【役員の解任|損害賠償・正当な理由|報酬減額・不支給|辞任強要】
1 役員の解任|基本|株主総会で自由に決定できる
会社における取締役・監査役を役員と総称します。
役員の立場を解消する『解任』という手続があります。
解任は有効性や金銭的な清算の問題と直結します。
本記事では役員の解任に関して説明します。
まずは基本的な事項をまとめます。
役員の解任|基本
あ 解任の決定
ア 原則
株主総会の普通決議
→議決権の過半数の賛成
イ 例外
定款で決議要件を加重できる
※会社法339条、309条1項
い 解任の制限
『いつでも』解任できる
=解任自体には制限はない
※会社法339条1項
う 損害賠償
解任に『正当な理由』がない場合
→解任された者は会社に損害賠償を請求できる
※会社法339条2項
要するに、会社が解任することは止められないが金銭的清算は別、ということです。
2 『正当な理由』の有無|基本的解釈
役員を解任した時に『正当な理由』の有無で損害賠償の責任が違ってきます(前述)。
まずは『正当な理由』の基本的な解釈論をまとめておきます。
『正当な理由』の有無|基本的解釈
職務への著しい不適任
※東京地裁平成11年12月24日;ポップマート事件・第1審
より具体的な内容・判断については次に説明を続けます。
3 『正当な理由』|認められる典型例
役員解任の『正当な理由』が認められる典型例をまとめます。
『役員の立場を維持すること』の方が不合理、と言えるような状況です。
『正当な理由』|認められる典型例
あ 職務執行における法令・定款違反行為
ア 横領・背任行為
例;特定の取引先の癒着
イ 定款の手続に反する職務執行
い 心身の故障
職務執行が困難である状況(後記)
う 著しい能力不足
程度・状況により判断される(後記)
4 『正当な理由』|争われる典型的事情
『正当な理由』に該当するかどうか、見解が対立することがよくあります。
典型的な状況・理由と判断の方向性をまとめます。
『正当な理由』|争われる典型的事情
あ 病気・療養
病気の療養に専念することが必須の状態
→解任の『正当の理由』に該当する
※最高裁昭和57年1月21日
い 著しい能力不足|基本
程度によっては『不適任』である
→解任の『正当の理由』に該当する
う 著しい能力不足|判例
監査役が、明らかな税務処理上の過誤を犯した
→解任の『正当の理由』を認めた
※東京高裁昭和58年4月28日
5 『正当な理由』|認められない典型例
『正当な理由』として認められないケースも多いです。
ほぼ確実に否定される事情をまとめます。
『正当な理由』|認められない典型例
あ 主観的事情・信頼関係喪失
ア 大株主の好みイ より適任な候補者がいる
→いずれも『業務執行の障害』ではない
=『正当の理由』は認められない
い 経営判断の失敗
ア 通常
結果的に会社が損失を被ったようなケース
→『正当の理由』は認められない
イ 例外=特殊事情
判断自体が能力不足に起因する場合
→『正当の理由』が認められることもある(前記)
6 正当な理由なしの解任×損害額
解任の『正当な理由』がないと判断されると『損害賠償』が必要となります。
ここでの『損害額』の算定についてまとめます。
正当な理由なしの解任×損害額
あ 基本的枠組み
取締役が解任されなければ得られた報酬
い 内容
ア 満期までの役員報酬イ 満期までの役員賞与ウ 任期満了時の退職慰労金
※大阪高裁昭和56年1月30日
※東京地裁平成11年12月24日;ポップマート事件・第1審
7 任期の定めがない場合×損害賠償請求|特例有限会社
役員の『任期』自体が設定されていない、ということもあります。
この場合の『解任に伴う損害賠償』の法的な扱いをまとめます。
任期の定めがない場合×損害賠償請求
あ 任期の定めがない役員
『特例有限会社』だけで生じることがある
い 損害賠償請求の可否
明確・画一的な解釈はない
個別的な事情によって異なる
う 主な判断要素|個別的事情
『随時の解任』が想定されていたか否か
え 法律構成の特徴
法的根拠が『民法の委任』の規定となることもある
→『不利な時期』の『委任の解除』による損害賠償請求
※民法651条2項
8 役員の報酬×一方的な減額・不支給
『解任』とは違いますが『報酬の減額・不支給』がなされるケースも多いです。
この場合の法的な扱いについてまとめます。
役員の報酬×一方的な減額・不支給
あ 『報酬額の合意』の性格
いったん成立すると合意がない限り変更できない
明確な合意がなくても支払実績から認定されることもある
い 変更の効力が生じない例
株主総会で『報酬額変更』を決議した
→『会社側』だけの意思である
→『役員本人』が同意しない限り『変更』したことにならない
う 例外=特殊事情
もともと『役職によって報酬基準(金額)が異なる』場合
→『役職の変更』が生じた時に報酬額も変更される
9 『辞任』強要→効力否定|具体的状況で判断される
『解任』の場合は、会社に金銭支払義務が生じることが多いです(前述)。
そこで、会社側としては『解任』を避けつつ『退任』させることがあります。
このようなケースに関する扱いの概要をまとめます。
『辞任』強要→効力否定
あ 『辞任』強要|状況
会社側は『解任』を避けつつ役員退任を実現する意図を持った
会社側が取締役に『辞任する』ことを一方的に迫った
形式的に『辞任』の手続がなされた
例;辞任届への調印を要請された
い 法的な判断・扱い
『辞任』としての法的効力が否定されることがある
う 辞任の効力が否定された場合
役員としての立場が存続する
報酬支払義務・請求権が継続的に生じている
『辞任』を無効とする扱いは『退職強要』と同じようなものになります。
詳しくはこちら|退職の強要と意思表示(退職届)の無効(全体・判断基準・紛争予防)