【預貯金差押執行・効果|範囲・時間的前後関係|申立タイミング・作戦】
1 預貯金の(仮)差押の効力(タイミングと範囲)
2 預貯金の(仮)差押の執行の具体的内容
3 預貯金の(仮)差押の実務的状況と和解促進効果
4 預貯金の(仮)差押の申立タイミングの検討
5 預貯金(仮)差押の残高少額狙い作戦
6 預貯金の残高が多い/少ないタイミング
7 預金の差押と金融機関の相殺
1 預貯金の(仮)差押の効力(タイミングと範囲)
差押・仮差押の対象として,預貯金は典型的・代表的なものです。
本記事では,預貯金の差押の実務的な効果・状況・作戦について説明します。
まず,差押の『効力発生』のタイミングや範囲をまとめます。
<預貯金の(仮)差押の効力(タイミングと範囲)>
あ 法律上の『ロック』時点=弁済禁止効
裁判所から金融機関に『差押/仮差押通知』が到達した時点
い 厳密・物理的な『ロック』時点
金融機関内部で,担当者が凍結の事務処理・作業をした時点
う 『ロック』の範囲・対象外
差押・仮差押の効果は上記時点で確定する
→次の部分には差押/仮差押の効力が及ばない
ア この時点の『超過額』
差押金額を超過した『余剰』部分
イ この時点以降の入金
2 預貯金の(仮)差押の執行の具体的内容
預貯金の差押・仮差押の執行における詳細な処理内容をまとめます。
<預貯金の(仮)差押の執行の具体的内容>
あ 内部別口座|移動
対象債権額が『内部別口座』に移される
金融機関内部で別扱いとする口座である
預金者などの対外的には『別口座の扱い』は表面化しない
い 内部別口座|ロック
内部別口座の預金は引き出し・送金などができない
要するに『ロック』された状態となる
う 内部元口座|残額
ア もともと『対象債権額』を超過していた預金イ 差押・仮差押の執行の効力発生時『以降』の入金
え 内部元口座|扱い
通常どおりの取引ができる
例;入金・出勤・送金など
3 預貯金の(仮)差押の実務的状況と和解促進効果
預貯金の差押・仮差押の場面では実務的な『連絡』がなされます。
この状況や,現実的な『効果』についてまとめます。
<預貯金の(仮)差押の実務的状況と和解促進効果>
あ 金融機関から預金者(債務者)への連絡
金融機関が『ロック』の状況を説明する
預金者に原因・事態の説明を求める
い 事実上の解決要請
金融機関は預金者に次のような『自主的解決』を要請する
う 金融機関が望む自主的解決
預金者が債権者に弁済をする
債権者が差押・仮差押を取り下げる
4 預貯金の(仮)差押の申立タイミングの検討
預貯金の仮差押の申立をする債権者はタイミングが重要です。
どのタイミングで申し立てるか,によって結果に違いが生じます。
<預貯金の(仮)差押の申立タイミングの検討>
あ 方針検討
預貯金の残高が『多いor少ない』どちらが良いかを考える
多くの派生的効果を全体として捉え有利な方を選択する
い 預貯金差押×直接的/間接的効果
残高 | 差押の直接的効果 | 間接的効果 |
多い | 多く回収できる | 相手が窮状に陥ることがある |
少ない | 回収額は少ない | 相手のダメージが小さくて済む |
一般的には『残高が高い』方が良いと思われがちです。
しかし逆の作戦もあります。
次に説明します。
5 預貯金(仮)差押の残高少額狙い作戦
預貯金の残高が『少ない』時を狙った差押の作戦内容をまとめます。
<預貯金(仮)差押の残高少額狙い作戦>
あ 残高が少ない場合|債務者の実感
回収額自体は少なくなる
一方で相手が次のように実感・認識する
『債権者の回収意欲が強い』
『残高が高い時に差押をされたら致命的になる』
い 残高が少ない場合|最終的・現実的効果
相手が『返済の優先度』を大きくアップさせる
→任意の回収実現につながる
詳しくはこちら|債権回収|実現のカギ|スピード・時効対策・返済優先度アップ・条件交渉の分析
以上の作戦は主に『仮差押』を申し立てる場面を前提としています。
『本差押』についても流用できることはあります。
『残高が多い/少ない』という推測の方法については次に説明します。
6 預貯金の残高が多い/少ないタイミング
預貯金の差押・仮差押のタイミングの検討では『残高』が重要です(前記)。
『残高』が『多い/少ない』タイミングの具体的内容をまとめます。
<預貯金の残高が多い/少ないタイミング>
あ 入金の直後
ア 個人の場合
給与の入金=給料日の直後
イ 事業者・会社の場合
メイン事業の売上・入金の直後
い 出金の直前
ア 個人の場合
クレジットカード・家賃の支払日の直前
イ 事業者・会社の場合
賃金・外注費の支払日の直前
一般的な差押では残高が多いほうが望ましいと言えましょう。
しかし,残高が多い方が必ずしも最適とは限りません(前述)。
7 預金の差押と金融機関の相殺
相手が事業者や会社である場合は預金の(仮)差押では注意が必要です。預金残高があっても無意味であることが多いのです。
預金をしている金融機関から貸付を受けているという状況です。この場合は,法的に『相殺が優先される』ことになります。
しかし,無駄になるとは限りません。一定の条件が揃うと回収の実現につながるのです。
<預金の差押と金融機関の相殺>
あ 典型的な預金の状況
預金とともに借入金もある
預金よりも借入金の方が多い
相殺すると預金者はマイナスになる
い 金融機関の対応
差押があると相殺を実行する傾向がある
ただし『う』の状況では実行しないという判断もある
う 相殺をしない条件
典型例は,従来の取引の状況を維持したい状況である
具体的には『ア・イ』のような事情である
ア 預金・反対債権の規模が大きいイ 差押債権額が比較的小さい
※『月報司法書士2016年11月』日本司法書士会連合会p28
実際に回収が実現したケースは別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|債権回収での財産開示手続の工夫や活用の実例