じる(優先となる)

4 生前処分→特定遺贈(対抗関係)

生前処分の後に遺言の作成がなされたケースを考えます。
A不動産を甲に贈与(や売却)をして,その後に『A不動産を甲に遺贈する』という遺言が作成されたということを想定します。このように特定の財産を遺贈することを特定遺贈といいます。
遺贈の目的となる財産が相続開始時に被相続人に属しないことになるので,遺贈は無効となるように思えます(民法996条)。
しかし,2重譲渡と同じ状況として対抗関係であるという判例の判断が確立しています。結局,登記を先に得た方が優先されることになります。

<生前処分→特定遺贈(対抗関係)>

あ 関係性の判断

生前処分をした者が『特定遺贈』の遺言を作成した場合
→生前処分の譲受人と受遺者は対抗関係となる

い 対抗関係の優劣の判定(概要)

対抗要件(登記)の順序で優劣が決まる
※民法177条
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

う 遺言執行の抵触行為の無効との関係

遺言執行者が選任されていても生前処分が劣後(無効)となるわけではない
詳しくはこちら|遺言執行者による遺言執行に抵触する相続人の処分は無効となる
※最高裁昭和39年3月6日
※最高裁昭和46年11月16日

5 生前処分→包括遺贈(対抗関係)

次に,生前処分の後に遺言が作成され,その遺言の内容が包括遺贈であったケースを考えます。包括遺贈とは,『遺産すべてを甲に遺贈する』というような,財産を特定しない内容の遺贈です。
この点,包括遺贈の受遺者相続人と同じ扱いをするという民法の規定があります。しかし,特定遺贈と同じように,2重譲渡と同じように,対抗関係として扱うという見解が有力です。最高裁判例はありませんが,下級審裁判例もあり,実務では一般的な見解となっています。

<生前処分→包括遺贈(対抗関係)>

あ 民法990条の解釈

包括遺贈を受けた者(受遺者)について
→相続人と同じ扱いとする規定(民法990条)は適用しない
→民法177条の『第三者』に該当する

い 関係性の判断

包括遺贈を受けた者生前処分を受けた者は対抗関係となる
※大阪高裁平成18年8月29日

う 対抗関係の優劣の判定(概要)

対抗要件(登記)の順序で優劣が決まる
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

本記事では,生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に生前処分(生前贈与や売却)と遺言が衝突する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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