【不貞行為×風俗・売春・枕営業|男女の違い・進化生物学vs法解釈】
1 不貞行為×STD(性病)感染|状況証拠→不貞を認定しない傾向
2 妻が行った『売春』→『不貞行為』に該当する
3 夫が『風俗で性行為』→『不貞行為』に該当する
4 進化生物学vs法解釈|感情面における『不貞』と『破綻』の関係=男女の違い
5 男性の不貞行為を救済したケース|戦場における兵士を優遇判決
6 不貞観念の新感覚|枕営業はノープロブレム判決
本記事では,不貞行為が売春・風俗といった性ビジネスと絡んでいるケースをまとめます。
夫婦の一方の不貞行為の基本事項については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|不貞行為は離婚原因|基本|破綻後の貞操義務・裁量棄却・典型的証拠
1 不貞行為×STD(性病)感染|状況証拠→不貞を認定しない傾向
解釈上『不貞行為』とは『性行為』そのものとされています。
仮に『性行為に近いこと』を行って,STDに感染したとしても『不貞行為』には該当しません。
『性病をもらってきた』というだけでは『不貞行為』は認定できません。
<メール+淋病感染→『性行為』を認定しなかった|判例>
メールのやりとり,淋病の感染,という事情の組み合わせ
→『性行為そのもの』は認定できない
※東京地裁平成17年7月27日
なお,仮に『不貞行為』が認められない場合には一切離婚請求が認められない,というわけではありません。
他の事情も含めて,夫婦の関係が著しく悪化している場合は『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当します(民法770条1項5号)。
その場合,離婚請求が認められることになります。
2 妻が行った『売春』→『不貞行為』に該当する
『不貞行為』とは『恋愛感情を前提とする性的関係』と考える余地もあります。
こう考えると『金銭対価目的の性交渉=売春』は『不貞』に該当しないことになります。
しかし一般的に裁判所はこのような考え方は採用していません。
売春でも『不貞行為』として離婚原因となると判断した判例があります。
<金銭対価ありの性交渉→『不貞行為』認定>
あ 判例の認定;引用
妻は『収入が少ないため,異性と情交関係を持つたり,街頭に立つたりして,生活費を補つていた』
『上告人(夫)に対し婚姻の継続を強いることは相当でなく』・・・
い 妻の主張
経済的困窮の原因は夫が働かないことにあった
むしろ感謝されるべきである
裁判所は『裁量棄却』をすべきである
※民法770条2項
い 裁判所の判断
『不貞行為』に該当する
→離婚請求を認める
※最高裁昭和38年6月4日
裁判所は『不貞行為』を強く非難し,裁量棄却による救済をも否定しました。
3 夫が『風俗で性行為』→『不貞行為』に該当する
男性で『風俗はビジネス』だから『恋愛』とは違う,と思う方もいるかもしれません。
しかし,裁判所の判断は真面目です。
<男性のわがままvs法的判断>
あ 男性の自分本位主張
風俗での性行為だから遊びであって本気(恋愛)ではない
STDは家庭に持ち込まない,という良心だ
『夫婦の問題=離婚原因』ではない
い 裁判所の判断
『自由意思による性行為』である以上『離婚原因』に該当する
※最高裁昭和48年11月15日;同趣旨の判例
当然,配偶者(妻)からすれば,到底許せるものではないでしょう。
判例の判断は,風俗であっても『不貞行為』として認める傾向が強いです。
なお,風俗における『性行為』が適法か否かは地域・国により異なります。
詳しくはこちら|男女交際・性行為に関する刑罰|売春防止法・児童ポルノ法・青少年育成条例・強姦罪
4 進化生物学vs法解釈|感情面における『不貞』と『破綻』の関係=男女の違い
進化生物学において,『感情・欲望』のメカニズムが解明されています。
<進化生物学における男女の違い>
あ 男性の心理メカニズム
パートナー(妻)の『心の浮気』 < 『体の浮気』
い 女性の心理メカニズム
パートナー(夫)の『心の浮気』 > 『体の浮気』
※大小関係は『インパクト』『許せない程度の大きさ』の関係である
このように生物的な影響の違いがあるのです。
しかし,生物的なメカニズムと『法的責任判断』は別問題です。
男女平等の原則があります(憲法24条)。
一方の責任軽減,救済,というのは不合理なのです。
5 男性の不貞行為を救済したケース|戦場における兵士を優遇判決
不貞行為があっても,例外的に裁量棄却(民法770条2項)により救済したレアケースを紹介します。
裁判例としては,終戦後の外地での現地の女性と同棲していたケースで適用されているのが典型です。
なお,この案件では,別の離婚原因により,離婚請求自体は認容されています。
<戦時中の不貞はやむを得ない判決>
あ 判決文引用
戦後の外地におけるこのような特殊な環境の下にあつて
被告(夫)が他の女性と同棲した事実があつた・・・
これを平常時における平常な環境のもとにあつたと同様に考えることはできない
もとより妻としては忍び難いところではある
(しかし)これを不貞な行爲があつたものとして、離婚の責を帰せしめることは酷であつて・・・
い 裁判所の判断(結論)
裁量棄却の趣旨を考慮して不貞行為は離婚原因にはならない
※東京地裁昭和25年12月6日
このケースのように,非常に極限的・特殊な場合にだけ裁量棄却は適用されます。
『性行為』は離婚原因や違法性につながらない可能性は非常に低いのです。
6 不貞観念の新感覚|枕営業はノープロブレム判決
なお,最近になってこの価値観と異なる裁判例が登場しています。
<新人類裁判官判決|枕営業はノープロブレム判決>
『金銭対価目的の性交渉=枕営業』はありふれたものである
→不法行為における違法性がない
※平成26年4月東京地裁;各社報道
これは離婚原因ではなく,慰謝料請求における『違法性』の判断です。
ただし『離婚原因』の判断とも直結する価値観・判断です。
この判決は個別的な裁判官の感覚が新人類過ぎた=ブレが大きかったと思われます。
他の訴訟における再現可能性は低いでしょう。
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