【区分所有法の競売請求では例外的に無剰余差押禁止が適用されない】
1 区分所有権の競売×無剰余差押禁止|背景
2 区分所有法の競売×無剰余差押禁止|基本
3 区分所有法の競売×無剰余差押禁止|詳細
4 『最低売却価格』×『売却基準価格』|法改正
5 管理費滞納による競売請求×無剰余差押禁止
6 マンション管理費滞納→競売請求|判例
7 競売請求による競売では無剰余取消は適用しない
1 区分所有権の競売×無剰余差押禁止|背景
マンションにおける違反・悪質行為への対抗措置がいくつかあります。
詳しくはこちら|マンションの悪質行為|基本|対応=停止・予防・使用禁止・競売・引渡請求
対抗措置のうち最も強いものが競売請求です。
競売請求によって形式的競売が行われることになります。
形式的競売にはいろいろな種類がありますが,その中でも区分所有法の競売請求によるものは特殊なものです。
無剰余(差止禁止)のルールについて特別扱いがなされます。
2 区分所有法の競売×無剰余差押禁止|基本
区分所有法による競売での『無剰余差押』の扱いの基本部分をまとめます。
<区分所有法の競売×無剰余差押禁止|基本>
あ 一般的な競売の無剰余差押禁止の趣旨(参考)
一般的な競売の目的は債権回収である
『無剰余』の場合,債権回収は実現しない
→『無益な執行』となる→禁止する
※民事執行法63条
い 区分所有法の競売請求の趣旨
ア 目的
・共用部分の利用の確保
・区分所有者の共同生活上の維持
イ 手段
競売→退去させる
う 無剰余差押禁止の適用(否定)
区分所有法の競売申立の場合
→無剰余差止禁止の趣旨が該当しない
→原則として無剰余差押の禁止は適用されない
簡単に言えば『無剰余差押は禁止されない』という結論です。
ただし,もっと正確な基準も示されています。
次に説明します。
3 区分所有法の競売×無剰余差押禁止|詳細
区分所有法の競売での『無剰余差押』の扱いの詳細な内容をまとめます。
<区分所有法の競売×無剰余差押禁止|詳細>
あ 原則
『最低売却価格』が『手続費用』未満の場合
→『無剰余差押禁止』が適用される
い 例外
『あ』に該当するが,申立人が『不足額』を負担する場合
→『無剰余差押禁止』は適用されない
※東京高裁平成16年5月20日
4 『最低売却価格』×『売却基準価格』|法改正
上記判例では『最低売却価格』が使われています。
現在では廃止された概念(用語)です。
注意が必要です。
<『最低売却価格』×『売却基準価格』|法改正>
平成16年民事執行法改正
平成17年4月施行
『最低売却価格』という概念はなくなった
現在では『売却基準価格の80%相当額』がこれに相当する
※民事執行法60条3項
5 管理費滞納による競売請求×無剰余差押禁止
マンション管理費滞納は,程度によって『共同の利益に反する』ものと認められます。
そのため『競売請求』の対象になります。
ところでこの場合,管理組合は『管理費』という『金銭債権』を持っています。
そうすると『一般的な差押→競売』という手続も可能です。
つまり『競売』の手続が2つ考えられるのです。
2つの競売手続の関係についての扱いをまとめます。
<一般的な競売×区分所有法による競売請求>
あ 前提事情
管理組合が区分所有者Aに対して金銭債権を持っている
同時に,Aが悪質・違法行為をしている
例;滞納管理費請求権
い 原則
一般的な差押・競売の申立ができる
→『一般的な競売』により解決できる
→『競売請求以外では支障除去・共同生活維持が困難』に該当しない
→区分所有法の競売請求はできない
う 例外
『無剰余差押禁止』の規定により『一般的な差押・競売』ができない場合
→区分所有法による競売請求が認められる(後記)
つまり『債権回収の手段としての競売手続』が優先される,という結果です。
ただし専有部分に優先的な担保権や租税債権があると例外的な扱いとなります。
これについては次に説明します。
6 マンション管理費滞納→競売請求|判例
管理費・修繕積立金の滞納を理由として競売請求がなされた事例を紹介します。
<マンション管理費滞納→競売請求|判例>
あ 管理費滞納状況
区分所有者Aは管理費・修繕積立金を滞納していた
滞納額・遅延損害金=約940万円
い 対象専有部分の評価額
約490万円
う 租税債権の存在
区分所有者は租税の滞納もあった
滞納租税額=約1660万円
租税債権が滞納管理費よりも優先される状態であった
え 裁判所の判断
『共同の利益に反する』と認めた
→競売請求を認めた
※東京地裁平成19年11月14日
まず『共同の利益に反する』ことは認められました。
この次に『無剰余差押禁止』の適用の問題について説明します。
7 競売請求による競売では無剰余取消は適用しない
このケースの特殊事情は『優先される債権が存在した』というところです。
前提事情・裁判所の判断をまとめます。
<競売請求による形式的競売と無剰余の扱い>
あ 租税債権と滞納管理費の優劣
租税債権が優先される
売却される予想額よりも租税債権が大きい
→剰余なしと予想される
=管理組合は債権回収ができない
い 無剰余への該当性
形式的には無剰余(差押)に該当する
→原則論では禁止される(取消となる)はずである
※民事執行法63条
う 無剰余の特別扱い
区分所有法に基づく競売請求による形式的競売では
無剰余(差押禁止)は適用されない
→多額の租税債権があっても競売は可能である
※区分所有法59条1項
※東京高裁平成16年5月20日
※東京地裁平成19年11月14日;同趣旨
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1107
え 2種類の競売の違い(まとめ)
『一般の差押・競売』はできない
『区分所有法の競売』は可能である
→『競売請求以外では支障除去・共同生活維持が困難』に該当する
要するに,一般の差押ができない状態だったのです。
大雑把に言えば,消去法的に『区分所有法の競売請求』が認められたということです。