【学校でのスポーツ事故|判例|柔道|負傷・死亡事案】
1 判例|柔道×急性硬膜下血腫→過失肯定
学校でのスポーツ事故の責任問題で多いカテゴリは圧倒的に『柔道』です。
以下、柔道に関する事故の判例を紹介します。
<柔道×急性硬膜下血腫→過失肯定>
あ 事案
市立中学校柔道部における乱取り中の事故
顧問の教諭が、部員である生徒Aとの乱取り練習をしていた
教諭はAに絞め技をかけた
Aは意識を失った
Aはその後覚醒した
教諭とAは乱取り練習を再開した
練習中に、Aの頭部に強い回転力が加わった
Aの脳の血管が損傷した
急性硬膜下血腫の傷害に至った
い 裁判所の評価
一旦生徒が意識を失った
その後、練習の中止か十分な休憩・回復の措置を取るべきだった
意識回復後も練習を継続したこと
→過失にあたる
う 裁判所の判断
顧問の過失を認めた
※横浜地裁平成23年12月27日
2 判例|柔道×頸髄損傷→過失肯定
<柔道×頸髄損傷→過失肯定>
あ 事案
私立高校における体育(柔道)の授業中の事故
生徒同士で練習をしていた
組み合った後、生徒Aが生徒Bに背負い投げをした
Bが頭部から落下した
頸髄損傷の傷害に至った
い 裁判所の評価
生徒が受けていた受け身練習が1、2回程度であった
→習熟不十分である
他の怪我からの回復が不十分であった
→受け身の習得状況を確認するor練習参加を拒否すべきであった
→特段の確認をせずに練習に参加させたこと
→過失にあたる
う 裁判所の判断
授業を担当した教諭の過失を認めた
(ただし、教諭(個人)は被告に入っておらず、裁判所は学校の使用者責任を認めた)
※東京地判平成23年7月22日
3 判例|柔道×関節不安定症→過失肯定
<柔道×関節不安定症→過失肯定>
あ 事案
市立中学校における体育(柔道)の授業中の事故
生徒Aが生徒(女子)Bに技をかけた
Bは受け身を取ることができなかった
Bは床に右手を打ち付けた
外傷性遠位橈尺関節不安定症等の傷害に至った
い 裁判所の評価
女子生徒なので、筋力が(男子よりも)弱い
→練習量はより多く要求される
カリキュラムの量に比べ、確保されていた授業時間が少なかった
→受け身の習得が不十分であった
このような状態では『技を掛け合う練習』を避けるべきであった
段階的練習を経ないで、技を掛け合う練習を行ったこと
→過失にあたる
う 裁判所の判断
担当教諭の過失を認めた
Bにも過失があった
→3割の過失相殺を認めた
※熊本地裁平成23年1月17日
4 判例|柔道×急性硬膜下血腫・意識障害→過失肯定
<柔道×急性硬膜下血腫・意識障害→過失肯定>
あ 事案
私設の柔道教室における乱取り練習中の事故
小学6年の生徒Aが、教室の主催者(指導者)と乱取り練習をしていた
Aの頭部は強い回転力を受けた
脳の血管が損傷した
急性硬膜下血腫及び重度の意識障害に至った
い 裁判所の評価
生徒Aと指導者の体重差は40kgwであった
→体格差が大きい
力加減、が不十分であった
それまで練習した型(投げ方)ではなかった
力加減をするor練習済みの型(投げ方)を用いる、べきであった
力加減をせず、新たな型を用いたこと
→過失にあたる
う 裁判所の判断
主催者の過失を認めた
※長野地裁松本支部平成23年3月16日
5 判例|柔道×死亡→過失肯定
<柔道×死亡→過失肯定>
あ 事案
私設の柔道場における練習中の事故
中学1年の生徒Aが中学3年の生徒Bと大外刈りの投げ込み練習をしていた
Aが投げられた際に頭部を畳に打ち付けた
その数分後に倒れて立てなくなった
Aは病院に運ばれ手術を受けた
結局Aは、急性硬膜下血腫により死亡した
い 裁判所の評価
指導者の入門者への配慮が不十分だった
柔道場の館長は、個々の指導者を統括する責任を負っている
う 裁判所の判断
柔道場の館長の過失を認めた
※広島地裁平成21年8月7日
6 柔道×急性硬膜下血腫→過失否定
柔道での事故について過失が否定された判例です。
事故の前の経緯から『十分な注意が払われていた』という判断です。
結局『非常に運が悪かった』状態であると判断されたようなものです。
<柔道×急性硬膜下血腫→過失否定>
あ 事案
市立中学校柔道部における乱取り練習中の事故
1年生Aと2年生Bが乱取り練習をしていた
BがAに大外刈りをかけた
Aは頭部を畳に強打した
Aは急性硬膜下血腫の傷害に至った
い 裁判所の評価
Aは約3か月間、受け身の練習をしていた
→十分な練習量である
乱取り経験数十回+回し乱取り3回+対外試合3回
→十分な練習量
過去の練習中に大外刈をかけられる場面もあった
+その時危険性を感じる状況はなかった
→(今回の)乱取りに参加させた
う 裁判所の判断
顧問教諭の過失を認めなかった
※最高裁平成9年9月4日