【管理規約の設定・変更の基本(手続・決議要件・有効性・承諾の要否)】

1 管理規約・総会の正式用語(規約・集会)

本記事では、マンション管理規約の設定・変更の手続を説明します。
最初に、用語・語法で紛らわしいものをまとめておきます。

管理規約・総会の正式用語(規約・集会)

法律上の正式名称 俗称
規約 (マンション)管理規約
集会 総会

以下、基本的に『管理規約』『集会』の呼称を用います。

2 管理規約の変更の集会の招集と決議要件

管理規約の設定・変更には集会の決議が必要です。
これについてまとめます。

管理規約の変更の集会の招集と決議要件

あ 集会開催

規約の設定・変更・廃止
→集会(総会)の決議が必要

い 招集通知・内容

集会日の1週間前までに通知する
『目的事項』『議案の要領』の記載が必要である

う 決議要件|法律上の規定

次のそれぞれの『4分の3』以上の賛成
ア 区分所有者の『頭数』イ 議決権割合 専有部分の床面積割合で算定される

え 決議要件|緩和

規約に規定することによる緩和はできない
※区分所有法31条
詳しくはこちら|区分所有法の集会・総会|基本|決議要件|管理規約の効力

マンション所有者の頭数・床面積割合の両方の『4分の3以上』の賛成が必要です。
つまり大部分の所有者の賛成がない限り規約の追加はできないのです。
さらにこの決議要件は『緩和する規定』自体が禁止されています。
『変更工事』の場合は『規約による決議要件緩和』が認められています。
要するに『規約』はそう簡単に動かすことができないことになっているのです。

3 共用部分の管理の規約の有効性(原則有効)

管理規約でどのような事項でも定められるわけではありません。
まずは『共用部分』に関する規約の条項について有効性をまとめます。

共用部分の管理の規約の有効性(原則有効)

あ 共用部分の管理に関する事項|原則

規約で定めることができる
→規約の設定は有効である

い 共用部分の管理に関する事項|例外

規約が共同生活の維持を超えて過酷なものである場合
→効力が否定される
※民法90条
※東京高裁昭和47年5月30日

4 専用部分の管理の規約(原則無効)

規約のうち専用部分に関する規定の有効性についてまとめます。

専用部分の管理の規約(原則無効)

あ 専有部分に関する事項(原則)

専有部分の管理・使用は区分所有権に基づく
→区分所有者の自由である
=制限を受けない
→原則として規約で定めることができない
→『特段の事情』がない限り、規約の設定は無効である

い 例外的な専有部分の使用制限

区分所有者全体に影響を及ぼす事項である場合
特段の事情ありと言える
=『共同利益』『区分所有者相互間の事項』に該当する
※区分所有法6条、30条1項
→規約で定めることができる
※大阪高裁平成20年4月16日

う 特段の事情の例

区分所有建物の建設や分譲の経緯によっては
専有部分の用途を制限することができることもある
※稲本洋之助ほか編著『コンメンタール マンション標準管理規約』日本評論社2012年p52、53

5 規約設定における特定の区分所有者の承諾(特別の影響)

管理規約として定めることで、特定の区分所有者に特別の影響が生じる場合には、その区分所有者の承諾が必要となります。

規約設定における特定の区分所有者の承諾(特別の影響)

あ 条文規定

規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
※区分所有法31条1項

い 「特別の影響を及ぼす」の解釈(平成10年最判)

右の(注・区分所有法31条1項後段の)「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
※最判平成10年10月30日
※稻本洋之助ほか著『コンメンタール マンション区分所有法 第3版』日本評論社2015年p201(同趣旨)

特別の影響を及ぼすの判断にはこのように評価の幅があります。実際の具体例における判断が参考になります。別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|管理規約の設定決議における『特別の影響』・承諾の要否の具体例

6 使用細則における特定の区分所有者の『承諾』

『規約』と似ているものに『使用細則』があります。
詳しくはこちら|マンション使用細則|基本|設定手続・内容の範囲・民泊禁止条項
使用細則の設定の場合でも、前記『承諾』の制度は適用されます。

使用細則における特定の区分所有者の『承諾』

細則の制定について
『一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす』場合
→当該区分所有者の『承諾』が必要である
※区分所有法31条1項後段類推適用
※最高裁平成10年10月30日

7 管理規約の扱い|効力の範囲・売却時の扱い

管理規約は特殊な効力・扱いがあります。

管理規約の扱い|効力の範囲・売却時の扱い

あ 規約×効力の範囲

購入者などの第三者にも効力を生じる
→『集会の決議』と同様である
※区分所有法46条
詳しくはこちら|区分所有法の集会・総会|基本|決議要件|管理規約の効力

い 規約×売却時の扱い

専有部分を売却する時
→管理規約は『重要事項説明義務』の対象になる
※宅建業法35条1項6号
詳しくはこちら|宅建業者・重要事項説明義務|基本|内容・説明する場面・方法

管理規約は多数の区分所有者の『共同生活』『共同の利益』に関わります。
このような性格が反映されているのです。

8 弁護士費用を負担する違約金条項は有効である(概要)

管理規約の中に、違反者が違約金を負担する条項を設定する実例もあります。
管理費の滞納に関して、回収のために要する弁護士費用を滞納者が負担する条項を有効とした裁判例があります。
詳しくはこちら|『弁護士費用加算条項』の有効性|東京高裁H26.4.16マンション管理規約で有効と認めた
悪質な者の行為によるコストを他の区分所有者が負担しないような工夫といえます。

本記事では、マンション管理規約に関する基本的な内容を説明しました。
実際には、設定する条項ごとに有効性を慎重に検討する必要があります。
実際にマンション管理規約の設定(変更)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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