【遺言執行者の職務権限・調査報告義務|基本|内容・時期・方式】
1 遺言執行者の職務権限|一般論=広い解釈が有力
2 遺言執行者|調査報告義務|基本事項=明確・統一的な基準はない
3 遺言執行者|調査報告義務|内容・時期=個別事情により判断する
4 遺言執行者|調査報告義務|方法・方式=明確な規定はない
5 遺言執行者|遺言認知|認知届の提出
1 遺言執行者の職務権限|一般論=広い解釈が有力
いろいろな場面で,遺言執行者の業務の範囲の境界が問題になることがあります。
そのような時に,前提となる一般的な職務権限の解釈論の基本事項をまとめます。
<遺言執行者の職務権限|一般論>
あ 条文
相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務
※民法1012条1項
い 判例
明確な統一的基準を示していない
個別的事情・状況に応じて判断している
※『判例民法10』第一法規p372〜
う 従来の通説
遺言執行者の遺言の執行を妨げる相続人の行為は無効となる
→取引の安全の保護が要請される
→遺言執行者の権限を限定的に解すべきである
※民法1013条
え 近時の有力説
ア 解釈の方向性
遺言執行者の職務権限を広く解する傾向がある
→遺言内容を実現するために必要な事務を含む
イ 具体的権限・内容
広範な法律行為・事実行為
・遺産の調査・特定
・遺産の管理
・遺産目録の作成
・遺産の登記・登録名義の変更・引渡し
・遺産の売却処分
・目的物の調達
・受遺者・相続人間の連絡調整
2 遺言執行者|調査報告義務|基本事項=明確・統一的な基準はない
いろいろな場面で『遺言執行者の報告義務の範囲内or範囲外』が問題となります。
ここでは『調査・報告義務』の解釈論の基本事項をまとめます。
<遺言執行者|調査報告義務|基本事項>
あ 調査報告義務|判例
明確・統一的な基準は示されていない
諸事情の総合衡量により個別具体的に判断されている
い 一般的な報告義務の内容
ア 相続財産の目録の作成・交付イ 遺言執行の状況についての説明・報告
う 報告の対象者
相続人全員
遺留分の権利を有しない相続人も含む
※民法1012条2項,645条
3 遺言執行者|調査報告義務|内容・時期=個別事情により判断する
遺言執行者の調査・報告の『内容・時期』が問題になるケースも多いです。
典型例は『相続人が遺言執行者に報告を求めた→回答なし』というトラブルです。
調査・報告の『内容・時期』について,まとめます。
<遺言執行者|調査報告義務|内容・時期>
あ 基本的報告内容・時期|概要
諸般の事情を総合的に勘案して,個別具体的に判断される
個々の遺言執行行為に先立って説明する必要があるとは限らない
い 基本的報告内容・時期|考慮事項|例
適正・迅速な遺言執行を実現するために必要であるか否か
相続人に何らかの不利益が生じる可能性があるか否か
※東京地裁平成19年12月3日
う 報告義務|任務終了時
必ず業務の顛末を報告する義務がある
え 報告義務|執行中
相続人の請求があれば,執行の処理状況を報告する必要がある
※『実務解説遺言執行』日本加除出版p190〜
4 遺言執行者|調査報告義務|方法・方式=明確な規定はない
遺言執行者の調査・報告の『方法・方式』についてまとめます。
<遺言執行者|調査報告義務|方法・方式>
あ 原則
制限はない
口頭・文書のいずれでもよい
い 金銭出納がある場合
収支決算書を作成して報告する
※『実務解説遺言執行』日本加除出版p190〜
5 遺言執行者|遺言認知|認知届の提出
遺言執行者の権限・責任に関する個別的な規定もあります。
代表的なものは『遺言認知』です。
認知届の提出など,具体的な業務が職務になります。
遺言認知については別に説明しています。
詳しくはこちら|遺言認知|子の存在を隠す・遺言執行者が遂行・相続→金銭賠償
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