【休眠担保権抹消手続|基本|3つの種類・利用実績・典型例】
1 抹消し忘れの抵当権登記の抹消×簡略化
2 休眠担保権抹消手続|種類・概要・利用実績
3 休眠担保権抹消手続|典型例
4 種類1;公示催告+除権決定
5 種類2;公示催告+担保権消滅の証明情報提供
6 種類3;公示催告+金銭供託|特徴
7 種類3;公示催告+金銭供託|要件
8 休眠担保権抹消手続×不正・不当な利用
1 抹消し忘れの抵当権登記の抹消×簡略化
抹消し忘れて放置された抵当権登記が問題となることがあります。
この場合の原則的な抹消方法は不合理な面があります。
<抹消し忘れの抵当権登記の抹消×簡略化>
あ 原則論
原則論としては『共同申請or訴訟』の手続が必要である
(別記事『原則論』;リンクは末尾に表示)
い 不合理性
実質的なトラブルではない
その割に過大な手間を要する
う 簡略化手続=休眠担保権抹消手続
不動産登記法上,簡略化した手続がある
簡略化された手続の内容については次に説明します。
2 休眠担保権抹消手続|種類・概要・利用実績
休眠担保権抹消手続の種類や概要をまとめます。
<休眠担保権抹消手続|種類・概要・利用実績>
あ 共通する要件
担保権者の所在が不明である
い 手続の種類
手続の種類・概要 | 条文;不動産登記法 |
公示催告+除権決定 | 70条1項,2項 |
公示催告+担保権消滅の証明情報提供 | 70条1項,3項前段 |
公示催告+金銭の供託 | 70条1項,3項後段 |
う 手続の利用実態
『公示催告+金銭供託(3項後段)』以外はほとんど使われていない
※鎌田薫ほか『新不動産登記講座第5巻各論2』日本評論社p257
休眠担保権抹消手続には3種類があるのです。
それぞれの内容については後述します。
3 休眠担保権抹消手続|典型例
休眠担保権抹消手続を利用する状況の典型例をまとめます。
<休眠担保権抹消手続|典型例>
あ 親族間の貸し借り
『被告=担保権者』は抵当権者の相続人である
→相続人も一定の血縁関係者である
→『所在が知れない』と状況にはないことが多い
→『休眠担保権の抹消手続』を利用できない傾向がある
い 金融機関・法人からの借入
廃業により,実質的な所在がない,ということが生じやすい
→『休眠担保権の抹消手続』を利用する実例が多い
4 種類1;公示催告+除権決定
休眠担保権抹消手続のうち条文上の1つ目の方法をまとめます。
<種類1;公示催告+除権決定>
あ 手続|概要
公示催告を簡易裁判所に申し立てる
→除権判決を得る
※非訟事件手続法141条
※不動産登記法70条1項,2項
※不動産登記令別表『26』添付情報欄『ロ』
い 特徴
通常の訴訟よりは大幅に緩和されている
詳しくはこちら|公示催告・除権決定|手形・小切手・休眠担保権→失権させる
5 種類2;公示催告+担保権消滅の証明情報提供
休眠担保権抹消手続のうち2つ目の方法についてまとめます。
<種類2;公示催告+担保権消滅の証明情報提供>
あ 手続|概要
登記申請時に次の両方の資料を添付し法務局に提出する
ア 債権証書イ 担保権消滅の証明情報
次の完全な弁済があったことを証明する情報
『被担保債権+最後の2年分の定期金(損害金含む)』
※不動産登記令別表『26』添付情報欄『ハ(1)』
い 特徴
被担保債権の消滅の証明方法が緩和されている
原則論では訴訟上,厳格な証明が必要である
この手続では定型的な資料だけで足りる
6 種類3;公示催告+金銭供託|特徴
休眠担保権抹消手続のうち3つ目の方法の特徴をまとめます。
実務上最もよく利用されるものです。
<種類3;公示催告+金銭供託|特徴>
『休眠担保権抹消手続』の中で最も利用頻度が高い
一定の金銭の準備が必要である
供託金は非常に少額であることが多い
他の資料・情報として必要なものは実質的にない
7 種類3;公示催告+金銭供託|要件
『公示催告+金銭供託』による休眠担保権抹消手続の要件をまとめます。
<種類3;公示催告+金銭供託|要件>
あ 担保権者が所在不明である
休眠担保権抹消手続に共通する要件である
い 20年の経過
被担保債権の弁済期から20年が経過している
う 供託の証明情報の添付
登記申請時に次の証明情報を添付して法務局に提出する
債権・利息・損害金の全額を供託したことの証明情報
供託した時期は『イ』に該当する必要がある
※不動産登記令別表『26』添付情報欄『ニ(2)』
8 休眠担保権抹消手続×不正・不当な利用
休眠担保権抹消手続は原則的な方法を大幅に緩和させたものです。
逆に言えば,審査が緩いので『不正・不当な利用』がされることも生じます。
手続が不正・不当に利用されてしまった場合の扱いについてまとめます。
<休眠担保権抹消手続×不正・不当な利用>
あ 不正・不当な利用|前提事情
不当・不正な方法でこの制度を利用した
実際には要件を満たしていなかった
い 法的な結論
ア 実体的な権利に変動はないイ 対抗力は喪失しない
登記抹消の効果としての『対抗力喪失』も否定される
=対抗力は維持される
※大判大正12年7月7日
※最高裁昭和36年6月16日
う 登記の『抹消回復』
抹消回復の制度がそのまま適用される
原則=共同申請
判決を得れば単独申請が可能