【公正証書遺言の無効リスク極小化と無効事由(全体・主張の傾向)】

1 公正証書遺言の確実性=無効リスク極小化
2 公正証書遺言の無効事由ランキング
3 口授該当性の判断と裁判例(概要)
4 証人の欠格・不適格(概要)
5 署名の欠如の主張・審理の傾向
6 公正証書遺言の無効と国家賠償責任(概要)

1 公正証書遺言の確実性=無効リスク極小化

公正証書遺言の特徴の1つは無効となることがほとんどないことです。作成のプロセスでの確認が徹底されているということです。これについてまとめます。

<公正証書遺言の確実性=無効リスク極小化>

あ 公証人の確認プロセス

公正証書遺言は,公証人が作成する
公証人は遺言者の次の事項を慎重に確認する
ア ヒト=本人・身分(確認)イ モノ=遺言内容ウ 意思=遺言をする意思 逆に,十分な確認ができないと公証人は遺言作成を拒否する

い 証人の立ち会い

証人が立ち会う
『あ』の内容の確実性はより上がる
詳しくはこちら|公正証書遺言の方式に関する規定と法改正による拡張

う 無効リスク極小化

後から方式や意思に不備があると判断されることはほとんどない
=遺言が無効となることはほとんどない
無効となるレアケースもある(後記※1

え 自筆証書遺言(参考)

遺言者が1人で誰にも知らせずに作成できる
→死後,無効と判断されることもよくある
詳しくはこちら|遺言の方式・種類|自筆証書・公正証書・秘密証書遺言

なお,ヒト・モノ・意思の確認,というのは不動産の登記申請の際に確認する項目としてよく使われるものです。遺言を含めた財産の取り決めにおいては共通する重要な項目なのです。

2 公正証書遺言の無効事由ランキング

公正証書遺言はほとんど無効になることはありません。しかし,絶対ということはありません。無効と判断される実例はあります。無効となる理由について,多いものから順にまとめます。

<公正証書遺言の無効事由ランキング(※1)

あ 遺言能力の欠缺(最も多く主張される)

<→★遺言能力

い 遺言の意思表示の効力

詳しくはこちら|遺言への民法総則(意思表示の瑕疵)の適用と実益・ハードル

う 遺言の方式違反

ア 口授の要件該当性(後記※2イ 証人の欠格事由(後記※3ウ 署名の欠如(後記※4 ※『遺言無効確認請求事件の研究(下)』/判例タイムズ1195号p87

3 口授該当性の判断と裁判例(概要)

『口授』の該当性に関する判断の概要をまとめます。

<口授該当性の判断と裁判例(概要;※2)>

遺言者が積極的に遺言内容を言葉で説明しないケースが多い
口や耳が不自由な方は通常の『口授』自体が困難である
→『口授』のプロセスを簡略化した実例がある
具体的な意思伝達方法によって有効性が判断される
詳しくはこちら|公正証書遺言の『口授』該当性の判断の目安と裁判例

4 証人の欠格・不適格(概要)

公正証書遺言を作成する際は証人の立ち会いが必要です。証人には一定の身分・地位にある方はなれません。これを欠格や不適格と呼びます。欠格や不適格の者が証人として立ち会うと方式違反となり遺言は原則的に無効となります。

<証人の欠格・不適格(概要;※3)>

立ち会った証人に欠格・不適格の事由があった
→原則として公正証書遺言が無効となる
例外として有効となることもある
詳しくはこちら|公正証書遺言の証人の『承認』の内容と欠格・不適格と有効性

5 署名の欠如の主張・審理の傾向

公正証書遺言には遺言者の『署名』が必要です。記述ができない場合は公証人による代行が認められています。この代行に関する違反が主張されるケースもあります。このような主張や審理の傾向の概要をまとめます。

<署名の欠如の主張・審理の傾向(※5)

署名の代行がなされたケースにおいて
※民法969条4号ただし書
詳しくはこちら|公正証書遺言の方式に関する規定と法改正による拡張
→方式違反による無効が主張されることがある
遺言能力の主張・認定と重複することが多い
<→★遺言能力

6 公正証書遺言の無効と国家賠償責任(概要)

公正証書遺言が無効となるケースでは公証人のミスが認められることが多いです。そのため,国家賠償責任が認められることもあります。
これについては別の記事で裁判例を紹介しています。
詳しくはこちら|公正証書遺言の無効と国家賠償責任(裁判例)

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