【自治体による建物耐震性に関する施策(危険度判定・耐震化促進策)】
1 建築物応急危険度判定
東日本大震災の後、被災エリアの自治体(市町村)が『建築物応急危険度判定』を行いました。
『危険』と判断されて、赤いステッカーが貼られている、という状況を見かけることがありました。
この判定は、違法状態とか建替が強制されるというものではありません。
一応ながら、居住は可能、といえます。
一方で、仮に大きな地震が来た場合には倒壊するリスクが存在することがハッキリしたといえます。
2 東京都緊急輸送道路沿道建築物条例(基本)
地方自治体によって、ビルなどの建物の耐震化を促進する施策が運用されています。
代表例として、東京都における具体的施策を紹介します。
まずは制度の枠組みをまとめます。
東京都緊急輸送道路沿道建築物条例(基本)
3 東京都の耐震化促進の対象建物
前記の条例に基づく耐震化促進の対象となる建物についてまとめます。
東京都の耐震化促進の対象建物(※1)
あ 『特定緊急輸送道路』の指定
特に沿道の建築物の耐震化を推進する必要のある道路
『緊急輸送道路』約2000kmの中から指定された
い 『特定沿道建築物』(※2)
『ア〜ウ』のいずれにも該当する建築物
→『特定沿道建築物』とする
ア 敷地が『特定緊急輸送道路』に接するイ 旧耐震基準で建築されているウ 『建物の高さ』>『道路幅員の約2分の1』
4 東京都の耐震化促進の施策内容
前記の対象建物には、東京都の耐震化促進の施策が適用されます。
施策の内容は耐震審査などの義務や耐震化工事費用の助成です。
東京都の耐震化促進の施策内容(※3)
5 耐震診断未実施の理由と物件の公表
実際には、対象の建物の大部分で耐震診断が実施されています。
しかし、ごく一部の建物については耐震診断が実施されていません。
オーナーが耐震診断を実施する費用は実質全額が補助されます。
診断を実施しない理由は『耐震不足の発覚』を避けるというものが多いようです。
ペナルティの一環として、診断未実施の物件は公表されています。
耐震診断未実施の理由と物件の公表
あ 耐震診断未実施の典型的理由
仮に『耐震性が不足している』結果が出た場合
→テナントから賃料減額を要求されるリスクが生じる
※『週間ビル経営2017年4月17日』p1
法律上の『賃料減額請求』とは異なる意味である
=社会的な状況の変化に伴う賃料の減額
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本
い 耐震診断未実施物件の公表サイト
東京都はウェブサイトで耐震診断未実施の物件を公表している
外部サイト|東京都耐震ポータルサイト|耐震診断が実施されていない特定緊急輸送道路沿道建築物の公表について
6 耐震強度不足と賃貸借終了(概要)
耐震化工事の助成の対象となっても、賃借人が入居しているので退去をしてもらいたい状況がよくあります。
ここで、耐震化工事の対象だからといって、現時点で倒壊するリスクが大きいとは限りません。
そこで、すぐには建物の賃貸借契約を終了させられないこともあります。
実際の倒壊のリスクの程度によって、更新拒絶や解約申入が認められるかどうかが判断されます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の老朽化と建物賃貸借終了の正当事由