【賃料滞納による賃貸借の解除のケースにおける滞納賃料・賃料相当損害金】
1 賃料滞納による賃貸借の解除のケースにおける滞納賃料・賃料相当損害金
建物や土地の賃貸借で、賃借人が賃料を滞納している場合、賃貸人が賃貸借契約の解除を行うのが通常です。
このような場合に、賃貸人から賃借人に金銭的に請求できる内容は細かくみると少し複雑です。本記事ではこのことを説明します。
2 賃料滞納による賃貸借契約の解除(前提事情)
最初に、前提となる事情を確認しておきます。賃料の滞納があり、これを理由とした解除がなされた、つまり賃貸借契約が終了したというケースです。その後、まだ賃借人が退去していません。
賃料滞納による賃貸借契約の解除(前提事情)
あ 前提事情
賃借人が数か月分の賃料を滞納している
賃貸人が賃料を催告したが、賃借人は滞納賃料を支払わなかった
賃貸人は契約を解除した
賃借人は退去していない
い 解除の制限(参考・概要)
賃料滞納は形式的に債務不履行であるが、解除が制限される(認められない)こともある
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
3 基本的な金銭請求の内容
前記のような状況である場合、賃貸人が賃借人に対して有する金銭の請求権は2種類があります。賃料のうち未払いのものと、損害金です。解除(契約終了)の前後で請求権の種類が違うのです。
基本的な金銭請求の内容
あ 滞納賃料
賃貸借契約が終了する前(解除前)の期間については賃貸借契約による賃料が発生している
未払分の賃料請求権が存在する
い 賃料相当損害金
賃貸借契約が終了した後(解除後)の期間については明渡義務の不履行による損害金(損害賠償)が発生している(不法占有の状態)
損害賠償請求権が発生し続けている
4 金銭支払の遅滞による遅延損害金
前記のように、賃借人の立場からすると、2種類の支払債務があるということになります。
2つのうち、賃料の方は、賃貸借契約で定めた支払日から、遅延損害金が発生します。法定利率が適用されるので、遅延利息ということもあります。
次に、賃料相当損害金については、支払を催告した時点以降に、遅延損害金(遅延利息)が発生するようになります。
金銭支払の遅滞による遅延損害金
あ 滞納賃料の遅延損害金
(解除前の)滞納賃料の弁済の遅滞について、遅延損害金が発生する
原則として法定利率による
※民法419条1項、商法514条
い 賃料相当損害金の遅延損害金
(解除後の)賃料相当損害金(明渡義務不履行による損害金)は、催告により遅滞に陥る
※大判大正10年5月27日
遅滞に陥ると法定利率による損害金が発生する
※民法419条1項、商法514条
5 金銭支払の遅滞による遅延損害金の元本組入れ
前述のように、賃料そのものも、賃料相当損害金も年3パーセント(原則)の損害金(遅延利息)を生じることがあります。そのままでは、この遅延利息がさらに遅延利息が生むということはありませんが、一定の条件が揃うと、遅延利息を生むようになります。
金銭支払の遅滞による遅延損害金の元本組入れ
あ 遅延損害金の元本組入れ
延滞賃料の遅延損害金、賃料相当損害金の遅延損害金について、遅滞に陥ってから1年間が経過した場合
賃貸人が元本への組入れの意思表示をすれば、その後、元本になる
(=遅延損害金を生じることになる)
い 遅延利息の元本への組入れ権(概要)
金銭債務の遅延損害金は一定の要件を満たすと元本に組み入れることができる
詳しくはこちら|遅延利息の元本への組入れ権(法定重利・民法405条)
6 明渡義務不履行による損害金の金額
解除後の損害金(明渡が遅れたことにより発生する損害金)の金額は、本来、賃料の相当額(相場の金額)となります。
ただし賃貸借契約書の中で違約金(損害金の金額)について、たとえば賃料の2倍と決めてれあれば、この金額が使われます。
明渡義務不履行による損害金の金額
あ 違約金(損害賠償の予定)の定めあり
ア 法的扱い
賃貸借契約の中で明渡義務不履行(遅滞)による損害金が定めてある場合
→定めた金額が損害金となる
※民法420条1項
イ 違約金の定めの典型例
違約金を賃料の2倍や賃料の3倍と定める条項がよく用いられている
い 違約金の定めなし→賃料相当額(概要)
賃貸借契約の中に明渡義務不履行による損害金が定めてない場合
→原則的に賃料(+共益費など)と同額が損害金となる
一般的に賃料相当損害金とよばれる
詳しくはこちら|不動産の不法占有(賃貸借契約終了後)の損害金算定(賃料相当額・固定資産税倍率など)
本記事では、賃料滞納により賃貸借契約が解除されたケースにおける金銭の請求について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借の賃料や解除に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。