【債務不履行責任・不法行為責任の関係(請求権競合)と内容の違い】
1 債務不履行責任・不法行為責任の関係(請求権競合)と内容の違い
2 2種類の責任の典型例
3 債務不履行責任と不法行為責任の関係(請求権競合)
4 説明義務違反における3つの責任の関係
5 債務不履行責任と不法行為責任の違い
6 債務不履行責任における慰謝料
1 債務不履行責任・不法行為責任の関係(請求権競合)と内容の違い
民法上の典型的な責任には,債務不履行責任(契約責任)と不法行為責任の2種類があります。
本記事では,この2つの責任の関係や内容の違いについて説明します。
2 2種類の責任の典型例
まず,2種類の責任の典型例をまとめておきます。
<2種類の責任の典型例>
あ 債務不履行責任
ア 不動産に関する取引
賃貸借契約,売買契約に規定した債務の不履行
例=賃料支払,代金支払,登記移転の遅滞など
イ 婚姻予約(婚約)
婚約破棄による損害賠償
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
ウ 状況から認められる義務
安全配慮義務違反(不履行)による損害賠償
例=職場の環境整備を怠ったケース
い 不法行為責任
例=交通事故,不貞行為(不貞相手に対して),傷害事件
3 債務不履行責任と不法行為責任の関係(請求権競合)
債務不履行責任と不法行為責任は,いずれも被害者を保護(救済)するためのものです。被害者保護を充実させるために,被害者は,2つの責任のうちどちらでも請求できることになっています。
<債務不履行責任と不法行為責任の関係(請求権競合)>
あ 2つの責任の関係(請求権競合)
不法行為は,契約関係にある当事者間で生じる場合も少なくない
不法行為責任と債務不履行責任(契約責任)の関係は請求権競合となる
民法の枠内においては,被害者保護の観点から,2つの請求権が競合的に認められる
被害者が自由に選択できる
い 請求権競合が生じる典型的状況
不法行為法上の権利・法益の保護のために,当事者間の契約によって重ねて債務が設定されている場合には,契約違反(債務不履行)と並んで不法行為が成立する
※最高裁昭和50年2月25日;安全配慮義務違反について
※最高裁平成6年2月22日;安全配慮義務違反について
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法4 債権総論』第一法規出版2009年p61
※窪田充見編『新版注釈民法(15)債権(8)』有斐閣2017年p260
4 説明義務違反における3つの責任の関係
複数の責任(の種類)が同時に成立する状況の典型は,説明義務違反のケースです。
説明義務違反が問題となった多くの裁判例で,債務不履行責任と不法行為責任の両方が認められることが示されています。さらに,契約締結上の過失という(種類の)責任が認められることもあります。
詳しくはこちら|契約締結上の過失(全体)
<説明義務違反における3つの責任の関係>
あ 説明義務(情報提供義務)
契約当事者間に情報を収集する能力や専門的知識において著しい格差がある場合
当事者の一方から他方に対して情報を提供すべき義務が課せられることがある
このような義務を情報提供義務ないし説明義務という
※野澤正充稿『情報提供義務(説明義務)違反』/『法学教室273号』有斐閣2003年6月p34
い 説明義務違反の法律構成
(説明義務(あ)の不履行があったケースにおいて)
損害賠償請求の法律構成としては,契約締結上の過失のほか,債務不履行および不法行為が援用される
判決の多くは,不法行為の問題として捉えている
※野澤正充稿『情報提供義務(説明義務)違反』/『法学教室273号』有斐閣2003年6月p38
う 説明義務違反による責任を肯定した裁判例
説明義務の不履行による損害賠償請求を認容した裁判例
(法律構成の区別なし)
※京都地裁平成3年10月1日
※東京地裁平成5年11月29日
※名古屋地裁平成10年3月18日
※東京高裁平成11年10月28日
5 債務不履行責任と不法行為責任の違い
以上のように,被害者は債務不履行責任と不法行為責任のどちらでも請求することができます。では,実際にどちらを請求すべきか,ということが問題となります。
それぞれの責任には,いろいろな面で違いがあります。そこで,具体的状況において有利な方の責任を選択して主張することになります。
<債務不履行責任と不法行為責任の違い>
(項目) | 債務不履行責任 | 不法行為責任 |
要件 | 債務者が帰責事由のないことを証明する | 債権者が加害者の故意・過失と因果関係を証明する |
損害賠償の範囲 | (同一である) | (同一である) |
時効 | 一般の債権の扱い | 民法724条 |
相殺(民法509条) | 制限なし | 制限あり |
慰謝料(自体) | あり(後記※4) | あり |
遺族固有の慰謝料(民法710,711条) | なし(※1) | あり |
遅延損害金の発生時期 | 催告の時(※2) | 損害発生の時(※3) |
※1 最高裁昭和55年12月18日
※2 最高裁昭和55年12月18日
※3 最高裁昭和37年9月4日
※窪田充見編『新版注釈民法(15)債権(8)』有斐閣2017年p560
6 債務不履行責任における慰謝料
慰謝料(精神的損害)についての民法上の規定は,不法行為に関するものしかありません。しかし,解釈としては,債務不履行責任による慰謝料も認められています。
<債務不履行責任における慰謝料(※4)>
あ 『損害』の解釈
一般に損害の中には精神的損害も含まれる。
民法710条は注意的規定である
※松坂佐一『民法提要 債権各論 第5版』有斐閣
い 民法710条の類推適用
債務不履行による損害賠償にも民法710条が類推適用される
※最高裁平成6年2月22日
※我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・債権・物権 第2版追補版』p743
本記事では,債務不履行責任と不法行為責任の2つの関係と内容の違いについて説明しました。
実際には,個別的な状況によってどのような請求が適しているか,ということは違ってきます。
実際に何らかの被害についての責任追及の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。