【使用者責任/国家賠償責任|比較・まとめ|求償・逆求償|不合理な違い】
1 民間企業の従業員/公務員による事故×賠償責任|まとめ
2 民間企業|被害者→加害行為者個人
3 公務員|被害者→加害行為者個人
4 民間企業|被害者→会社
5 行政庁|被害者→行政庁
6 民間企業|会社→加害行為者個人
7 民間企業|加害行為者個人→会社|逆求償
8 行政庁|行政庁→加害行為者個人
9 従業員・職員の行為×刑事責任→個人が原則
1 民間企業の従業員/公務員による事故×賠償責任|まとめ
一般的に『職員』が事故を起こした場合の責任を整理します。
民間企業の従業員と公務員の場合で法的な扱いが違います。
最初に全体像をまとめます。
<民間企業の従業員/公務員による事故×賠償責任|まとめ>
請求の当事者 | 民間企業従業員の事故 | 公務員の事故 |
被害者→加害行為者個人 | ◯;民法709条(あ) | ☓(い) |
被害者→会社or行政庁 | ◯;民法715条(う) | ◯;国賠法1条1項(え) |
会社or行政庁→加害行為者個人 | △(判例;お) | △;国賠法1条2項(判例;き) |
加害行為者個人→会社 | ☓(か) | ― |
それぞれの内容については順にまとめます。
2 民間企業|被害者→加害行為者個人
被害者から『加害者=民間企業の従業員個人』への請求についてまとめます。
<民間企業|被害者→加害行為者個人(上記『あ』)>
あ 結論
請求は認められる
い 条文
ごく一般的な『不法行為による損害賠償請求』である
※民法709条
条文上は『請求できる』が原則なので当然とも言えます。
この点,次の『公務員の場合』と比べると違いが大きいです。
3 公務員|被害者→加害行為者個人
被害者から『加害者=公務員個人』への請求についてまとめます。
<公務員|被害者→加害行為者個人(上記『い』)>
あ 結論
請求できない
い 解釈論
行政庁から公務員個人への求償を故意・重過失に制限している(上記『か』)
※国賠法1条2項
この趣旨は公務員個人を保護するものである
→被害者から公務員個人への請求も排除する
う 判例|引用
公務員の職務行為を理由とする賠償請求について
『国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて,公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく,また,公務員個人もその責任を負うものではない』
※最高裁昭和30年4月19日
制度の趣旨からの解釈として『公務員が保護』されているのです。
前記の『民間企業の従業員』の場合と比べると違いが不合理であるとも思えます。
4 民間企業|被害者→会社
被害者から『加害者の所属する会社』に対する請求についてまとめます。
『使用者責任』という規定です。
<民間企業|被害者→会社(上記『う』)>
あ 使用者責任|基本
請求できる
い 使用者責任|条文
被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害
→使用者(会社)が賠償責任を負う
※民法715条1項
被害者保護の趣旨が図られている規定・制度です。
5 行政庁|被害者→行政庁
被害者から『加害者の所属する行政庁』に対する請求についてまとめます。
『国家賠償責任/請求』というものです。
<行政庁|被害者→行政庁(上記『え』)>
あ 国家賠償責任|基本
請求できる
い 国家賠償責任|条文
公権力の行使にあたる公務員が,職務を行うについて,故意or過失により違法に他人に加えた損害
→国or公共団体が賠償責任を負う
※国賠法1条1項
被害者保護の趣旨の規定・制度です。
前記の民間企業の『使用者責任』と同様です。
6 民間企業|会社→加害行為者個人
民間企業・会社が被害者に『使用者責任』として賠償を済ませた後の問題です。
『立て替えた』ような状態と言えます。
そこで会社が加害行為者個人に『求償』として請求する方法があります。
この求償権については一定の『制限』があります。
<民間企業|会社→加害行為者個人(上記『お』)>
あ 求償権|基本
認められる
ただし,次のような制限がある
い 求償権・制限|根拠
ア 損害の公平な分担イ 雇用主の監督義務が不十分であったウ 信義則 ※民法1条2項
う 求償権・制限|相場
求償できる範囲は『ゼロ〜50%』が多い
※最高裁昭和51年7月8日;25%
※東京地裁平成23年9月14日;ゼロ
※福岡地裁平成20年2月26日;約7.4%
この理論や判例・事例については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|使用者責任・雇用主→従業員への損害賠償請求・身元保証人|求償権の制限
とにかく求償は大幅に制限されるのです。
『ゼロ〜50%しか請求(求償)できない,というのが相場・目安です。
これ自体は合理性がありましょう。
しかし,後記の公務員の場合と比べると違いが不合理だとも思えます。
7 民間企業|加害行為者個人→会社|逆求償
民間企業の従業員個人が被害者に賠償したことを前提にします。
その後,個人から会社に請求することも考えられます(上記『か』)。
これは前記の『求償』の逆なので『逆求償』と呼ばれます。
実質的な責任の一部や全部を会社が負担すべきだ,という考え方です。
しかしこれについては,明確に認めた判例・確立した解釈がありません。
従業員個人が最終的・実質的な責任を負担する,という方向性なのです。
8 行政庁|行政庁→加害行為者個人
国や地方自治体が被害者に賠償した後の求償についてまとめます。
<行政庁|行政庁→加害行為者個人(上記『き』)>
あ 求償権|基本
ア 原則
認められない
イ 例外
公務員に故意or重過失があった場合
→認められる
※国賠法1条2項
い 『重過失』解釈|判例
ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す
※最高裁昭和32年7月9日
要するに一般的な『ミスによる損害発生・事故』については求償ゼロです。
公務員のガードは非常に強く設定されているのです。
前記の民間企業の従業員が『ゼロ〜50%の求償を受ける』のとはクッキリ違います。
この違いの合理性について疑問が持たれます。
9 従業員・職員の行為×刑事責任→個人が原則
以上の説明は民事的な責任についてのものです。
従業員・職員の行為についての刑事責任は別です。
『個人が責任を負う』のが大前提です。
その上で会社の責任も併存することもあります。
<従業員・職員の行為×刑事責任>
あ 原則
従業員・職員個人が責任を負う
い 例外=両罰規定|民間
従業員が所属する会社(民間法人)も責任を負うこともある
個別的に条文上規定されている
性質上『懲役・禁錮』は対象外
→『罰金』のみが対象である
う 政府・地方自治体は想定外
公務員の違法行為について
政府・地方自治体に対する両罰規定の適用
→想定されていない