【相続財産の範囲|一身専属権・慰謝料請求権・損害賠償×損益相殺・継続的保証】

1 相続財産は『被相続人に帰属していた財産』である
2 例外的に相続財産にならないものもある|一身専属権・祭祀財産
3 一身専属権は『請求の段階』によって相続されるか否かが異なる
4 現在は故人本人の慰謝料請求権の相続が認められている
5 政府保障事業による補償金の相続
6 死亡保険金・死亡退職金→原則的に相続財産ではない
7 死亡事故の損害賠償×損益相殺|死亡保険金・死亡退職金
8 『継続的保証』は特殊な扱い
9 墓所・遺骨は祭祀主宰者が承継する・被相続人や家裁の指定手続

1 相続財産は『被相続人に帰属していた財産』である

被相続人の土地や金銭などの財産と,それに属した一切の権利義務が相続財産です。
『遺産』と言うこともあります。
詳しくはこちら|相続による承継の対象についての見解(権利義務・地位・人格・法律関係)
相続によって原則として,被相続人のすべての財産が相続人に受け継がれます。プラス財産だけではなく,債務というマイナス財産も承継されます。
相続財産ごとに,法的な扱い・特徴を別記事でまとめています。
詳しくはこちら|共同相続による基本的財産の遺産共有or分割承継の区別

2 例外的に相続財産にならないものもある|一身専属権・祭祀財産

相続財産の扱いにおいては,ごく一部,例外があります。

<相続の対象から除外されるもの>

あ 被相続人の一身に専属したもの=一身専属権・義務

その人にのみ認められるものです。
一身専属権・義務のうち『未確定のもの』は相続の対象外となります。
詳しくは後述します。

い 墓地などの祭祀財産

墓所・遺骨などは『祭祀承継者』が承継する(後述)
※民法896条,897条

う 名義株・名義預金

形式的には『被相続人名義』であるが実質的には別人が権利者という場合

詳しくはこちら|近親者の金銭の移転→否定されるリスク|名義預金・名義株

3 一身専属権は『請求の段階』によって相続されるか否かが異なる

『一身専属権』は原則的には相続財産にはなりません。
『一身専属権』の具体例をまとめます。

<『一身専属権』×相続>

あ 『一身専属権』

『被害者固有』という性質のある権利
→他の人には承継されない

い 具体例

ア 生活保護を受ける権利イ 扶養を求める権利・義務 『養育費』や『婚姻費用分担金』を含む
ウ 離婚時の『財産分与』請求権・義務

一身専属権は具体的状況によって相続されるか否かが違ってきます。

<『一身専属権・義務』の『確定/不確定』による相続への影響>

権利義務の種類 何もしていない 請求側が請求or調停等の申立をした 両者が合意or裁判が確定した
慰謝料(後記)
扶養(養育費・婚姻費用含む)
(離婚時の)財産分与(※2)

※『◯』=相続の対象となる

※2 財産分与×相続について
統一的な解釈・見解がありません。
詳しくはこちら|財産分与義務発生時点,相続による承継の有無の見解は分かれている

<参考情報>

※中川善之助『親族法・下』青林書院p603
※福島四郎『相続法』評論社p89〜90
※我妻栄『親族法』有斐閣p412

4 現在は故人本人の慰謝料請求権の相続が認められている

<慰謝料請求権×相続>

あ 典型事例

事故でA(被害者)が亡くなった
『A自身の慰謝料請求権』が発生する
この慰謝料請求権がAの相続人に承継されるのではないか

い 相続否定説|古い解釈論

『精神・心のダメージ』はその人に特有のものである
→慰謝料請求権は『一身専属権』である
→相続により承継されることはない

う 意思表示説|古い解釈論

ア 解釈論 慰謝料請求の意思表示があれば権利が具体化する
→相続により承継される
イ 『意思表示』の緩和 意識が朦朧としている時に『残念残念・・・』と言った事例
→意思表示として認める
※大審院昭和8年5月17日;残念判決

え 現在の判例

意思表示の有無に関係なく相続により承継される
※最高裁昭和42年11月1日

死亡事故についても『被害者本人の慰謝料請求権』は発生します。
古い判例では『意思表示の有無』で『相続の有無』が決まっていました。
この基準だと例えば,即死の場合には慰謝料請求権が相続されません。
より大きな損傷を受けた場合の方が救済が弱くなる,という不合理な結果です。
このような不合理の批判,指摘が強くなっていました。
そこで現在では,無条件に慰謝料請求権の相続が認められるに至りました。

5 政府保障事業による補償金の相続

交通事故の被害者は政府に補償金を請求できることもあります。本来の損害賠償を救済のために政府が肩代わりするような制度です。
詳しくはこちら|政府保障事業;加害者不明,自賠責に未加入
この補償金(請求権)についても一般の金銭債権と同様に扱われます。

<政府保障事業による補償金の相続>

政府保障事業による補償金請求権について
→可分債権である
→当然に相続人に分割承継される
=遺産分割の対象ではない
※自賠責法72条
※福岡家裁昭和41年9月29日

6 死亡保険金・死亡退職金→原則的に相続財産ではない

亡くなった時に『死亡保険金・死亡退職金』が発生することがあります。
これらは通常,特定の近親者が受け取ると決められています。
原則的に『相続財産』ではないと解釈されています。
特殊事情によっては『相続財産』として解釈されることもあります。
さらに『特別受益・遺留分』と関わるかどうかという問題もあります。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
詳しくはこちら|相続における死亡退職金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

7 死亡事故の損害賠償×損益相殺|死亡保険金・死亡退職金

『死亡保険金・死亡退職金』は『死亡事故の損害賠償・慰謝料との損益相殺』も問題になります。

<損益相殺>

損害賠償請求額から別に給付を受けた金額を控除すること
同一の原因により生じた給付が対象となる

具体的には死亡時に発生する給付金が問題になります。
死亡保険金・死亡退職金についてまとめます。

<死亡事故の損害賠償×損益相殺>

あ 死亡保険金

既に払い込んだ保険料の対価という性質がある
→不法行為の原因とは関係がない
→損益相殺なし
※最高裁昭和39年9月25日

い 死亡退職金

損害賠償請求権と死亡退職金の性質
→いずれも実質的に『死亡した者の逸失利益』と言える
→損益相殺をする
※最高裁昭和50年10月24日

8 『継続的保証』は特殊な扱い

(1)継続的な保証債務×相続|まとめ

被相続人が追っていた『債務』も,マイナスの相続財産です。
相続人に承継されます(前述)
この点『継続的な保証債務』については,特殊な扱いがなされます。
最初に結論部分をまとめます。

<継続的な保証債務×相続による承継>

債務の種類 死亡時に既発生 死亡時以降に発生
身元保証
根保証
賃貸借の保証人

(2)各『保証債務』の相続

<身元保証×相続>

あ 原則

『身元保証』の債務は相続の対象にはならない
理由;個人的な関係性が前提になっている

い 例外

保証人の死亡時に既に発生していた保証債務
→相続財産になる=承継する
理由;通常の金銭債務となっているため
※大審院昭和2年7月4日
※大審院昭和18年9月10日
※大審院昭和4年4月13日

<根保証×相続>

あ 死亡時以降

『根保証契約』は終了する
→保証債務は生じない

い 死亡時以前

既発生していた保証債務
→相続財産になる(債務の元本確定)=承継する
※民法465条の4第3号;平成16年改正

<賃貸借の保証人×相続>

通常どおり『保証債務』が相続(承継)する
理由;特に制限する法律・判例がない

9 墓所・遺骨は祭祀主宰者が承継する・被相続人や家裁の指定手続

『相続財産』から除外されるものとして祭祀供養物があります。
墓所・祭具などのことです。
承継する者を決めるのは遺産分割ではありません。
祭祀主宰者の指定という規定・手続によります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|祭祀供養物(墓地・遺骨など)の承継・祭祀主宰者の指定の基本

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