【地熱発電×温泉法|掘削許可|許可基準・既存温泉業者・地下水利用者との関係】

1 地熱発電×温泉法|掘削許可|掘削井の種類
2 地熱発電×温泉法|『温泉』の定義・該当性
3 地熱発電×温泉法の掘削許可|不許可事由の問題点=既存温泉への影響
4 地熱発電×温泉法の掘削許可|温泉業者との関係
5 地熱発電×他の地下水利用者との関係|概要
6 複数の地下水利用者の関係|判例→地熱発電も該当する

1 地熱発電×温泉法|掘削許可|掘削井の種類

地熱発電を運用するためには立地以外にも『掘削』に関するハードルもあります。

<地熱発電×温泉法|掘削許可|掘削井の種類>

あ 掘削井の種類
掘削井の種類 目的
調査井 地下の地熱貯留層を確認する
生産井 現実の発電
い 温泉法の『掘削許可』

『温泉』湧出目的での掘削
→都道府県知事の許可が必要
※温泉法3条

ここで,地熱発電のための掘削井が『温泉』湧出目的に該当するかどうかを次に説明します。

2 地熱発電×温泉法|『温泉』の定義・該当性

『温泉』の定義をまとめます。
これにより地熱発電のための掘削井が該当するかどうかが分かります。

<地熱発電×温泉法|『温泉』の定義・該当性>

あ 『温泉』の定義

いずれにも該当する
ア 地中から湧出する温水,鉱水,水蒸気その他のガスイ 一定の温度・物質を有するもの ※温泉法2条1項

い 『掘削許可』の要否

調査井・生産井のいずれも
→『温泉』に該当する
→掘削には都道府県知事の許可が必要
※温泉法3条

3 地熱発電×温泉法の掘削許可|不許可事由の問題点=既存温泉への影響

地熱発電における掘削井の許可/不許可の判断基準をまとめます。

<地熱発電×温泉法の掘削許可|不許可事由の問題点>

あ 地熱発電事業と関わる主な不許可事由

掘削が『温泉の湧出量or温度or成分に影響を及ぼす』とき
※温泉法4条1項1号

い 実質的な考慮における問題点

既に許可を得ている温泉業者との利益調整
=温泉資源の配分

4 地熱発電×温泉法の掘削許可|温泉業者との関係

地熱発電を運用すると『温泉』に悪影響を及ぼすという主張もあります。
現実的な『影響』についての推計には不確定要素があります。
結局,純粋なサイエンス的判定,ではなく,人為的な『評価』で判断されるのです。
そこで掘削許可の判断において『既存温泉への影響』をどのように考慮するのかが問題となります。
この判断内容に関する判例や通達をまとめます。

<地熱発電×温泉法の掘削許可|温泉業者との関係>

あ 許可申請における『温泉業者の同意書』

許可の審査手続
→『近傍の温泉業者の同意書』提出が要請されることがある
※平成26年4月『温泉資源の保護に関するガイドライン(改訂)』p16

い 判例の解釈|最高裁昭和33年

『少しでも既存の温泉井に影響を及ぼす限り,絶対に掘さくを許可してはならない,との趣旨を定めたものと解すべきではない』
※最高裁昭和33年7月1日

う 判例の解釈|東京高裁平成18年

『温泉業者の同意が不十分』という理由による不許可処分
→科学的根拠がない
→違法である
※東京高裁平成18年8月31日

え 行政解釈|平成22年閣議決定

温泉事業者の同意は許可の条件ではない
※平成22年6月18日閣議決定『規制・制度改革に係る対処方針について』

お ガイドライン策定|改訂

温泉法の掘削許可の基準など
※平成24年3月『温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)』
※平成26年4月『温泉資源の保護に関するガイドライン(改訂)』

5 地熱発電×他の地下水利用者との関係|概要

地熱発電事業は『地下水の利用』に影響を及ぼすという主張もあります。
法的な判断の概要をまとめます。

<地熱発電×他の地下水利用者との関係|概要>

あ 想定される権利主張

井戸から地下水を汲み上げて使用している者
→『地熱発電事業者による地下水(温泉)の使用』を不満に思う
→妨害排除請求権を行使する

い 妨害排除請求権の判断概要

原則的に『妨害排除請求権』は認められない

6 複数の地下水利用者の関係|判例→地熱発電も該当する

複数の者の『地下水の利用』について判断した判例を紹介します。
地熱発電と他の地下水利用者との関係にも該当する判断です。

<複数の地下水利用者の関係|判例>

あ 判例の解釈|明治29年

地下浸潤水は土地の所有権に附従する
=土地所有者は自由にその水を使用できる
近傍地・隣地所有者が数年利用してきた慣行があっても同様である
→妨害排除請求権は否定
※大判明治29年3月27日

い 判例の解釈|昭和7年

地下水・温泉は,通過する土地の所有者が利用権限を有する
ただしその利用が故意または過失により他人の利用権を侵害する場合
→不法行為責任を生じる
※大判昭和7年8月10日

<参考情報>

高橋滋『震災・原発事故と環境法』民事法研究会p54〜187
豊永晋輔『NBL』964号商事法務p66〜

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