【借地上の建物の賃貸と借地権譲渡(否定)・建物賃貸禁止特約の効力】

1 借地上の建物の賃貸と借地権譲渡(否定)・建物賃貸禁止特約の効力

土地の賃貸借(借地)において、借地人が建物を賃貸し収入を得る、ということはよくあります。
地主としては土地を第三者が利用しているから借地権譲渡や転貸なので解除できる、という発想もありますがそうではありません。では、建物の賃貸を禁止する特約があれば解除できるかというと、これも一定の制限があります。
本記事では、このような、借地上の建物の賃貸に関する法的扱いを説明します。

2 借地上の建物の賃貸と借地権譲渡・転貸(否定)

まず、借地上の建物の賃貸借は、間接的に借地を第三者が使っているにすぎない、と捉えます。そこで、借地権の譲渡や転貸にはあたりません。
つまり、借地人は、地主の承諾なく建物を第三者に賃貸することができる(解除されない)のです。

借地上の建物の賃貸と借地権譲渡・転貸(否定)

あ 前提事情

借地人が借地上の建物を所有している
借地人が建物を第三者Aに貸している
=Aに有償または無償で使用収益させている

い 素朴な発想

建物賃借人Aは建物とともに敷地も利用していると思える

う 法的な判断

ア 判例 借地権の譲渡・土地の転貸には該当しない
→地主の承諾は不要である
=地主は借地契約解除できない
※大判昭和8年12月11日
※東京地裁昭和34年9月10日
※浦和地裁昭和58年1月18日
イ 学説(新版注釈民法) 宅地の賃借人が借地の上に所有する建物を第三者に賃貸し、その借地をこれに使用させても、借地を転貸したことにはならない(大判昭8・12・11裁判例7民277)。
この解釈に対しては疑問を投げかける学説もなくはないが、借地人所有の建物が存在しているかぎり建物賃借人の敷地利用は借地人から独立しておこなわれるものでないとみることは可能であり、何よりも、現行法のもとでは上のような解釈をしないとはなはだしい不都合を来すことになりうるのであって、上の解釈は是認されて然るべきであろう。
※広中俊雄稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p275

3 借地契約における建物の賃貸を禁止する特約の効力

借地契約の中で建物賃貸禁止を特約として設定しておくケースもあります。
法律上、このような特約を禁止するような規定はありません。
そこで、合理的である限りは有効です。
しかし、違反を理由とする解除については制限される傾向が強いです。

借地契約における建物の賃貸を禁止する特約の効力

あ 特約の有効性

建物の賃貸を禁止する特約について
合理的・客観的理由がある場合
→有効である

い 違反への解除の効力

信頼関係を破壊しない場合
→解除は効力を生じない
※最判昭和38年11月28日(う)
※浦和地裁昭和58年1月18日

う 昭和38年判例の引用

賃借権の譲渡または土地の転貸、賃借地上の建物その他工作物につき売買譲渡、賃借権の設定をなすには、予め賃貸人の書面による承諾を要すべく、この特約に違反したときは、賃貸人は催告を要せずして何時にても契約を解除しうる旨の特約は、それらの行為が賃貸借における信頼関係を破壊するような背信行為に当る場合に限つて、賃貸人に契約解除権を認める趣旨であると解すべきものとした原審の判断は、正当である。
※最判昭和38年11月28日

え 信頼関係破壊理論の内容(概要)

形式的に違反があっても信頼関係を破壊しない場合には解除が認められない
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)

4 建物の用途制限違反と解除の効力

借地上の建物を第三者に賃貸しない、という特約は借地条件の1つでもあります。
一般的には、このような特約(借地条件)は、有効ではありますが、違反による解除は否定される傾向が強いです。

建物の用途制限違反と解除の効力

あ 用途の制限(前提事情)

建物の『用途』を制限する借地条件がある

い 用途の制限の具体例

ア 居住用に限るイ 自己使用に限る 第三者に建物を使用させない

う 違反に対する解除の効力

借地人が建物の用途制限に違反した場合
→違反による背信性は低い
→解除が認められない場合が多い
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p209、210

5 建物賃貸禁止特約違反の解除が否定される事情

借地上の建物の賃貸を禁止する特約の違反による解除は、信頼関係が破壊されたといえない場合には、認められません(前述)。
解除が否定される方向に働く事情の具体例をまとめます。実務では、細かい事情の主張・立証が結論を決めるといえます。

建物賃貸禁止特約違反の解除が否定される事情

あ 借地人の親族が居住

想定される範囲内だから

い 実際の建物の使用状況に大きな変化がない

地主に不利益が少ないから

う 第三者が入居することについて借地人側に合理的理由がある

借地人を保護する必要性が高いから

え 第三者の入居について地主が拒否する理由に合理性がない

地主に不利益が少ないから

お 特約の設定自体に合理性がない

特約自体が無効とされるから

6 建物賃貸禁止特約の違反による解除を認めた裁判例

実際に、具体的な事情から信頼関係が破壊されたと認められ、結論として解除が認められた裁判例を紹介します。

建物賃貸禁止特約の違反による解除を認めた裁判例

あ 特約の成立

裁判所の調停において
借地上の建物の賃貸を禁止する合意(調停条項)が成立した

い 違反を理由とする解除

借地人が建物を第三者に賃貸した
地主は『あ』の特約違反による解除を主張した

う 信頼関係の判断材料

地主・借地人の間では紛争が継続的に発生していた
裁判所の調停で特約が合意された(あ)
→借地人は合意内容を明確に認識・承服していた
借地上の建物は小規模な鋳物工場であった
→実際に事業をする者について地主が関心を持つのは当然である

え 解除の効力

信頼関係は破壊された
→解除は効力を生じた
→明渡請求を認めた
※浦和地裁昭和58年1月18日

本記事では、借地上の建物の賃貸借に関する法的扱いを説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物に居住する人が変更したことに伴う問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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