【公教育・義務教育の目的・目標|大学のニーズ変容・ディプロマミル・文系縮小論】
1 公教育の目的・目標|教育基本法の規定
2 実質的な公教育の目的=正統化根拠|根本的事項
3 公教育の目的|社会の統一性・水準維持
4 公教育の目的|教育を受ける権利の保障
5 義務教育は『最小限』にとどめるべき|没頭を阻害→イノベーションの機会損失
6 公教育の不備|能力測定モノサシ現象・時代錯誤状態
7 真のエリート・真のリーダー/まやかしのエリート
8 一般の大学・大学院の変容|ディプロマ・ミル|文系縮小論
9 大学の『就職・採用時のモノサシ化現象』|因果関係と相関関係の混同
1 公教育の目的・目標|教育基本法の規定
最近は社会のリソース分配の再構築が待ったなしとなっています
文系大学廃止方針など,社会全体へのメリットが最大化する施策が進んでいます。
本記事では『公教育』全般について法的規定を含めて全体像を外観します。
まずは,公教育の目的・目標についての法律上の規定をまとめます。
<公教育の目的・目標>
あ 教育の目的
ア 『人格の完成』を実現するイ 『心身ともに健康』な国民を育成するウ 国民が平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な資質を備える ※教育基本法1条
い 教育の目標
『幅広い知識と教養を身に付ける・真理を求める』態度を養う
創造性を培う・自主・自律の精神を養う
『勤労を重んずる』態度を養うこと。
『正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力』を重んずる
『主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する』態度を養う
『生命を尊び、自然を大切にし,環境の保全に寄与する』態度を養うこと。
『伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する』態度を養う
※教育基本法2条
2 実質的な公教育の目的=正統化根拠|根本的事項
公教育を国家の負担で行う理由=目的について,実質面からまとめます。
<実質的な公教育の目的=正統化根拠|根本的事項>
あ 社会の統一性・水準維持
ア 国家・社会の構成員としてふさわしい最低限の基盤となる資質の育成イ 遵法意識・治安維持ウ 『我々』の視点・サイド
い 国民の教育を受ける権利の保障→人権保障
ア 教育を受ける権利 (学習する権利)
→最小限の社会的保障
イ 『我』の視点・サイド
※憲法26条
※中央教育審議会初等中等教育分科会による審議結果(末尾記載)
3 公教育の目的|社会の統一性・水準維持
公教育の目的(前記)のうち『社会全体』の要請をまとめます。
<公教育の目的|社会の統一性・水準維持>
あ 実現目標
国民が統合された国民国家・社会の構成員・形成者となること
→国民としての統一性・水準の維持
い 社会の構成員として必須の基本的知識・資質
共通の言語,文化,規範意識
4 公教育の目的|教育を受ける権利の保障
公教育の目的(前記)のうち『国民・子供個人』からの要請をまとめます。
<公教育の目的|教育を受ける権利の保障>
あ 憲法上の人権
国民の教育を受ける権利の保障
※憲法26条
い 権利内容
個人の個性・独自性・特性・能力を伸ばし,人格を高める
=人生をより良く生きるための土台をつくる
→多様な変化の時代に対応できる
う 具体的な利益|例
子供たちを様々な分野の学習に触れさせる
→各人の可能性を開花させるチャンスを与える
5 義務教育は『最小限』にとどめるべき|没頭を阻害→イノベーションの機会損失
(1)『義務教育』|意義・目的
公教育の中でも『義務教育』は特有の特徴があります。
<根本的な『義務教育』の意義・目的>
公教育の基礎的部分を,だれもが等しく享受し得るように制度的に保障する
(2)義務vs自由|義務教育→『個性・独自性』を奪う側面
義務教育は必須であり,国民の権利・人権と直結する重要なものです。
一方でマイナス面もあります。
<『義務vs自由』|義務教育が個性・独自性を奪う>
あ 『自由』が子供の可能性を高める
好きなことに没頭する
→ずば抜けた能力開発が実現する機会・可能性がある
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い 『自由』が産業の多様化につながる
個々人の興味がばらける
→能力の多様化が実現する
現在は,価値観・産業が多様化している・変化が速い
現在・将来の社会にマッチする
=新産業誕生の種まきとなる
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う 『義務』が『自由』を奪う構造
『義務教育』は『強制的』
→子供の有用に使われるはずの時間(リソース)を奪う
(3)義務vs自由|画一性×多様性のバランス
義務教育の設定は『画一性と多様性のバランスを最適化させる』ことが必要です。
<『義務vs自由』|画一性×多様性のバランス>
あ 画一性→最低限
義務教育内容を『最低限』に厳選する・絞り込む
画一的・すべての子供が習得すべき内容だけ
い 多様性→より広く
子供の興味・取り組みの幅を拡げる
=選択・補充・発展・『総合的な学習の時間』・部活動など
→学校が独自性・特色を出して設定する
→学校以外の機関が提供する(のに委ねる)
6 公教育の不備|能力測定モノサシ現象・時代錯誤状態
公教育は,現状として不完全な機能となっている部分が指摘されています。
(1)能力測定モノサシ現象
<『最小限』からかけ離れた現状|能力測定モノサシ現象>
『実態として,今の中学校の教育内容は生徒全員には難しすぎるのではないか』
→公教育の目的との関係で有用ではない
=単なる『一般的能力測定モノサシ』化している
※中央教育審議会初等中等教育分科会による審議・意見(末尾記載)
(2)義務教育→時代錯誤
<『義務教育』→時代錯誤>
あ 義務教育のオリジン
義務教育は欧米の発想で始まった
教育が庶民にまで行きわたっていなかった時代の発想である
『国の力でどの子どもも学校に行くことを保障する』というもの
い 現在の状況変化
社会が豊かになった
『最低限の保障』の程度は大きく変わっている→縮小化が妥当
※中央教育審議会初等中等教育分科会による審議・意見(末尾記載)
7 真のエリート・真のリーダー/まやかしのエリート
(1)真のエリート・真のリーダーが求められている
日本の教育で不足していることの指摘があります。
<真のエリート・真のリーダーの育成>
『自己決定能力』を育成することが重要である
※中央教育審議会初等中等教育分科会による審議・意見(末尾記載)
これは『真のエリート』の不在につながっている問題と言えましょう。
詳しくはこちら|日本の『経営』不足・基本|プロの経営者=真のエリートが必要
(2)真のエリート/ニセ・まやかしのエリート
『真のエリート』というのは,裏に『ニセ・まやかしのエリート』の存在を示唆しています。
<真/まやかしのエリート>
あ 真のエリート
リスクをテイクし,社会全体にメリットを及ぼす
リーダーと言うにふさわしい者
い まやかしのエリート
『エリート』・『教養人』の存在ということ自体に意義を見出す
社会全体への現実的メリットにつながらない
循環論法である
→『エリートが存在する社会になる』ことが『エリート』の存在意義である
<『エリート』とは>
選ばれた者・影響力を及ぼす者
※各種辞典;要約
8 一般の大学・大学院の変容|ディプロマ・ミル|文系縮小論
一般の大学も,現在では,『純粋に知を得る』というオリジンの理念から変容しています。
現在では『職を得るプロセス』という性格が濃厚です。
具体的には『大学名付きの学位を得る』ということが中間的目標です。
いわゆる『ディプロマ・ミル』『学位販売事業』という性格です。
詳しくはこちら|私立大学運営に『ユーザー=学生』が参加|教育バウチャー制度vs既得勢力
一方で,産業の普及+経済的発展(困窮回避)という国民全体の緊急課題があります。
そのためには『テクノロジー+真のエリート』が必要です。
詳しくはこちら|産業誕生・経済発展の方程式|日本の環境=『プロの経営者』以外は揃っている
詳しくはこちら|日本の『経営』不足・基本|プロの経営者=真のエリートが必要
このような目的からの逆算により『大学の文系学部廃止』が最適化の結果として打ち出されています。
<政府の方針|文系学部廃止>
文部科学省・審議会『国立大学法人評価委員会』の論議
文部科学省→各大学への通達|国立大の組織改革案
『教員養成系・人文社会科学系の廃止や転換』
※14年9月各社報道
大学という組織は,社会の変化に応じた適切な形に変容することが求められています。
既得権者の強い抵抗により一定の時間がかかるのは構造的・普遍的なものです。
9 大学の『就職・採用時のモノサシ化現象』|因果関係と相関関係の混同
(1)学位販売プロモーション→因果関係と相関関係の混同
大学の存在意義と言うと『価値創造の効率が高まる』というものがあります。
要するに『大卒の個人は平均収入が高い』というものです。
これをもって『大学の運営・授業が高い価値創造につながっている』という主張です。
これについては『因果関係と相関関係の混同』というありがちな誤解を含みます。
<ディプロマ・ミル|学位販売現象の要因論>
あ 就職活動での現状
就職時に『大学卒業・学位取得』が有利
い 出身大学重視の理由(仮説)
有名大学の卒業生は優秀である傾向がある
う 要因
大学の授業内容が『能力を高める』 | ☓ |
能力が高い者が『入学している』 | ◯ |
え 誤解と正しい理解
『大学の授業内容と能力に因果関係がある』 | ☓ |
『出身大学と能力に相関関係がある』 | ◯ |
お 付随的な注意事項
ア 能力が高いが事情により大学に進学しない者もいるイ 大学卒だが能力が高くない者もいる
(2)社会・産業構造の変化→大学や文系不要の方向性
<現在の社会・産業の特徴>
あ 必要とされる『能力』が多様化している
『画一的知識の量』が『価値創造=社会への価値提供』に結びつかなくなっている
発想や実行力の方が『価値創造』に結びつく
い 『知識』習得方法の自由化=インターネッツ
人から聞く・本を読む,という方法よりも効率的な情報取得方法が確立している
=インターネッツ
効率の悪い情報習得方法を選択・実行している時点で劣位
→産業化失敗の可能性を高めている
う 『学校・大学』の役割の再構築
産業化に向かない分野は『公教育』からは除外することが要請される
→完全に私的に行う,ということは望ましい
文系分野について『民間教育』への移行を指摘する意見も多い
外部サイト|PRESIDENT_Online|国立大学改革亡国論『文系学部廃止』は天下の愚策
<参考情報>
あ 審議機関
文部科学省
中央教育審議会
中央教育審議会初等中等教育分科会による審議結果
い 審議内容
平成15年5月15日
文部科学大臣が諮問=検討の付託を行った
テーマ=『今後の初等中等教育改革の推進方策について』
外部サイト|文部科学省|今後の初等中等教育改革の推進方策について