【建物明渡|法的手続|基本・流れ|占有移転禁止/断行の仮処分】
1 建物明渡|法的手続|基本・流れ
2 建物明渡|法的手続|占有移転対策=占有移転禁止の仮処分
3 建物明渡|法的手続|長期化対策=断行の仮処分
4 建物明渡|断行の仮処分|認められる類型
5 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|原則/例外
6 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|例外・具体例
7 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|該当しない・具体例
1 建物明渡|法的手続|基本・流れ
建物の賃貸借では『賃料滞納』など,明渡を実現する場面があります。
入居者が自主的に退去しない場合に,強制的な手段を利用することもよくあります。
建物明渡の法的な手続の基本的な流れをまとめます。
<建物明渡|法的手続|基本・流れ>
あ 債務名義取得
明渡請求訴訟提起
→勝訴判決=認容
→判決確定
確定判決は『債務名義』の1つである
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など
い 強制執行
明渡の強制執行を裁判所に申し立てる
→執行官が明渡の断行を行う
詳しくはこちら|建物明渡強制執行×目的外動産の処分|基本|判断方法・基準
なお、建物明渡は土地明渡とは共通する部分も多いです。
関連コンテンツ|借地の明渡請求の手続の流れ;仮処分,合意の項目,強制執行
2 建物明渡|法的手続|占有移転対策=占有移転禁止の仮処分
建物明渡の法的手続では『占有移転』に注意しなくてはなりません。
典型的な困る場面とその対策をまとめます。
<建物明渡|法的手続|占有移転対策>
あ 占有移転による弊害
明渡請求訴訟の係属中に『占有者』が変わった場合
→仮に確定判決を獲得しても強制執行ができない
→新たな『占有者』に対して別途訴訟を提起する必要がある
実際に『妨害策』として占有移転がなされるケースもある
い 占有移転対策
『占有移転禁止の仮処分』を行う
→仮に占有移転が行われても『執行不能』にはならない
詳しくはこちら|民事保全(仮差押・仮処分)の基本|種類と要件|保全の必要性
3 建物明渡|法的手続|長期化対策=断行の仮処分
建物明渡の法的手続は『長期化』することもあります。
この問題点と対策についてまとめます。
<建物明渡|法的手続|長期化対策>
あ 長期化による弊害
明渡請求訴訟の勝訴判決獲得までに時間を要する
結審→判決→確定というプロセスに1年以上かかることもある
い 長期化対策
明渡の仮処分を行う
『断行の仮処分』とも言う
う 明渡の仮処分|注意点
『緊急性』が認められない=棄却となりやすい
認められる類型については後述する
4 建物明渡|断行の仮処分|認められる類型
建物明渡の法的手続の中で『断行の仮処分』を利用することが多いです(前述)。
断行の仮処分が認められる類型はある程度決まっています。
これについてまとめます。
<建物明渡|断行の仮処分|認められる類型>
あ 執行妨害的
債務者の行為が執行を妨害するものである場合
例;既に強制執行or仮処分により不動産から退去させられている
い 暴力的な侵奪
債権者の占有を債務者が暴力的に侵奪した場合
う 債務者の『必要性』不足
債務者が目的物を使用する必要性が著しく低い場合
例;債務者が賃料を払っていない+退去済みである
え 著しく大きな損害発生
債権者の受ける損害が著しく大きい場合
例外も多い(※1)
お 重大な公益侵害
債務者の行為が重大な公益侵害となる場合
例;明渡実現が公益事業の遂行上不可欠である
※八木一洋ほか『民事保全の実務(上)第3版増補版』p314
5 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|原則/例外
断行の仮処分の類型のうち『著しく大きな損害発生』の内容を説明します。
損害発生プロセス・事情によって判断が違ってくるのです。
<断行の仮処分|著しく大きな損害発生|原則/例外>
あ 原則
債権者の受ける損害が著しく大きい場合
→仮処分は認められる
い 例外
大きな損害発生について『債権者の帰責性』が大きい場合
→認められない
※八木一洋ほか『民事保全の実務(上)第3版増補版』p314
6 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|例外・具体例
『著しく大きな損害発生』の『例外』(前記)について具体例を使って説明します。
<断行の仮処分|著しく大きな損害発生|例外・具体例>
次のいずれにも該当する
→『債権者の帰責性』が大きい=仮処分は認められない
ア 第三者への物件引渡の契約
例;債権者が新たな入居希望者との間で賃貸借契約を締結した
イ 見通し・予測不足
債権者の見通しが甘かった
※八木一洋ほか『民事保全の実務(上)第3版増補版』p314
7 断行の仮処分|著しく大きな損害発生|該当しない・具体例
前述の『著しく大きな損害発生』の判断について典型的な事情を紹介します。
これに『該当しない』方向に判断される事情です。
<断行の仮処分|著しく大きな損害発生|該当しない・具体例>
あ 事案|典型例
賃料滞納者が入居した状態が続いている
『敷金・保証金による償却=相殺』は完結している
保証人からの回収も現実的には不能である
い オーナーの窮状
経済的なダメージが累積しつつある
例;借入金の返済原資が不足する
う 判断の傾向
『債権者の損害が著しく大きい』に該当しない傾向がある
理由=『賃貸事業』に含まれるリスクであるという考え方
法的手続の大原則・基本は『訴訟で審理・判断する』というものです。
これに対して『仮処分』というのは法的手続の中でも『例外』です。
不十分な審理で暫定的な判断をして,実現させるというものです。
本当に必要な時に限定して認める,という基本方針があるのです。