【遺産分割の前提問題|遺産の範囲・相続人の確定|遺言の有効性・所有権確認】

1 遺産分割の前提問題|遺産の範囲

遺産分割の前提問題として位置付けられるものがあります。
その1つが『遺産の範囲』です。
典型的に問題となる事情をまとめます。

遺産分割の前提問題|遺産の範囲

あ 財産の帰属|基本

生前に被相続人に権利が帰属していたかどうか

い 財産の帰属|使途不明金

次のような事情による『使途不明金』として問題化する
・相続人の1人が無断で被相続人の財産を消費した
・相続人の1人が被相続人の預貯金を引き出していた
詳しくはこちら|相続×使途不明金|相続人による不正行為・無断での使用・預貯金引き出し

2 遺産の範囲確定の手続|遺産確認/所有権確認訴訟

『遺産の範囲』を確定させるための手続についてまとめます。

遺産分割の前提問題|遺産の範囲確定の手続|種類

あ 手続の種類

主張者=原告 訴訟の種類 相続人 遺産確認訴訟(※1) 自身の固有財産と主張する者 所有権確認訴訟
※1 遺産確認訴訟について
かつては『共有持分権確認訴訟』が用いられたこともある
現在では通常用いられていない

い 管轄

地方裁判所(原則)

3 遺産確認訴訟の共同訴訟形態

遺産分割の『前提問題』に関する訴訟の性質について説明します。
遺産確認や相続人を確定する訴訟は『共同訴訟』です。
さらにその中での分類をまとめます。

遺産確認訴訟の共同訴訟形態

あ 遺産確認訴訟の当事者と内容(概要)

相続人が確認を求める手続(前記)
※最高裁昭和61年3月13日

い 遺産確認訴訟の共同訴訟形態

固有必要的共同訴訟である
→共同相続人の全員が当事者(=原告or被告)に含まれている必要がある
※最高裁平成元年3月28日

う 類似する訴訟との違い|まとめ

訴訟の種類 固有必要的共同訴訟 遺産確認訴訟 該当する 相続人の地位がないことの確認の訴え 該当する 遺言無効確認訴訟 該当しない

4 遺産分割の前提問題|相続人の確定|夫婦・養子・親子関係・廃除・欠格

遺産分割の前提問題として『相続人の確定』があります。
相続人が誰かという問題が生じる状況・種類をまとめます。

遺産分割の前提問題|相続人の確定|種類

あ 『合意』による身分行為の有効性を争う

婚姻・離婚・養子縁組の有効性

い 生物学的親子関係を争う

嫡出否認・認知・親子関係不存在の主張・手続

う 特殊事情による扱い

相続人の廃除・相続欠格
詳しくはこちら|相続人の範囲|法定相続人・廃除・欠格|廃除の活用例

え 相続放棄/承認の効力

相続放棄・単純承認・法定承認などの効力・該当性を争う

5 遺産分割の前提問題|遺言・遺産分割の有効性

遺産分割の前提として『遺言の有効性』が問題となることが多いです。
さらに以前行った遺産分割が有効か無効か、という問題もあります。

遺産分割の前提問題|遺言・遺産分割の有効性

あ 遺言の存否・有効性

(遺言無効・全体)

い 遺産分割協議の有効性

既に相続人間で協議・合意したかどうか

6 遺産分割の前提問題→別の訴訟を行う

『遺産の範囲の確定』と『遺産分割』の手続は『前提』と『メイン』というような関係です。
遺産の範囲の確定は地方裁判所で、遺産分割は家庭裁判所で扱われます。
そこで、2つの手続の順序などの関係性について、実際に起きる状況を整理します。

遺産分割の前提問題→別の訴訟を行う

あ 原則的順序

『遺産の範囲・相続人』確認・確定の手続→遺産分割手続

い 結果的に並行となる場合

遺産分割手続→遺産の範囲確認の手続
遺産分割の手続中に『前提問題』が発覚・浮上することがある
その場合に上記の流れとなる

う 遺産分割調停・審判×前提問題

ア 前提問題の存在による問題点 『遺産の範囲・相続人』の確定が必要な状態となった場合
→仮に調停成立・審判に至っても後から『無効』となる可能性がある
イ 裁判所による扱い 『遺産分割手続』は一時停止となる
裁判所が、いったん取り下げることを勧告する
→前提問題の解決後、当事者が改めて申し立てる
※『月報司法書士2011年12月』日本司法書士会連合会p3

7 遺産分割の前提問題|既判力の作用

『前提問題』の訴訟からメインの遺産分割へのつながりを説明します。
訴訟が判決で終わった場合、その判決には『既判力』が生じるのです。
これについてまとめます。

遺産分割の前提問題|既判力の作用

あ 訴訟の効果|既判力

前提問題が訴訟→判決確定に至った場合
→『確定判決』には既判力がある

い 既判力の意味

その後の裁判が『確定判決』に拘束される
=判決内容を前提として別の判断を行う

う 既判力の有無

裁判形式 既判力の有無 訴訟手続→判決 あり 審判手続→決定 なし 調停手続→調停調書 なし

既判力については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|家事審判|対立構造|緩和的|不成立なし・処分権主義・既判力

8 遺産分割審判における遺言に関する判断→可能だが既判力なし

遺言の存否は、遺産分割の前提問題です(前述)。
これについて遺産分割審判で判断することは可能です。ただ、その後別の訴訟で判断が変わることもあります。
そこで通常は遺産分割とは別の訴訟で遺言の有効性を判断するという手法がとられます。

遺産分割審判における遺言に関する判断→可能だが既判力なし

あ 審判における判断

遺産分割審判で前提問題となる権利関係を判断することができる
その判断には既判力は生じない
詳しくはこちら|遺産分割審判における相続権の有無の審理(非訟手続の前提問題・最決昭和41年3月2日)

い 現実的な手法

『遺産分割』の手続とは別に『遺言確認』の手続(訴訟)を行う(前述)

本記事では、遺産分割の前提問題について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割などの相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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