【相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する】
1 相続人が存在しないと最終的に国が遺産を承継する
人が亡くなった場合、原則として相続人が財産を承継します。
しかし相続人が一切存在しないという状態で亡くなる方がいらっしゃいます。
この場合は、最終的に国が遺産を承継します。
本記事では国庫帰属の基本的な内容を説明します。
まずは、国庫帰属の規定の内容をまとめます。
相続人不存在による国庫帰属
あ 相続人による承継(参考)
Aが亡くなった場合
相続人が遺産を承継する
詳しくはこちら|相続人の範囲|法定相続人・廃除・欠格|廃除の活用例
い 相続人不存在による国庫帰属
故人Aの相続人が一切存在しない場合
→最終的に、財産は国庫(国)に帰属する
※民法959条
2 相続人不存在の典型例は相続人以外との同居や相続放棄
相続人が不存在となる状況は、孤独な一人暮らしというイメージがあります。
しかし、実際には親密な同居人がいるとか、親族はいるけど相続放棄をしたというケースもよくあります。
相続人不存在の典型例
あ 相続人以外との同居
故人が生前、親密な者(ア・イ)と同居していた
孤独な一人暮らしではなかった
同居人は民法上の相続人ではなかった
ア 故人が従兄弟と同居していたイ 故人が内縁の妻と2人で同居していた
い 相続放棄による相続人不存在
相続人であった者の全員が相続放棄をした
→法的に相続人が存在しない状態となった
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
3 共有者の相続人不存在では他の共有者へ帰属する
(1)共有者の相続人不存在による他の共有者への持分帰属
共有者の1人が亡くなって相続人が存在しない場合は、国庫帰属にはなりません。
他の共有者が持分を承継する結果となります。
共有者の相続人不存在による他の共有者への持分帰属(※1)
あ 前提事情
共有者の1人が亡くなった
故人に相続人が一切存在しない
い 財産の承継
他の共有者に共有持分が帰属する
※民法255条
共有不動産の共有者の1人が亡くなっても国庫帰属にはならないのです。
つまり国が共有者に入ってくるということはないのです。
(2)課税→相続税または法人税(益金)
共有者の相続人が不存在のため、共有持分が他の共有者に帰属した場合の課税関係を説明します。
相続がトリガーとなって無償で財産が移転したことになるので個人であれば相続税、法人であれば法人税のカウント上の益金が発生したことになります。
課税→相続税または法人税(益金)
まず、持分を取得した共有者が個人の場合、持分取得の原因は遺贈によるものとして取り扱われ、相続税の課税対象になるものとされている(相基通9-12)。
一方、持分を取得した共有者が法人の場合には、死亡した個人には課税関係は生じず、取得した法人に益金が生ずる。
※東京弁護士会編著『法律家のための税法 民事編 新訂第8版』第一法規2022年p55、56
4 家裁が特別縁故者への遺産承継を認めることがある(概要)
内縁の妻(夫)は、法律上の相続人ではありません。
しかし、相続人が存在しない場合に限って、家庭裁判所が特別縁故者と認める手続があります(民法958条の3)。
特別縁故者として認められた場合、遺産の承継が認められます。
詳しくはこちら|特別縁故者の基本(承継する財産の範囲・複数の者・手続外での財産承継・審理の特徴)
5 相続人不存在による遺産の承継の優先順序
相続人が不存在の場合の遺産の承継に関する規定は3つあります(前記)。
優先順序は、特別縁故者への財産分与が最優先で、次に他の共有者への帰属となります。
最後の手段として、国庫帰属が位置づけられます。
相続人不存在による遺産の承継の優先順序
あ 優先順序
相続人不存在に適用される3つの規定の適用について
『ア』が最も優先される
ア 特別縁故者への財産分与(民法958条の3)イ 共有持分の他の共有者への帰属(民法255条)ウ 国庫帰属(民法959条)
い 判例
民法958条の3(ア)が優先である
民法958条の3(ア)が適用されない場合
→民法255条(イ)が適用される
※最高裁平成元年11月24日
特別縁故者の財産分与は、家庭裁判所の判断・裁量があります。
特別縁故者を優先にすると個別事情に応じた家裁のコントロールが可能です。
これが判例の見解の理由となっています。
6 相続人不存在による共有持分の権利変動の時点
前記の優先順序を元にすると、共有者が亡くなり、その相続人が存在しない場合でも、すぐに他の共有者に持分が帰属するわけではありません。特別縁故者への財産分与がないことが決まって初めて他の共有者が持分を取得します。つまり、他の共有者の持分取得は、相続人不存在が確定した時ということになります。判例がこの見解を示し、登記実務でも、これを登記原因日付としています。
これを前提とすると、相続財産清算人(令和3年改正前の相続財産管理人)が選任されている状況でも、特別縁故者への財産分与をしないことが確定していない時点では、相続財産法人が共有持分を有する(共有者である)ということになります。そこでこの時点で共有物分割請求や(共有持分放棄に伴う)登記引取請求をする際は、相続財産法人が当事者(被告)となります。
詳しくはこちら|被告とする共有者が亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合の対応
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記と固定資産税(台帳課税主義・登記引取請求)
相続人不存在による共有持分の権利変動の時点
あ 条文規定(前提)
共有者に相続が開始し、相続人が不存在である場合
→当該共有持分は他の共有者に帰属する(前記※1)
※民法255条
い 権利帰属の時点に関する解釈
ア 従来の判例
(亡くなった共有者の)他の共有者が共有持分を取得する時点について
相続人がないことが確定した時である
※大決大正6年9月6日
※東京高裁昭和40年3月5日
イ 平成元年判例(※2)
相続人の不存在が確定し、かつ特別縁故者への財産分与がなされないことが確定したとき
具体的には、民法958条の3第2項の期間の満了の日の翌日または期間内に同条1項の請求があり、かつ、分与しないという内容の審判が確定した日の翌日となる
※最高裁平成元年11月24日(趣旨)
※石田剛『共有者の1人が相続人なくして死亡したときのその持分の帰趨』/松本恒雄ほか『判例プラクティス民法Ⅲ親族・相続』p156
ウ 他の見解
相続開始時(=被相続人の死亡の時)とすべきである
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p464、465
う 登記実務
登記原因=特別縁故者不存在確定
原因日付=(前記※2の日)
※平成3年4月12日民三第2398号民事局長通達、香川保一『新訂不動産登記書式精義(上)』p1592、1593
7 知的財産権は国庫帰属を適用されない
特許権や著作権のような知的財産権は、相続人が不存在の場合は権利が消滅します。
そのため、国庫帰属が適用されることはありません。
知的財産権についての国庫帰属の適用除外
あ 権利の消滅
特許権、著作権、商標権、実用新案権などについて
相続人不存在の場合における権利の消滅の規定がある
→これらの権利の国庫帰属はありえない
※特許法76条
※著作権法62条1項1号
※商標法35条
※財産管理実務研究会編『不在者・相続人不存在財産管理の実務 新訂版』新日本法規出版2005年p307
い 反対説の存在
特許権の国庫帰属を認める方向性の見解もある
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)相続(2)』有斐閣1989年p740、741
8 関連テーマ
(1)相続財産清算人が遺産の管理や処分を行う
相続人が存在しない場合、最終的に国庫帰属となります(前記)。
実際には、権利を国に引き継ぐ手続を行う必要があります。
しかし、所有者は既に亡くなっていますし、権利を承継する相続人も存在しません。
そこで、相続財産清算人が選任される制度があります。
相続財産清算人が、登記手続や引き渡しなどの国庫への引き継ぎや、賃貸不動産などの暫定的な管理業務を行います。
詳しくはこちら|相続債権者による相続財産清算人の選任手続と換価・配当の流れ
本記事では、個人が亡くなった後に相続人が存在しない場合の財産の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって最適な法的手段・アクションは違ってきます。
実際に相続人が見当たらないことによる問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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