【目的外動産の特殊な売却手続(即時・即日・近接日売却・緊急換価)】
1 目的外動産の売却|売却手続の一般論・基本
建物明渡の強制執行において目的外動産を売却することがよくあります。
通常の方式は執行官保管の後に売却を実施するものです。
詳しくはこちら|土地・建物明渡の強制執行における目的外動産の処理(執行官保管・廃棄処分)
『目的外動産の売却』手続に共通するルール・フローをまとめます。
目的外動産の売却の基本
あ 手続の方式
動産執行の方式が準用される
※民事執行法168条6項、規則154条の2第1項
い 明渡実現の簡略化
実務上、売却の際、『債権者』が買い取ることが多い
この場合『搬出』が不要で『明渡完了』(建物の占有移転)となる
2 目的外動産の売却|例外的扱い=差押禁止・無益執行も可能
『目的外動産の売却』については『一般的な動産売却』と比べて例外扱いがあります。
目的外動産の売却と例外的扱い
あ 『差押禁止動産』は適用されない
目的外動産としての売却は可能
※神戸地裁平成6年10月18日
《一般的な『差押禁止動産』|例》
ア 生活必需品イ 66万円以下の現金
※民事執行法131条1項、3項、民事執行法施行令1条
※最高裁判所事務総局民事局監修『執行官提要』第5版 法曹会p168
い 『無益執行の禁止』は適用されない
一般的な差押では『無益執行』が禁じられる
しかし『目的外動産』の場合は適用されない
理由=『明渡執行を完了させる』のが目的であるため
《一般的な『無益執行の禁止』》
『売却代金』が『手続費用の額』を超える見込みがない→差押禁止
※民事執行法129条
『目的外動産』の中に『登録自動車(軽自動車以外の普通自動車)』がある場合は手続の形式が特殊です。
民法上『動産』ですが、民事執行法では『動産執行』から除外されている、という形式的な理由です。
登録自動車の売却
→執行裁判所が競売手続を開始する
※民事執行規則86条
3 目的外動産の処分|即日売却・近接日売却
目的外動産の売却は『執行官保管』の後に行われるのが一般的です(前述)。
一方、特殊な売却手続、も用意されています。
『断行日当日』『断行日の1週間後以内』に売却を実施するものです。
『執行官保管を省略』して時間・費用・労力のコストを削減する趣旨の制度です。
これらの特殊な売却方法についてまとめます。
即日売却・近接日売却の要件
あ 要件
ア 断行日に債務者に引渡ができなかったイ 相当期間内に債務者などに引き渡せる見込みがないウ 高価ではない
※民事執行法168条5項
※民事執行規則154条の2第2項、3項、4項
い 典型的な事情
ア 債務者が現場で『引取意思なし』と述べた場合イ 債務者不在でも『引取意思なし』と判断できる場合
う 売却の種類
即日売却・近接日売却ができる
4 目的外動産|即日売却・近接日売却|『高価な動産』の判断
即日売却・近接日売却の際に、『高価』の判断が問題になりやすいです。
『高価な動産』の判断・例
あ 評価がすぐにできない
《具体例》
ア 書画骨董などの美術品イ 宝石・貴金属ウ 機械
い 価値が高いことが分かる
《具体例》
ア 大型冷蔵庫イ 大型液晶・プラズマテレビジョンウ 高級家具
5 即時・即日・近接日売却の違いと選択基準
即日売却と近接日売却のどちらを選択するかの判断、をまとめます。
即時・即日・近接日売却の違いと選択基準
あ 売却のタイミング
売却の種類
売却を実施するタイミング
即時売却
催告の時
即日売却
断行の日
近接日売却
断行から1週間未満の日
※民事執行規則154条の2第3項
い 即時・即日・近接日売却の選択基準(目安)
重視する事項 選択する売却の種類 明渡完了=動産を取り除く 即日売却 換価価値=より高価での売却 近接日売却
う 実務の傾向
即日売却が実務では最も利用されている
※日本司法書士会連合会『月報司法書士』2016年11月p21
実務上は、執行官が債権者に意見を尋ね、これを尊重しています。
6 目的外動産の処理|緊急換価=生鮮食品・ペットなど
『売却』手続のうち、さらに特殊なものもあります。
緊急換価の手続
あ 要件
次のいずれかが見込まれる
ア 著しい価値の減少イ 物件の価値に比べて多額の保管費用を要する
例;生鮮食品、ペット
い 緊急換価
緊急換価ができる
売却代金は執行官が供託する
※民事執行法137条、民事保全法49条3項類推適用
このような特殊な動産については、当然ですがあまり判断に迷わずに『緊急換価』が選択されます。
7 明渡執行とは別に『動産執行』を債権者が申し立てる方法
以上のように『目的外動産』は『明渡執行』の中で一定の処理がされるようになっています。
言わば『標準装備』なのです。
この『標準装備』は便利なのですが、ちょっと不便なところ=弱点、もあります。
弱点とその対応方法をまとめます。
即日売却・近接日売却の弱点と対応
あ 即日売却・近接日売却の弱点
『債務者に引き渡せる見込みがない』とは言い切れないと発動できない
い 対応=動産執行申立
債権者が『動産執行』を申し立てる
一般の動産執行では『債務者への引渡見込みなし』でも遂行される