【賃借権への担保権の設定・実行は賃借権譲渡に該当するか】

1 担保権の設定・実行は賃借権譲渡に該当するか

賃借権の譲渡は、賃貸人の承諾がないと契約を解除されるリスクがあります。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
例えば、借地上の建物に担保を設定すると、借地権(賃借権)に担保を設定したことになります。
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する
賃借権に担保を設定することや担保権が実行されることが賃借権の譲渡に該当するかしないかは一律には判断できません。
担保権には法律上の権利以外にもいろいろな種類があるのです。
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件
本記事では、担保の設定や実行について、種類を分類して、賃借権の譲渡に該当するかどうかを説明します。

2 抵当権設定と賃借権譲渡(否定)

代表的な担保権は抵当権です。
賃借権に抵当権を設定することは賃借権譲渡には該当しません。

抵当権設定と賃借権譲渡(否定)

あ 抵当権設定と賃借権譲渡

賃借権に抵当権を設定することについて
→賃借権の譲渡には該当しない

い 借地権に関する判例

借地人が『建物+借地権』に抵当権の設定をした
『使用収益』の状況に変化はなかった
→借地権の無断譲渡・土地の転貸に該当しない
→地主の承諾は不要である
※最高裁昭和40年5月4日

う 金融機関による融資承諾書の要請(参考)

借地上の建物+借地権を担保とする融資について
→通常、地主の抵当権設定承諾書(融資承諾書)が必要となる
詳しくはこちら|地主の融資承諾書の効力(金融機関への通知なしの解除の有効性・損害賠償責任)

3 買戻特約付売買と賃借権譲渡(否定)

買戻特約付売買は、担保の目的で利用されることがあります。
判例は、賃借権譲渡には該当しないと判断しました。

買戻特約付売買と賃借権譲渡(否定)

あ 買戻特約付売買

借地人Aが『建物+借地権』について買戻特約付売買を行った
詳しくはこちら|買戻特約は非典型担保として使われる|設定・登記・実行・代位行使の方法
債権担保が目的であった
登記上の建物の所有名義は債権者Bに移転した
現実的な引き渡しは行われていない
=Aが占有を継続していた

い 裁判所の判断

借地権(賃借権)の譲渡には該当しない
→解除権は発生しない
※最高裁昭和40年12月17日

う 担保目的の買戻特約付売買の扱い(参考)

買戻特約付売買が担保目的で行われた場合
譲渡担保として扱われる
=清算義務が適用される
※最高裁平成18年2月7日
詳しくはこちら|買戻特約は非典型担保として使われる|設定・登記・実行・代位行使の方法

4 譲渡担保権設定と賃借権譲渡(占有移転により判別)

譲渡担保という担保の方式があります。
これが賃借権譲渡に該当するかどうかは、占有の移転があったかどうかで判断します。

譲渡担保権設定と賃借権譲渡(占有移転により判別)

あ 基本的事項

賃借人が賃借権に譲渡担保権を設定した
(実際には借地上の建物に譲渡担保権を設定するケースが多い)
詳しくはこちら|譲渡担保|設定方法・実行方式|処分清算・帰属清算方式
賃借権譲渡or転貸に該当するかしないかについて
占有移転の有無により判断する
買戻権があることは関係ない

い 賃借権譲渡・転貸の判断

占有移転(引渡し) 賃借権譲渡・転貸 あり 該当する なし 該当しない
※最高裁平成9年7月17日
※東京地裁昭和44年2月19日;同趣旨
詳しくはこちら|借地権譲渡許可申立・非訟事件|譲渡担保|申立時期・債権者代位

5 質権設定と賃借権譲渡(占有移転により判別)

担保の種類の1つとして質権設定があります。
質権は不動産を対象として設定することもできます。
賃借権に質権を設定するということは、占有の移転がなされているはずです。
そこで、賃借権譲渡に該当することになります。

質権設定と賃借権譲渡(占有移転により判別)

あ 不動産への質権設定

不動産の賃貸借において
賃借人が賃貸借の対象の不動産に質権を設定した
質権設定には引き渡しが必要である
賃借人は不動産を債権者に引き渡した
※民法344条、345条

い 裁判所の判断

賃借権の譲渡に該当する
※東京地裁昭和50年11月27日

6 担保権実行による占有移転と賃借権譲渡(肯定)

以上の説明は、担保権の設定に関するものでした。
その後、担保権が実行された時に賃借権譲渡に該当するかどうかも問題となります。
要するに、もともとの賃借人から別の者に占有が移転された場合に賃借権譲渡に該当し、解除される状態になります。

担保権実行による占有移転と賃借権譲渡(肯定)

あ 担保権の実行

賃借権に担保権が設定された
担保権が実行された
→第三者が占有・使用を開始した

い 解釈の傾向

確定的に賃借権の譲渡or賃貸借の対象物の転貸の効力が発生した
=賃借権の譲渡or転貸に該当する
さらに、通常は背信行為に該当する
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
→解除権が発生する

7 担保権の設定や実行と賃借権譲渡(まとめ)

以上の説明のように、担保権の設定や実行は、賃借権譲渡に該当することも、該当しないこともあります。
全体をまとめると、形式的な賃借権の移転と、現実的な占有の移転の2つがあると賃借権譲渡として扱われるといえます。

担保権の設定や実行と賃借権譲渡(まとめ)

あ 判断基準

担保権の設定や実行について
『い』の両方に該当する場合
→賃借権譲渡に該当する
→賃貸人は解除できる
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)

い 賃借権譲渡となる事情

ア 形式的な賃借権の移転 例;借地の場合は『建物の所有権』の移転
イ 占有移転 債権者or第三者(買受人)への引き渡し

8 借地上の建物の競売における裁判所の許可制度(概要)

借地上の建物について担保権の実行があると借地権譲渡に該当します(前記)。
なお、担保権実行ではなく、一般の債務名義による差押・競売の場合も同様です。
担保権実行における借地権譲渡については、法律上の救済措置として裁判所の許可の制度があります。
裁判所の競売と、他の方法での実行について、利用できる裁判所の許可の手続の種類が異なります。
手続の種類によって、申し立てるタイミングと申立人が違います。

借地上の建物の競売における裁判所の許可制度(概要)

あ 地主の承諾の必要性

借地上の建物の担保権実行or競売について
借地権譲渡に該当する
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する
→地主の承諾が必要となる
→裁判所の許可で代用できる(い・う)

い 私的実行における裁判所の許可制度

担保権の私的な実行の際、地主が承諾しない場合
賃借人(債務者)は裁判所の許可手続を申し立てることができる
担保権実行の前に申し立てる必要がある
詳しくはこちら|借地権譲渡許可・非訟手続|申立人・申立時期
代位により債権者が申し立てることについて
→肯定・否定の両方の見解がある
詳しくはこちら|借地権譲渡許可申立・非訟事件|譲渡担保|申立時期・債権者代位

う 競売における裁判所の許可制度

裁判所の競売の際、地主が承諾しない場合
買受人は裁判所の許可手続を申し立てることができる
競売(所有権取得)の後に申し立てることができる
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴

本記事では、賃借権(借地権)への担保権設定やその実行が賃借権譲渡といえるかどうか、という問題を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物を担保としたことに関わる問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【借地上の建物の賃貸と借地権譲渡(否定)・建物賃貸禁止特約の効力】

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