【建物明渡の実力行使は違法となる(自力救済or自救行為の判断基準)】

1 建物の賃借人退去の法的効果
2 建物明渡×実力行使|典型的事例・概要
3 建物明渡×実力行使・自力救済|典型的手法
4 建物の占有|判断基準(概要)
5 建物明渡×実力行使|法的責任
6 自力救済×自救行為|一般|違法性判断基準
7 自力救済特約の有効性(概要)
8 適法な占有解消=建物明渡の強制執行(概要)

1 建物の賃借人退去の法的効果

建物賃貸借が終了した時に,賃借人は退去することになります。
実際には『退去』で問題が生じることが多いです。
まずは『退去』による法律的な効果・扱いをまとめます。

<建物の賃借人退去の法的効果>

あ 前提事情

賃貸借契約が終了した
賃借人が『退去』した

い 占有

賃借人の『占有』がなくなった
=占有が賃借人からオーナーに移転した

う 損害金

賃借人が負う『遅延損害金』発生が止まる

え 立ち入りOK

オーナーが部屋に立ち入ることが適法にできる

ここまでは当然のような内容です。
ノーマルの状態と言えます。
一方『契約は終了したが退去しない』場合は違ってきます。

2 建物明渡×実力行使|典型的事例・概要

賃貸借契約が終了した後に『賃借人が退去しない』ことはよくあります。
この場合の法的扱いの概要をまとめます。

<建物明渡×実力行使|典型的事例・概要>

あ 典型的事例

建物賃貸借の契約が終了した
例;解除・期間満了
オーナーは退去を要求している
賃借人は,まだ退去していない
=部屋を『賃借人』が占有している

い 損害金発生

賃借人は退去遅延による『損害金』を負う
退去完了まで損害金が発生し続ける

う 立ち入りNG

オーナーは建物に立ち入ることができない
→民事・刑事的な法的責任が生じる(後記※1

契約終了後は,厳密には『元賃借人』ということになります。
本記事では便宜的に『賃借人』と呼びます。

3 建物明渡×実力行使・自力救済|典型的手法

実際に『退去前』に立ち入りなどを行ってしまうケースが生じています。
所有者であっても立ち入ると違法となるのです。
『立ち入り』以外にもいろいろな違法行為があります。

<建物明渡×実力行使・自力救済|典型的手法>

あ 基本的事項

オーナーが次のような措置を遂行する
賃借人の同意はない
実際には委託を受けた管理業者が行うこともある

い 具体的手法

ア ドアを解錠して建物に立ち入るイ 建物内の荷物(動産)を搬出するウ 動産を保管/廃棄するエ ドアの鍵を交換し入室できないようにする

所有者であっても本来は裁判所の手続を利用するべきなのです。
公的な救済手段を利用すべきということになります。
そこで,上記のような実力行使のことを『自力救済』と呼んでいます。

4 建物の占有|判断基準(概要)

前述のように賃借人の『退去』後は『自力救済』の問題は生じません。
一方賃借人が『退去』していない時の明渡が『自力救済』となるのです。
大きな法的問題が生じる可能性があります。
このように『退去』,つまり『占有』の判断が非常に重要なのです。
建物の占有・退去の判断は簡単ではありません。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の占有の判断の基準と具体例(建物賃貸借の退去の判定)

5 建物明渡×実力行使|法的責任

建物の明渡の実力行使は原則的に違法となります。
そこで実力行使=自力救済については法的責任が生じます。

<建物明渡×実力行使|法的責任(※1)

あ 民事責任

損害賠償責任
損害=財産を失った・プライバシーを侵害されたこと

い 刑事責任

ア 窃盗罪or器物損壊罪 財産を『盗んだ』or『喪失させた』という意味
イ 住居侵入罪 建物(部屋)に入ること自体が許されていなかった
→侵入行為が違法である

6 自力救済×自救行為|一般|違法性判断基準

自力救済の問題は建物明渡以外でも生じます。
自力救済は『法的救済を受けるべき方』が実力行使をすることです。
もともと『保護されるべき方』の行為が違法となるという構造です。
そこで状況によっては『適法』と判断されます。
自力救済一般の違法性判断基準をまとめます。

<自力救済×自救行為|一般|違法性判断基準>

あ 原則

法律上の手続によらない執行方法
→違法である
※民法90条

い 例外

一定の範囲で『自救行為』として適法となる
次の利益・権利の比較衡量により判断する
ア 自力救済によって守られる権利イ 自力救済によって失われる利益 ※東京地裁昭和47年3月29日

適法になる行為のことを『自救行為』と言います。
前述の違法な行為は『自力救済』です。
ネーミングはややこしいです。

7 自力救済特約の有効性(概要)

実際には『自力救済を認める』趣旨の特約条項もよくみられます。
この条項さえあれば,ストレートに『自力救済が適法になる』とは限りません。
特約の効力の解釈論は別に説明しています。
詳しくはこちら|所有権放棄・自力救済特約|基本|有効性判断基準

8 適法な占有解消=建物明渡の強制執行(概要)

賃貸借契約が終了しても『賃借人が退去しない』ケースは多いです。
賃借人の『占有』があると明渡実現には大きなハードルがあります(前述)。
裁判所の強制執行を利用する方法はもちろん可能です。
詳しくはこちら|明渡実現方法|全体|賃料滞納への対応・違法を避ける方法

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