【住居専用規定違反が主張された事例(保育室・治療院・暴力団組事務所)】

1 住居専用規定違反が主張された事例(保育室・治療院・暴力団組事務所)
2 住居専用規定×保育室|判例
3 住居専用規定×賃借人の治療院|事案
4 住居専用規定×賃借人の治療院|規約の有効性
5 住居専用規定×賃借人の治療院|共同の利益
6 住居専用規定×賃借人の治療院→使用差止|権利濫用
7 住居専用規定×暴力団組事務所→競売請求|判例
8 管理費・修繕積立金滞納→競売請求(概要)

1 住居専用規定違反が主張された事例(保育室・治療院・暴力団組事務所)

多くのマンションの管理規約には住居専用規定があります。
詳しくはこちら|標準管理規約|住居専用規定・貸与規定|基本|解釈論
実際の専有部分の用途が,住居専用規定に違反するかどうかをはっきりと判断できないこともよくあります。
本記事では,保育園・治療院・暴力団組事務所が住居専用規定に違反するかどうかを裁判所が判断した実例を紹介します。

2 住居専用規定×保育室|判例

居住用のマンションで『保育室』が運営されたケースです。
まずは事案概要をまとめます。

<住居専用規定×保育室|事案>

あ 管理規約|住居専用規定

専有部分を本来の住宅としての用途に供するものとする

い 事案

区分所有者が専有部分を『保育室』として使用した

裁判所の判断で考慮された主な事情をまとめます。

<住居専用規定×保育室|特殊性・具体的被害>

あ 特殊性

ア 廊下通行×ドア開閉 マンションは5階建・エレベーター無しであった
→保育所に通う子供が階段・廊下を通行する
→居住者がドアを開ける時に衝突に配慮する必要が生じた
イ 閑静 マンションの場所は繁華街・幹線道路から離れている
→閑静な環境であった

い 具体的被害

ア 騒音・振動 幼児による騒音・振動などの被害が生じていた
イ 排水問題 バルコニーでビニールプールを使用した
→排水が階下のバルコニーであふれた
ウ 送迎自動車 送迎する父兄の自動車が周辺道路・駐車場に集まっていた
→居住者の自動車の通行に支障が生じた

以上の事情を元にして,裁判所は『使用禁止』を認めました。

<住居専用規定×保育室|裁判所の判断>

管理規約の『住居専用規定』に違反する
→使用禁止請求を認めた
※横浜地裁平成6年9月9日

3 住居専用規定×賃借人の治療院|事案

居住用のマンションで『治療院』が運営された事例を紹介します。
区分所有者から借りた『賃借人』が運営していたケースです。
『使用禁止』の請求がなされました。
特殊事情があったため,最終的に『権利濫用』が認められた珍しい判例です。

<住居専用規定×賃借人の治療院|事案>

あ マンションの構成

1階=飲食店
2〜4階=事務所
5〜10階=事務所・住居が並存する

い 管理規約|住居専用規定

『専有部分につき住宅部分は住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならない』

う 事案

Aは,住居部分の専有部分を所有している
Aは,この専有部分をBに賃貸している
Bは専有部分においてカイロプラクティック治療院を運営している
管理組合は使用禁止の請求訴訟を提起した
※東京地裁平成17年6月23日

4 住居専用規定×賃借人の治療院|規約の有効性

前記の事例について『規約の有効性』について,裁判所が判断しました。

<住居専用規定×賃借人の治療院|規約の有効性>

あ 『住居専用規定』の有効性

当該治療院以外にも多数の会社などが住居部分に入居している
いずれも『事務所』である
=事務作業がメイン
→ある程度『平穏』である
→『住居専用規定』が有名無実化しているとまでは言えない

い 規約の『住居専用規定』の解釈

→居住者の『生活の本拠』であるか否かによって判断する
使用態様には『平穏さ』が求められる

う 治療院の使用態様

規模・出入りの人数・営業時間・周囲の環境など
→居住者の生活の平穏を損なう恐れが高い

え 規約違反→肯定

規約の『住居専用規定』に違反すると認めた
※東京地裁平成17年6月23日

5 住居専用規定×賃借人の治療院|共同の利益

前記の事例について『共同の利益』についての裁判所の判断をまとめます。

<住居専用規定×賃借人の治療院|共同の利益>

あ 遵法の姿勢

Bは,管理組合の承諾を得ずに置き看板を設置している
区や警察の警告を受けている

い 訪問者

治療院への訪問者=不特定多数の患者である
→良好な住環境とは言えない

う 『共同の利益』の判断

区分所有者の『共同の利益に反する行為』に該当する
※区分所有法57条1項
※東京地裁平成17年6月23日

6 住居専用規定×賃借人の治療院→使用差止|権利濫用

前記の事例ついて『権利濫用』について裁判所が判断しました。
前述の,他の要件の判断では使用禁止を認める方向性でした。
しかし『権利濫用』を理由に『棄却』が決まったのです。

<住居専用規定×賃借人の治療院→使用差止|権利濫用>

あ 他の区分所有者との比較

住居部分を事務所として使用している区分所有者が多数いる
これは『住居専用規定』違反である
管理組合は,この違反行為を長期間放置してきた
現在まで大多数の用途違反について何らの警告も発していなかった
→Bの治療院だけへの使用禁止請求は合理的な理由がない

い 反対者の違反行為

使用禁止請求の提訴は臨時集会(総会)で定めた
賛成者の大多数は用途違反を行っている区分所有者であった

う 権利濫用の判断

使用禁止請求は権利濫用に該当する
※東京地裁平成17年6月23日

7 住居専用規定×暴力団組事務所→競売請求|判例

居住用マンションが『暴力団組事務所』に使用された事例です。
対抗措置としては最も重い『競売請求』が認められています。

<住居専用規定×暴力団組事務所→競売請求|判例>

あ 管理規約|住居専用規定

『専有部分を専ら住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならない』
実際に住居として多くの区分所有者が使用していた

い 暴力団事務所としての使用

Aが専有部分を所有していた
Aが,専有部分を暴力団の組事務所として使用していた

う 具体的トラブルなし

A・他の組員とマンション住民と間には具体的トラブルは生じていない
Aと他の暴力団との抗争事件などのトラブルも生じていない

え 裁判所の判断

『共同の利益に反する行為』に該当する
→競売請求を認めた
※福岡地裁平成24年2月9日

8 管理費・修繕積立金滞納→競売請求(概要)

管理費・修繕積立金の滞納が『共同の利益に反する』と認められることもあります。
この場合『無剰余差押禁止』というルールの適用に関して複雑な解釈があります。
これについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有法の競売請求×無剰余差押禁止|管理費滞納・特別扱い

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【住居専用規定違反が主張された事例(事務所系の使用)】
【区分所有法の競売請求では例外的に無剰余差押禁止が適用されない】

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