【信頼関係破壊理論による解除の判例(譲渡・転貸・法人成り・近親者への譲渡など)】

1 賃借人の法人成り・会社→解除権否定
2 賃借人の法人成り・宗教法人→解除権否定
3 近親者への譲渡→解除権否定方向
4 建物の不正確な登記名義と無断譲渡による解除
5 譲渡・転貸の程度・規模が小さい→解除権否定方向
6 譲渡・転貸の程度・規模|具体例・判例
7 賃借権の準共有者内の譲渡→解除権否定方向
8 使用実体・賃料支払状況に変化がある場合→解除が認められる方向性
9 『譲渡』ではないが『実質的な変化がある』|法人の役員・株主の変動

信頼関係破壊理論や背信行為論について判断した判例のうち『賃借権譲渡・転貸』のケースについてまとめます。
基本的に『土地賃貸借』のケースを紹介します。
ただし信頼関係破壊理論・背信行為論は建物賃貸借でも共通して使われます。

1 賃借人の法人成り・会社→解除権否定

形式的には『賃借権譲渡』ではあるけど『法人成り』が実態,というケースです。
2件の判例を紹介します。

<賃借人の法人成り・会社→解除権否定>

あ 事案

借地人Aが建物を所有していた
会社Bが建物を買い取った
会社Bの代表者はAである

い 裁判所の判断

土地の使用態様に実質的な変更がない
→信頼関係の破壊がない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和43年9月17日

2 賃借人の法人成り・宗教法人→解除権否定

法人成りに関する別の判例を紹介します。

<賃借人の法人成り・宗教法人→解除権否定>

あ 事案

借地人=僧侶(個人)
借地上の住居兼説教部屋を本拠として宗教法人=寺院を設立した
僧侶は,建物を宗教法人名義に変更した

い 裁判所の判断

土地の使用態様に実質的な変更がない
→信頼関係の破壊がない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和38年11月14日

3 近親者への譲渡→解除権否定方向

借地権の譲渡が『近親者に対して』行われたケースです。

<近親者への譲渡→解除権否定>

あ 借地上の建物譲渡

借地権者Aが借地上に建物を所有していた
Aが親権に服する子Bに建物の共有持分を譲渡した
これに伴い借地権の準共有持分がBに移転した
この譲渡について地主の承諾はなかった
地主は賃借権譲渡を理由に解除を主張した

い 実質面

借地に関する実質関係に変化は生じていない
実質関係=借地の利用・賃料支払など

う 賃借権譲渡・解除

『背信行為』とは認められない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和39年1月16日;借地について

4 建物の不正確な登記名義と無断譲渡による解除

建物の登記が不正確であったために無断譲渡・転貸による解除が主張された事例を紹介します。
理論的に,近親者への譲渡・転貸と同じ扱いがなされました。結局,解除は認められていません。

<建物の不正確な登記名義と無断譲渡による解除>

あ 借地上の建物の不正確な登記名義

土地賃貸借の賃借人=夫A
建物の所有名義=妻B
建物の実質的な所有者=A・Bの共有
地主の承諾はない

い 裁判所の判断(法律的な構成)

土地賃借権の準共有持分2分の1について
AからBに譲渡or転貸されている

う 裁判所の判断(結論)

A・Bは夫婦である
実質関係には変動がない
例;土地の利用・賃料支払
→背信行為とは言えない
→解除できない
※大阪地裁昭和44年12月1日;借地について

5 譲渡・転貸の程度・規模が小さい→解除権否定方向

賃借権の『譲渡』に該当するけれど程度・規模が小さい,というケースです。

<譲渡・転貸の程度・規模が小さい→解除権否定>

対象物のうち,ごく一部の無断譲渡・転貸
→信頼関係の破壊がない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和28年9月25日

6 譲渡・転貸の程度・規模|具体例・判例

上記判例における『程度・規模』の具体的内容を紹介します。

<譲渡・転貸の程度・規模|具体例・判例>

あ 譲渡or転貸の面積的規模

借地=約201坪
賃借権譲渡or転貸の対象部分=約20坪
→割合・絶対的面積が小さい

い 譲渡or転貸の経緯

罹災都市借地借家臨時処理法の適用がある状態であった
=強制的に『借地権が転借人に移転する』状態であった

う 罹災都市借地借家臨時処理法の適用から外れた

建物の滅失後再築した場所
→『同一借地内』だが『別の部分』であった
→罹災都市借地借家臨時処理法の適用はない

え 裁判所の判断

形式的には無断譲渡or転貸に該当する
しかし規模・経緯から『信頼関係の破壊』はないと言える
→解除権は発生しない
※最高裁昭和28年9月25日

実務上は幅広い要素が信頼関係破壊の判断に影響します。
上記判例の事情は,判断要素の1つの参考となります。

7 賃借権の準共有者内の譲渡→解除権否定方向

賃借権の『譲渡』が『元々の複数の賃借人』の中で行われたケースです。
最高裁の判例と下級審裁判例を紹介します。

<賃借権の準共有者内での譲渡と解除(最高裁)>

賃借権の準共有者(賃借人の1人)が譲受人
=準共有者内で譲渡が行われた
→『譲渡』に該当しない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和29年10月7日;借地について

<賃借権の準共有者内での譲渡と解除権(下級審)>

あ 事案

土地賃貸借の賃借人=A
Aが亡くなった
賃借権を相続人B・Cが準共有することになった
Bは賃借権の準共有持分をAに譲渡した
地主の承諾はない

い 裁判所の判断

譲受人はもともと賃借人であった
持分譲渡により自己の持分が量的に拡大したに過ぎない
新たに土地の使用関係に加わったわけではない
→信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情がある
→解除できない
※東京地裁昭和48年1月26日;借地について

8 使用実体・賃料支払状況に変化がある場合→解除が認められる方向性

以上のように形式的な『譲渡』の当事者の関係が重視されます。
例えば,親族などの関係性により『信頼関係破壊』が否定される傾向が強いです。
しかし『当事者の関係性』だけで判断されるわけでありません。

<信頼関係破壊の判断→使用実態・賃料支払状況の重視>

あ 信頼関係破壊を否定する重要要素

次の事情に変更がないこと
ア 使用の態様・実態イ 賃料支払状況・資力

い 信頼関係破壊が肯定される事情

人的関係が近い・程度が軽いとしても
上記『ア』『イ』に変化がある場合
→信頼関係破壊が肯定される
→解除が認められる

9 『譲渡』ではないが『実質的な変化がある』|法人の役員・株主の変動

形式的には『賃借権譲渡』ではないけれど,実質的に『譲渡』に近い,というケースもあります。
『無断での賃借権譲渡』と同じ扱いができるかどうかが判断された事例を紹介します。

<法人の内容の変化×『譲渡』の判断>

あ 事案

形式的には『賃借人=法人』に変更はない
『賃借人=法人』の役員・資本構成が変化した
実質的には『使用収益の主体』が変化した

い 裁判所の判断

法人格は同一性が維持されている
→『譲渡』には該当しない

う 例外的な扱い|形骸化

会社としての活動の実体がなく法人格が形骸化しているような場合
→『譲渡』に該当する
※最高裁平成8年10月14日

法人の実質面が変更した場合には『正当事由による契約終了』が問題となることがあります。
詳しくはこちら|会社の支配権や役員の変動を禁止する特約(COC条項)と解除の効力

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