【限定承認|相続債権者・受遺者・譲受人→対抗関係|死因贈与×信義則】

1 限定承認|相続債権者・受遺者|対抗関係
2 限定承認|物権の譲受人vs相続債権者|対抗関係
3 死因贈与の扱い・2説|受遺者と同様/対抗関係
4 限定承認|対抗関係の例外的扱い|死因贈与×信義則

1 限定承認|相続債権者・受遺者|対抗関係

限定承認の手続における相続債権者・受遺者の間には対立関係があります。
基本的には『対抗関係』として優劣を決めるルールが適用されます。

<限定承認|相続債権者・受遺者|対抗関係>

あ 相続開始前の対抗要件(登記)

→対抗力あり
※大判昭和14年12月21日
※最高裁平成11年1月21日;相続財産管理人のケース

い 相続開始前に対抗要件(仮登記)を具備した

『本登記』は相続開始『後』であった
→対抗力あり
※最高裁昭和31年6月28日

う 相続開始後に対抗要件を具備した

相続開始後に登記・仮登記を具備した
→対抗力なし
※東京高裁昭和48年6月28日

詳しくはこちら|相続承認と相続放棄|承認には単純承認と限定承認がある|熟慮期間・伸長の手続

2 限定承認|物権の譲受人vs相続債権者|対抗関係

限定承認の手続では,不動産などの『譲受人』も関与するケースも多いです。
この場合『譲受人』と相続債権者との間で優劣関係が問題となります。

<限定承認|物権の譲受人vs相続債権者|対抗関係>

権利者 通常の対抗要件 緊急の保全
譲受人(※1) 物権移転or設定の登記 処分禁止の仮処分
相続債権者 差押or相続分離の登記 処分禁止の仮処分

※1 『譲受人』= 被相続人から生前に物権を譲り受けた者
※大判昭和9年1月30日

詳しくはこちら|第1種相続財産分離|被相続人の債権者は『財産混在』を回避できる

3 死因贈与の扱い・2説|受遺者と同様/対抗関係

限定承認の手続では『死因贈与』の扱いについて画一的見解がありません。

<死因贈与の扱い・2説|受遺者と同様/対抗関係>

あ 見解1;『遺贈』と同じ順位

弁済の『優先順位3』(※2)に含める見解
この見解では登記は関係ない
→相続開始前に仮登記があってもこの順位となる
※東京地裁平成6年2月18日
※東京高裁平成8年7月9日;上告された(※3)

い 見解2;対抗関係とする

対抗要件があれば,確定的に権利を取得できる
※最高裁平成10年2月13日;※3の上告審(※4)

<補足;弁済の優先順位(上記※2)>

限定承認における『弁済』は優先順位が定められている
詳しくはこちら|限定承認|弁済手続|優先順位・換価=競売or任意売却・無剰余取消

4 限定承認|対抗関係の例外的扱い|死因贈与×信義則

限定承認の手続の中で『対抗関係』について例外的な扱いがなされた判例があります。
特殊事情があったため『信義則違反』と判断された事例です。

<限定承認|対抗関係の例外的扱い|死因贈与×信義則>

あ 事案

不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である
相続人が『限定承認』を行った
死因贈与に基づく所有権移転登記が差押登記よりも先になされた

い 原則論

『死因贈与の受贈者』と『相続債権者』は対抗関係である
→先に登記を得た相続人が優先する

う 裁判所の評価

相続人が受贈財産で弁済をしないことになる
→信義則に反する

え 裁判所の判断

相続債権者の差押が優先される
※民法1条2項
※最高裁平成10年2月13日(上記※4)

実務的に,どのような事情があると『信義則違反』となるのかは明確ではありません。
再現可能性が高くありません。
このような事情から判例の判断自体について批判も強いです。

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