【既婚者の男女交際の民事的な違法性を悪用した小悪魔戦術・不倫ビジネス】
1 既婚者の男女交際|スポット治外法権|事例
2 既婚者の男女交際×金銭|判例理論・小悪魔戦術
3 既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術|ウソの資金使途
4 既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術|法人間の貸与
5 男女交際×慰謝料→不法原因給付類推適用|不倫ビジネスの助長
<注意>
法律上の解釈論は『合理性』を求めます。
しかし結果的に『不合理』にみえる,不思議な現象もあります。
本記事では男女交際に関する『不合理・不思議』な解釈論を説明します。
ただし,悪用や理不尽な行為を推奨するものではありません。
1 既婚者の男女交際への裁判所の不介入の例
状況によっては,男女交際が民事的な違法性をもつことがあります。既婚者が配偶者以外の異性と交際することが典型例です。
この違法性の結果,本来裁判所の救済を受けられるはずなのに,救済が受けられなくなるという結果が生じることがあります。
特定の問題だけ治外法権が生じたような状態です。
男女交際の違法性から生じる典型的・基本的な減少の具体例をまとめます。
<既婚者の男女交際への裁判所の不介入の例>
あ 『既婚』ステータス×交際→不貞
A=既婚男性
B=未婚女性
AとBは交際している
→『不貞』に該当する
い 資金援助
Bが店舗をオープンするのでその資金が必要だった
AがBにお金を貸した
う 不仲→交際解消
その後,AとBの関係は悪化した
交際は解消された
え 返還請求
支払期限になったので,AはBに返還を求めた
お 法的な判断
『不貞』関係者間の金銭の貸し借りである
→不法原因給付に該当する
→返還請求は認められない
※民法703条,708条
このような具体例で考えると『もらいっぱなし』となった状態に違和感もあります。
『結婚制度に反するもので社会通念に反する』という価値観が根底にあるのです。
この価値観によって,結婚制度には,いろいろな不合理なところがあります。
詳しくはこちら|結婚制度の不合理性(婚費地獄・結婚債権・貞操義務の不公平・夫婦同姓など)
結婚制度自体がもつ,このような特徴が『小悪魔』を誕生させるのです。
2 既婚者の男女交際×金銭|判例理論・小悪魔戦術
以上の判例理論を戦術として具体化させた『小悪魔戦術』をまとめます。
<既婚者の男女交際×金銭|判例理論・小悪魔戦術>
あ 戦術内容
恋愛市場において既婚男性のみをターゲットにする
交際の対価の先払いを求める
高額,高価なプレゼントを要求する
形式的に『借入金』として『借用書』の調印も行う(要求された場合)
実際には交際(性交渉)は拒む
※性交渉を受け入れる方法もあるが,正妻からの慰謝料請求リスクを負う
い 効果
仮に相手に返還請求を主張されたとしても裁判所は認めない
→受領した金銭・品物を返還する必要がなくなる
なお,恋愛市場における『小悪魔戦術』という定義とは多少異なります。
ここでは『法律的な小悪魔』というニュアンスで用いています。
3 既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術|ウソの資金使途
利益を得られるスキームを知ると,模倣→エスカレートさせたくなる衝動が生じます。
舌切雀・こぶとりじいさん・のび太の薬過剰摂取(秘密道具)など,普遍的な現象でしょう。
法律的な小悪魔戦術をエスカレートさせ,許容範囲を逸脱したケースを紹介します。
<既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術>
あ 戦術内容
基本設定部分は上記と同様
女性が男性に資金援助を要請する際の説明
→『資金の使途』についてウソを言っていた
=騙していた
い 裁判所の判断
男女双方が『不法(違法)』である
→中間を取る
=形式的な貸付金の『半額だけ』の返還請求を認めた
※大阪地裁平成24年4月24日
4 既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術|法人間の貸与
婚外交際の男女間での金銭貸与において特殊事情があったケースを紹介します。
<既婚者の男女交際×金銭|大悪魔戦術|法人間の貸与>
あ 戦術内容
基本設定部分は上記と同様
男性が女性に金銭を貸し付ける際の具体的方法
→男性・女性ともに各自が経営する法人を通した
=形式として『法人間の貸し借り』にした
い 裁判所の判断
男女交際と金銭の貸与との関連が希薄である
→公序良俗に反しない
→全額の返還請求を認めた
※東京地裁平成22年12月20日
この事例は『ビジネス色の強い金銭の貸し借り』と言えましょう。
それなのに女性は『私との性的関係が目的だった→返さなくてよい』と主張したのです。
法廷戦術の方が『大悪魔戦術』と呼ぶにふさわしいものです。
5 男女交際×慰謝料→不法原因給付類推適用|不倫ビジネスの助長
男女交際は,終わり方によっては法的責任=慰謝料が発生します。
この点『既婚者の交際』である場合は特殊な扱いとなります。
概要をまとめます。
<既婚者の男女交際×慰謝料|概要>
あ 具体例
既婚男性Aが婚外女性Bと性交渉を持った
A・Bは『Aが既婚であること』を知っていた
Aが一方的に交際を終了させた
い 婚外女性からの慰謝料請求
ア 原則
BからAに対する慰謝料は認められない
イ 例外
事情によっては慰謝料請求が認められることもある
う 正妻からの慰謝料請求
正妻から婚外女性への慰謝料請求が認められる
婚外女性は『不貞行為』の加害者の1人です。
『正妻』から慰謝料請求を受ける立場です。
このような背景から慰謝料を『請求する』ことは否定されるのが原則です。
ただし例外を認める判例もあります。
このような慰謝料についての解釈論は別に説明しています。
詳しくはこちら|既婚と知って交際した者からの慰謝料請求は事情によって認められる
また,このようなケースについての判例は別にまとめてあります。
詳しくはこちら|既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求の裁判例(肯定と否定の事例)
なお,実際には『女性は交際相手のことを既婚者と知らなかった→被害者になる』ケースもあります。
これについては別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引
本記事では,既婚者の男女交際によって生じる不合理な状況を裁判所が救済しないという非常に特殊な減少(理論)について説明しました。
明確な判断基準は少ないので,個々の事情の評価によって判断は大きく違う可能性があります。
つまり,主張や立証次第で結果が大きく違ってくるのです。
実際に既婚者の男女交際に関する具体的問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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