【囲繞地通行権|通行料|算定手続・算定方法・判例】
1 囲繞地通行権の対価(通行料)
2 囲繞地通行権の通行料|『訴訟』で裁判所が定める方法もある
3 囲繞地通行権の通行料算定|基本方針
4 囲繞地通行権の通行料算定|具体的方法・公式
5 囲繞地の通行料算定|実例が少ない→再現可能性が高くない
6 私道の不法占有×損害金|判例
7 上水道埋設×償金|判例
1 囲繞地通行権の対価(通行料)
囲繞地通行権は,地形などの状況から,隣地所有者が所有地の一部を貸す状態になります。
詳しくはこちら|囲繞地通行権|袋地の所有者は囲繞地を通行できる・無償となる場合
囲繞地の通行権がある場合に『対価=通行料』が問題となります。
<囲繞地通行権の対価(通行料)>
あ 原則=有償
袋地所有者=通行権者は,通路所有者に対価(通行料)を払う義務がある
通行料は年払いとする
※民法212条
い 例外=無償
特殊な事情がある場合,例外的に無償となることもある
詳しくはこちら|囲繞地通行権|袋地の所有者は囲繞地を通行できる・無償となる場合
金額については条文上規定がありません。
次に説明します。
2 囲繞地通行権の通行料|『訴訟』で裁判所が定める方法もある
仮に協議で合意に達しない場合,裁判所が算定することになります。
手続の種類は『非訟手続』ではなく,一般の『訴訟』です。
通行料を請求する内容の訴訟,ということになります。
原告は『適正な利用料』を主張・立証する必要があります。
裁判所が妥当な金額を決めることになります。
ところで裁判所が妥当な『通行料』を,正面から判断した裁判例はありません。
実務的な算定方法をまとめておきます。
3 囲繞地通行権の通行料算定|基本方針
裁判所が囲繞地の通行料を算定する基本方針をまとめます。
<囲繞地通行権の通行料算定|基本方針>
あ 通路敷地としての賃料の算定
『宅地としての賃料』を一定程度減額する
い 利用割合の反映
囲繞地通行権者の『利用の程度(独占的など)』に比例させる
※塩崎勤ほか『裁判実務大系(24)相隣関係訴訟法』青林書院p176〜
4 囲繞地通行権の通行料算定|具体的方法・公式
囲繞地の通行料が算定される具体的な方法をまとめます。
<囲繞地通行権の通行料算定|具体的方法・公式>
あ 具体的算定方法
ア 『近隣の事例・相場』に合わせる
↓ない場合
イ 『借地以外の土地賃貸借』に合わせる
典型例;『駐車場』の料金
い 超簡略化公式
通行料 = 近隣の駐車場料金 × 『利用割合』
※単位面積あたりで統一して算定する
5 囲繞地の通行料算定|実例が少ない→再現可能性が高くない
具体的な算定については,判例などの公的見解があまり蓄積されていません。
個別的事情によるブレが大きい=再現可能性が高くない,と言えます。
逆に言えば,主張・立証の内容次第で結果が変わりやすいということです。
主張・立証の中では過去の実例・判例が重要になります。
次に関係する判例を紹介します。
6 私道の不法占有×損害金|判例
『囲繞地の通行料』ではないですが,実質的に同様の判断がなされた判例です。
<私道の不法占有×損害金|判例>
あ 不法占有|概要
私道が不法占有されていた
い 不法占有|態様
ア 設置物
塀・門・庭の造作物など
イ 不法占有部分
16.73平方メートル
う 裁判所の判断
損害金は『宅地の賃料』に相当する金額=定期金
※大阪高裁昭和44年2月27日
7 上水道埋設×償金|判例
『囲繞地の通行権』とは少し違う事情を前提とした『対価算定』がなされた判例です。
<上水道埋設×償金|判例>
あ 事案
隣地所有者が通路=土地所有者に対して上水道敷設工事の同意を求めた
い 裁判所の判断|前提
上水道敷設を認めた
※民法212条類推
う 裁判所の判断|償金の算定
償金=土地価格の1%相当額
『定期金』ではなく『一時金』とした
※土地収用法80条の2
※公共用地の取得に伴う損失基準要綱;昭和37年
※地代家賃統制令による地代・家賃に関する告示
※名古屋地裁昭和48年12月20日
以上のいずれの判例も『囲繞地の通行料算定』で重要な参考情報となります。