【信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)】
1 信頼関係破壊理論と背信行為論の基本
2 信頼関係破壊理論が問題となる状況の具体例
3 信頼関係破壊理論の内容(判例の結論)
4 信頼関係破壊理論の主な3つの効果
5 催告不要・本質的な義務違反なしでの解除(概要)
6 背信行為論(増改築禁止特約違反の判例)
7 背信行為論(無断譲渡・転貸の判例・概要)
8 背信行為論と信頼関係破壊理論の同質性
9 信頼関係破壊理論の具体例
1 信頼関係破壊理論と背信行為論の基本
賃貸借契約において,本来(形式的には)解除できる状態であっても,解除が制限されることがよくあります。解除を制限する(無効とする)理論は,状況によって違いますが,全体としては,信頼関係破壊理論と背信行為論です。
実務では,いろいろな場面で,解除が認められるかどうかという理論の中でこれらがよく登場します。
本記事では,いろいろな状況を理由とする賃貸借契約の解除について,これを制限する理論(信頼関係破壊理論と背信行為論)を縦断的に説明します。
2 信頼関係破壊理論が問題となる状況の具体例
まず,信頼関係破壊理論が問題となるのは,賃貸借契約の解除の場面です。
形式的には違反であっても解除を制限する方向で使われることが多いです。
<信頼関係破壊理論が問題となる状況の具体例>
あ 事案
賃借人に用法遵守義務違反や賃料滞納があった
賃貸人は契約の解除を主張している
詳しくはこちら|賃貸借契約の解除の種類・分類・有効性の制限
い 問題点
賃借人にルール違反があったのは確かである
しかし『解除』という結果は重すぎる・バランスを欠く
解除を否定できないか
3 信頼関係破壊理論の内容(判例の結論)
信頼関係破壊理論は多くの判例が認める確立した理論です。要件(どのような状況で適用されるのか)と効果の要点をまとめます。
要するに,解除によって契約が終了する状況を,特にひどい状況だけに限定するというものです。
<信頼関係破壊理論の内容(判例の結論)>
あ 解除の制限
当事者間の信頼関係が破壊された場合に限って解除が認められる
い 『信頼関係の破壊』の基準=要件
『賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為』
う 解除の効果
将来に向かって契約が終了する
※最高裁昭和27年4月25日
※最高裁昭和39年7月28日;賃料不払
※最高裁昭和47年11月16日;用法違反・信義則上の義務違反
※最高裁昭和50年2月20日
※『最高裁判例解説民事篇 昭和50年度』法曹会1979年p46
4 信頼関係破壊理論の主な3つの効果
信頼関係破壊理論の効果の最も大きいものは,解除を制限するというものです(前記)。
しかし,これだけではありません。ほかに,催告なしで解除できるということと,本質的な義務違反がなくても解除できるということも実務に大きな影響を与えます。
<信頼関係破壊理論の主な3つの効果>
あ 解除の制限
信頼関係破壊に至っていない場合は解除が認められない
い 『催告』を不要とする
一般的な債務不履行解除の場合は催告が必要である
→信頼関係破壊理論による解除では不要となる
なお,無断譲渡・転貸による解除では元々催告は不要である
う 本質的な義務違反がなくても解除ができる
賃貸借契約の本質的な義務の違反がなくても解除できる(後記)
5 催告不要・本質的な義務違反なしでの解除(概要)
前記の3つの効果のうち,催告を不要とすることと本質的な義務違反がない解除という効果は,本来的な民法の規定よりも解除を肯定する方向性のものです。
最も主要な効果である解除の制限とは逆方向の理論なのです。
この(解除のための)催告不要・本質的な義務違反も不要という理論(解釈)については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準
6 背信行為論(増改築禁止特約違反の判例)
賃貸借の解除に関して信頼関係破壊理論とは別に,背信行為論という理論もあります。
まずは,背信行為論を採用した判例の事例を紹介します。
<背信行為論(増改築禁止特約違反の判例)>
あ 事案
土地の賃貸借
増改築禁止特約があった
借地人はこの特約を無視して建物増改築を行った
い 解除の制限
背信行為に該当しない
→解除権の行使は認めない
※最高裁昭和41年4月21日
7 背信行為論(無断譲渡・転貸の判例・概要)
賃貸借契約では,賃借人が,賃貸人に無断で転貸や賃借権譲渡をすると,解除できることになっています。この解除も制限されています。背信行為にあたらない場合には解除は無効となるのです。
<背信行為論(無断譲渡・転貸の判例・概要)>
あ 原則
無断譲渡・転貸があった場合,賃貸人は契約を解除できる
※民法612条2項
い 解除の制限
背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合,解除は認められない
※最高裁昭和28年9月25日
詳しくはこちら|無断転貸・賃借権譲渡による解除の制限(背信行為論)
8 背信行為論と信頼関係破壊理論の同質性
前記の背信行為論を採用した2つの判例は要するに,解除を制限するという内容です。つまり,背信行為論は,信頼関係破壊理論と実質的に同じといえます。
<背信行為論と信頼関係破壊理論との同質性>
背信行為論は解除を制限するという効果を生じる理論である
→解除の制限という部分で信頼関係破壊理論と同類である
9 信頼関係破壊理論の具体例
実際に信頼関係破壊理論の適用の判断がなされた判例はいくつもあります。これらの事例をみると,どのような状況でどのように適用されるのかを理解しやすいです。
判例の事例と判断の内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論|具体的判断|賃料滞納・損壊・無断改築・用途外使用
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論による解除の判例(譲渡・転貸・法人成り・近親者への譲渡など)
詳しくはこちら|信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の判例(肯定・否定)
本記事では信頼関係破壊理論と背信行為論の基本的な内容を説明しました。
実際には,細かい個別的な事情の主張・立証によって判断(結論)が大きく変わってきます。
実際に賃貸借契約の解除の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。