【形式的競売における共有者の入札(買受申出)の可否】
1 形式的競売における共有者の入札(買受申出)の可否
共有物分割訴訟の換価分割の判決によって行われる競売(形式的競売)は、担保権実行や強制競売などの一般的な競売とは違う特殊性があります。そこで、共有者自身が入札(買受申出)をすることができるか、という問題があります。
本記事では、形式的競売における共有者(所有者)の入札の可否について説明します。
2 共有者が入札する典型的な状況
実際に、共有者が入札する、という状況になることがよくあります。典型的な状況をまとめます。
共有者が入札する典型的な状況
共有物分割訴訟で全面的価格賠償の希望を主張した
裁判所は、判断基準における全面的価格賠償の要件を満たさないと判断した
裁判所は換価分割の判決を言い渡した→確定した
形式的競売が実施された
共有者Aは自身の単独所有を実現するために入札する
3 形式的競売における共有者の入札→可能
一般的な競売では、債務者が入札することは禁止されています。そこで、形式的競売において共有者が入札することも同じ扱いになるのではないか、という発想も生じます。しかし、形式的競売は債権回収の手段ではないので、債務者による入札禁止の趣旨があてはまりません。そこで、共有者の入札は禁止されないと考えられています。
形式的競売における共有者の入札→可能
あ 一般的な競売における債務者の入札禁止(前提)
一般的な担保権実行・強制競売において
債務者は元々弁済すべき立場にある
→自己資金で物件を購入することより弁済を優先すべき
→債務者による買受申出(入札)は禁止されている
※民事執行法68条
い 形式的競売における共有者の入札の可否
ア 実質的な評価
共有物分割における換価分割としての競売の場合
→債権回収目的ではない
→当事者(=共有者自身)が買受申出(入札)することは禁止されない
イ 見解(※1)
狭義の形式的競売(注・留置権による競売以外の形式的競売)に関しては、執行債権や被担保債権が存在しないため、68条を準用する余地はない・・・。
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1814
※香川保一『注釈民事執行法(3)』p495(同内容)
※鈴木忠一ほか『注解民事執行法(2)』p489(同内容)
4 共有者かつ債務者が入札する典型的な状況
次に、形式的競売の対象の不動産に担保権が設定されていて、共有者(の1人)がその被担保債権の債務者となっている状況を想定します。典型的な状況としてまとめます。
共有者かつ債務者が入札する典型的な状況
共有物には住宅ローンの担保が付いている
共有者Aは自身が入札し、単独所有を実現したい
共有者Aは、住宅ローンの債務者でもある
5 形式的競売と他の競売の競合における共有者の入札→禁止
ここで、住宅ローンが滞納となっていて、銀行(債権者)が担保権の実行(競売)を申し立てた場合にはどうなるでしょうか。形式的競売と担保権実行による競売という2つの競売手続が同時になされている場合には、差押が二重になされます。ただ、手続としては先行する手続を進める(後行する手続は保留となり、先行手続が取下や取消となった場合にだけ生かされる)ことになります。
では、形式的競売が先行の場合は、「形式的競売として」手続は進むので、前述のように共有者(債務者)による入札禁止のルール(民事執行法68条)は適用(準用)されないはずです。しかし、実質的に考えると、銀行も競売の申立はしているので、債権回収を実現するべき状態といえます。そこで、後行の担保権実行の競売のルールも適用します。具体的には債務者(共有者)は入札禁止となり、消除主義が(確実に)採用されることになります。後行の競売手続が、担保権実行ではなく強制執行(一般債権者が債務名義を取得した場合)であっても同じことです。
形式的競売と他の競売の競合における共有者の入札→禁止
あ 形式的競売+担保権実行
ア 2つの競売手続の競合における処理(前提)
不動産を対象とする形式的競売と担保不動産競売・・・の申立てが競合した場合は、二重開始決定がなされることになる(188・47)。
・・・形式的競売と他の手続の競合の場合においては、基本的に先行事件の競売手続の規律に従って競売手続を実施すべきである。
イ 形式的競売先行→民事執行法68条適用+消除主義採用
ただし、先行事件においても適用すべきものと考えられる後行事件の規律もあるものと解される。
たとえば、先行事件が留置権競売以外の形式的競売であっても、後行事件として担保権実行がなされているのであれば、68条が準用されるものと解すべきである(前述9(1)参照)。
また、先行事件が引受主義をとるべき形式的競売(前述7(1)(c)参照)であっても、後行事件として担保権実行がなされているのであれば、消除主義をとることが許されるものと解すべきである。
また、後行事件が所有者変更型の形式的競売である場合は、先行事件の担保権実行の規律によって被担保債権の債務者の買受け申出が禁じられるのに加えて(188・68。§188-2(2)(b)参照)、目的物の所有者の買受け申出も禁じられる(建物区分所有法に基づく競売(⑱)に関しては、区分所有者に加えて区分所有者の計算において買い受けようとする者の買受け申出も禁じられる(建物区分59④参照))ものと解すべきである(前述9(1)(b)参照)。
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1823
い 形式的競売+強制執行
ア 2つの競売手続の競合における処理(前提)
形式的競売と他の手続の競合との場合においては、基本的に先行事件の競売手続の規律に従って競売手続を実施すべきである。
イ 形式的競売先行→民事執行法68条適用+消除主義採用
ただし、先行事件においても適用すべきものと考えられる後行事件の規律もあるものと解される。
たとえば、先行事件が不動産を対象とする形式的競売であっても、後行事件として強制執行がなされているのであれば、68条が適用されるものと解すべきである(前述9(1)参照)。
先行事件が引受主義をとるべき形式的競売(前述7(1)(c)参照)であっても、後行事件として強制執行がなされているのであれば、消除主義をとることが許されるものと解すべきである。
また、後行事件が建物区分所有法に基づく競売(⑱)である場合は、先行事件の強制執行の規律によって執行債務者の買受け申出が禁じられる(68)ことに加えて、執行債務者である区分所有者の計算において買い受けようとする者(建物区分59④参照)の買受け申出も禁じられるものと解すべきである(前述9(1)(b)参照)。
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1823、1824
6 形式的競売(競合なし)における共有者かつ債務者の入札→可能
前述の一般的な見解は、競売手続が競合した(二重開始決定となった)場合に、本来は後行の競売手続のルールは適用しないところを、例外的に適用する、という解釈でした。
では、形式的競売の申立があったけれど、銀行が担保権実行による競売の申立をしていない場合、つまり、競売手続が競合(二重開始決定)にはなっていない場合はどうでしょうか。
この点、形式的競売としては、通常、消除主義が採用されています。
詳しくはこちら|形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である
そこで銀行は形式的競売の手続の中で配当が行われます(その代わり担保権は消滅してしまいます)。銀行が配当を受けるという意味では、銀行が担保権を実行した(競売の申立をした)のと同じ結果です。しかし担保権実行による競売手続は、後行手続にすらなっていないので、担保権実行の競売のルールを適用するのは無理だと思われます。
7 形式的競売における差引納付・担保権設定(参考)
以上のように形式的競売において共有者が入札し、落札できた場合、次の代金納付のプロセスで、差引納付が使えるかという問題がありますが、否定されます。また、代金納付において当該不動産を担保とした融資を受けるということは可能です。
このようなことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における差引納付の適用(否定)・融資による代金納付(担保権設定)
本記事では、形式的競売における共有者(所有者)の入札の可否について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的扱いや、最適な対応方法が違ってきます。
実際に共有不動産や競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。