【共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)】
1 共有物分割の分割類型(分割方法)の種類(全体)
共有物分割は、共有を解消する手続のことです。共有を解消する方法、つまり、最終的にどのような状態にするのか、ということについては、複数の型(方法)があります。
本記事では、共有物分割の分割類型(分割方法)の種類を説明します。
2 「分割類型」のネーミング(注意)
ところで本サイトでは共有物を分割する方法の型(類型)のことを分割類型と呼びますが、これは一般的な語法ではありません。分かりやすさのために便宜的に使うネーミングです。
「分割類型」のネーミング(注意)
ただし、「分割方法」には、土地の分割線の位置や取得する共有者を誰にするか、ということも含まれる
また、協議や訴訟といった分割の手段と混同されることもある
本サイトでは「分割方法の種類」(型)のことを「分割類型」と呼ぶ
3 3つの主要な分割類型
(1)現物分割の内容と特徴(概要)
分割類型のうち、最も単純なものは現物分割です。文字どおり、共有物そのものを物理的に分けるものです。現物分割を採用するのは主に土地であり、建物は通常、現物分割にすることはできません。ただし例外はあります。
また、土地を物理的に分けたときに、価値の過不足が生じてしまうこともあり、その場合には過不足を金銭の支払で調整するという方法もあります。現物分割と後述の価格賠償を組み合わせたような方法ともいえます。
現物分割の内容と特徴(概要)
あ 現物分割の内容
共有物を持分割合に応じて現実に分割すること
物理的に分けることである
持分の交換契約と言える
詳しくはこちら|共有物分割・完了後|登記の方法
各共有者が取得する財産の価値に過不足がある場合、調整金(賠償金)の支払を伴うこともある(部分的価格賠償)
い 優先度
一般的に優先的に選択される分割類型である
う 主な特徴
通常は建物については適用できないが例外もある
土地について適用することが多い
(2)換価分割(代金分割・価格分割)の内容と特徴(概要)
換価分割は、共有物(全体)を第三者に売却し、売却で得られた代金を共有者で分けるというものです。利益を分ける側面では単純で公平です。ただし、売れる金額が安くなってしまう傾向が強いです。
換価分割(代金分割・価格分割)の内容と特徴(概要)
あ 換価分割の内容
共有物(全体)を第三者に売却する
売却代金を持分割合に応じて分配する
通常は競売による売却を意味するが、任意の売却を換価分割と呼ぶこともある
い ネーミング
「代金分割」、「価格分割」、「代価分割」と呼ぶこともある
う 優先度
他の分割類型を選択できないときに、補充的に(消去法・受け皿的に)選択される分割類型である
詳しくはこちら|換価分割の補充性・分割請求権の保障との関係
え 主な特徴
金銭(金額)を共有持分割合に応じて分けることになる
この点で、有利や不利(不公平)は生じない
共有物は第三者の手に渡ることになる
競売を用いるため売却金額が安くなる傾向がある(30%程度の競売減価)
詳しくはこちら|不動産競売における競売減価(理由と減価率相場)
(3)全面的価格賠償の内容と特徴(概要)
共有物全体を共有者のうち1人が取得する(所有権を持つ)ことにして、代わりにその共有者は他の共有者に対してもらった共有持分の価値相当額の金銭を支払う、という方法があります。強制的に買い取る方法といえます。
全面的価格賠償の内容と特徴(概要)
あ 価格賠償の内容
共有物を共有者1名だけの単独所有にする
取得した者は他の共有者に賠償金(対価)を支払う
い 優先度
取得希望者がいる場合
→優先的に選択する(要件充足性を判断する)
う 主な特徴
条文には規定がない
判例で認められている分割類型である
実質的には共有持分を買い取るというものである
次の点で対立が生じやすい
ア 誰が取得するかイ 賠償金の金額
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)
4 用益権(利用権)設定による分割(概要)
たとえば、共有者Aに建物(共有物)を取得させ、共有者Bが建物を使用(居住)できる、というように分けるという発想もあります。理論的には所有権と利用権に現物分割したといえるはずです。遺産分割ではよく採用されますが、共有物分割の判決では採用しないのが一般的です。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い
5 分割類型の多様化・柔軟化
(1)一括分割(概要)
実際には、複数の不動産(共有物)をまとめて分割する、ということも多いです。隣接する2筆の土地を一体として分割するケースや、離れた2つの土地や建物をまとめて分割するケースなどがあります。
対象とする不動産(共有物)が多くなると、現物分割の方法(分け方)に多くの選択肢が出てきます。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における一括分割(複数の不動産・複数種類の財産を対象とする)
(2)一部分割(概要)
前述の3種類が分割類型の基本です。実際には、これをアレンジした方法がとられることもあります。たとえば、共有物の一部について、共有の状態を維持する(共有を解消しない)というものです。一部だけ分割した(共有を解消した)という意味で、「一部分割」といいます。
詳しくはこちら|共有物分割における一部分割(脱退・除名方式)(分割方法の多様化)
6 関連テーマ
(1)分割類型を選択する優先順序(概要)
以上のように、分割類型にはいろいろなもの(種類)があります。共有物分割の協議(話し合い)や調停では、共有者全員の意見が一致しさえすれば、どのような分割類型を選択することもできます。
訴訟では、最終的に裁判所が適切な分割類型(具体的な分割方法)を選択、判断します。裁判所が採用する分割類型の優先順序については、条文や判例(解釈)によって一定のルールが作られています。
分割類型を選択する優先順序(概要)
あ 協議・調停
共有物分割の協議では分割類型を自由に選択できる
共有者全員の意見が一致しないと(合意しないと)成立しない
い 訴訟
分割訴訟の判決では裁判所が分割類型(具体的分割方法)を判断する
条文、判例により判断基準が立てられている
一定の選択する優先順序がある
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の選択基準(優先順序)の全体像
(2)遺産分割の分割類型との比較(参考)
ところで、共有物分割と似ている手続として遺産分割があります。共有の状態を解消するという意味では共通していますが、性質としては異なるところもあります。
そこで、分割類型は大部分が共通していますが、遺産分割だけは(一部ではなく)全体を共有のままとする方法が可能となっています。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い
(3)分割類型の法的性質
以上で説明した分割類型のうち、現物分割と価格賠償は、交換や売買(契約)の性質を持ちます。そこで有償契約としての契約不適合責任(瑕疵担保責任)が適用されるいうような扱いをうけます。
一方、換価分割の判決の後には、通常、競売が行われます。これは一般的な競売とは性質が違うので、形式的競売(形式競売)といいます。
分割類型の法的性質(概要)
あ 現物分割・価格賠償(概要)
現物分割・価格賠償について
→共有者相互間における共有持分の交換または売買である
※最判昭和42年8月25日
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
い 換価分割
裁判所の競売による売却である
形式的競売と呼ばれる
本記事では、共有物分割の分割類型(分割方法の種類、型)を全体的に説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。