【『占有』の判断|刑事|窃盗罪・不動産侵奪罪】
1 窃盗罪;刑法235条|『占有移転』で成立
2 不動産侵奪罪|侵奪=所有者の占有排除+自己の占有獲得
3 不動産侵奪罪|代表的なケース=塀で土地を囲む
4 不動産侵奪罪|判断が曖昧になるケース|賃貸借との関係
5 不動産侵奪罪|判断が曖昧になるケース|賃貸借との関係
6 不動産侵奪罪|公訴時効vs取得時効|『長期化』の衝突
1 窃盗罪;刑法235条|『占有移転』で成立
占有の判断は民事的に問題となることが多いです。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
一方,刑法,つまり犯罪に関しても『占有』が重大な問題となることがあります。
刑法上の『占有』の判断に関して説明します。
まず,代表的なものは『窃盗罪』です。
<窃盗罪の『窃取』の解釈論;刑法235条>
占有者の意思に反して財物の占有を取得すること
※大審院大正4年3月18日
※大審院大正15年12年24日
窃盗罪は,対象が動産なので,『ポケットに入れる』など『占有移転』は比較的単純です。
2 不動産侵奪罪|侵奪=所有者の占有排除+自己の占有獲得
『窃盗罪』の不動産バージョンとして『不動産侵奪罪』という犯罪があります。
『土地境界』『土地賃貸借』『土地の時効取得』などの本来民事的なトラブルの中で不動産侵奪罪が問題なることはありがちです。
この点,不動産侵奪罪は条文上『侵奪(する)』としか記載されていません。
この解釈は,窃盗同様に『占有移転』とされています。
<不動産侵奪罪の『侵奪』の解釈論;刑法235条の2>
あ 『侵奪』の解釈
所有者の占有を排除し,これを自己又は第三者の占有に移すこと
い 判断要素
次の要素を総合的に考慮する
ア 不動産の種類イ 占有侵害の方法・態様ウ 占有期間の長短エ 原状回復の難易オ 占有排除・占有設定の意思の強弱カ 相手方に与えた損害の有無
※最高裁平成12年12月15日
『占有を移す』とは言っても,ポケットに入るモノではないので,具体的行為は大掛かりになります。
3 不動産侵奪罪|代表的なケース=塀で土地を囲む
まずは分かりやすい具体例を挙げます。
<不動産侵奪罪の実例|判例>
あ ブロック塀で囲った→『侵奪』にあたる
他人の土地の周囲に,半永久的で容易に除去し得ないコンクリートブロック塀を設置して,資材置場として利用する行為
→『侵奪』に当たる
※最高裁昭和42年11月2日
い 一時的な排水口設置→『侵奪』にあたらない
他人の土地に無断で排水口を設置しても,一時利用の目的であって原状回復が容易であり,損害も皆無に等しい
→『侵奪』に当たらない
※大阪高裁昭和40年12月17日
『所有者を排除』した状態と言えるかどうかがポイントになります。
4 不動産侵奪罪|判断が曖昧になるケース|賃貸借との関係
上記ケースはある程度『分かりやすい』ものです。
現実には『土地の賃貸借』や『土地境界付近』では判断がブレるものもあります。
一見民事的なトラブルでも『刑事事件に発展』するリスクがある,とも言えます。
具体的事例を紹介します。
<不動産侵奪罪|土地の賃借人が廃棄物を堆積>
あ 裁判所の評価
賃借人は利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させた
→容易に原状回復をすることができない状態となった
→土地の利用価値を喪失させた
い 裁判所の判断(結論)
『所有者の占有を排除した』+『自己(賃借人)の支配下に移した』
→不動産侵奪罪が成立する
※最高裁平成11年12月9日
5 不動産侵奪罪|判断が曖昧になるケース|賃貸借との関係
不動産侵奪罪に関する別の判例を紹介します。
<不動産侵奪罪|簡易建物の設置>
あ 物理的状況
敷地全体=約110平方メートル
建築面積=敷地中心部約64平方メートル
容易に倒壊しない骨組みを有する構造である
→土地の有効利用は阻害され,その回復も容易なものではなかった
い 主観的状況
土地所有者の警告を無視して簡易建物を構築した+相当期間,退去要求に応じなかった
→占有侵害の態様は高度で,占有排除及び占有設定の意思も強固である+与えた損害も小さくなかった
う 権利関係
建築者(被告人)は,土地につき何ら権原がなかった
え 裁判所の判断(結論)
『侵奪』を認めた=不動産侵奪罪成立
※最高裁平成12年12月15日
6 不動産侵奪罪|公訴時効vs取得時効|『長期化』の衝突
不動産の『占有を獲得』した場合,刑事的には不動産侵奪罪となり得ます。
同時に,民法上,一定期間の占有により,『取得時効』が成立することもあります。
片方は『犯罪』となるルールと『所有権を獲得する』ルールが競合するのです。
この点,不動産侵奪罪の公訴時効は7年です。
取得時効の期間は原則として20年です。
『7年目まではいつ捕まるかビクビクして,それ以降は安心して20年達成を待つ』とまとめられます。
ただし実際には『無断で占有開始』という場合には自主占有が否定され,取得時効が成立しないこともあります。
ここまで単純に『重複』するわけではないです。
詳しくはこちら|取得時効における自主占有(所有の意思)の主張・立証と判断基準
詳しくはこちら|公訴時効|一定期間の経過により刑事責任から逃れる制度