【撮影×法律問題・責任|全体的まとめ|キャメラマンの心得】
1 撮影・盗撮の法律問題|撮影される・する側の困惑
2 撮影・盗撮の法律問題|背景=時代の変化
3 撮影・盗撮の法律問題|従来のルール×想定外
4 『撮影』に関する法的問題|カテゴリ全体
5 肖像権侵害|民事|法的責任・概要
6 プライバシー権侵害|民事|法的責任・概要
7 パブリシティ権侵害|民事|法的責任・概要
8 名誉毀損・侮辱|民事+刑事|法的責任・概要
9 著作権侵害|民事+刑事|法的責任|基本
10 著作権侵害|刑事+民事|例外規定
11 迷惑防止条例違反|刑事|法的責任・概要
12 児童ポルノ法違反|刑事|法的責任・概要
13 わいせつ物陳列罪|刑事|法的責任・概要
14 軽犯罪法『追随等の罪』|刑事|法的責任・概要
15 『盗撮』認定リスク|具体的典型例|スマホ所持者全員がターゲット
16 ルールが不明確→過剰/過小適用の両方が害悪→法整備が必須
1 撮影・盗撮の法律問題|撮影される・する側の困惑
現在ではIT・キャメラのテクノロジーが発達・普及しています。
撮影に関して,従来なかった法律問題が生じています。
『撮影・盗撮される』という被害が増えています。
同時に『盗撮された』と疑われる,撮影を嫌がられるという現象もあります。
撮影される側も撮影する側も『被害者』となる可能性があるのです。
本記事では撮影・盗撮に関する法律問題の全体を説明します。
個々のテーマの内容は別の記事で詳しく説明しています。
2 撮影・盗撮の法律問題|背景=時代の変化
撮影に関する法律問題が増加している背景についてまとめます。
<撮影・盗撮の法律問題|背景=時代の変化>
あ テクノロジーの進化
最近は通常,スマートフォン・携帯電話に『キャメラ』が付いている
機器・通信容量が『動画撮影・送信』を容易にできるレベルに達している
ほぼすべての人が『常時撮影・送信できる状態』にある
撮影・送信できる情報が詳細=高解像度・膨大になっている
い 想定外の『撮影』の量
日常風景・メモの代わりに『気軽に』撮影が行われる
従来は想定できないような場面の『撮影』が著しく増えている
う 拡散の異常なスピード
SNSを使う人数・頻度が急激に増加している
『さらに伝達(リツイート・シェア)』が容易
→異常なスピードで広範囲に拡散する
3 撮影・盗撮の法律問題|従来のルール×想定外
撮影に関するテクノロジーの進化の一方で『ルール』は古いままです。
古い社会的状況を前提に設定・最適化されたものと言えます。
従来のルールと現状とのアンマッチという状況についてまとめます。
<撮影・盗撮の法律問題|従来のルール×想定外>
あ 従来のルールの想定外
撮影者は『気軽』でも『迷惑・嫌悪』を感じる人も出てくる
『従来のルールでは想定しなかった』ケースが多い
い 従来のルール→曖昧or不合理な結果
従来のルールは『想定外の行為』ついて次のような問題がある
ア 明確な基準がないイ そのまま適用すると不合理な結果になる
4 『撮影』に関する法的問題|カテゴリ全体
撮影に関する法律問題の種類全体を概観します。
<『撮影』に関する法的問題|カテゴリ全体>
あ 肖像権侵害|民事
人物・容姿を画像=記録にする行為
い プライバシー権侵害|民事
知られたくないことを公表する行為
う パブリシティ権侵害|民事
商品価値のある写真を利用する行為
え 名誉毀損・侮辱|民事+刑事
名誉・社会的評価を落とす行為
お 著作権侵害|民事+刑事
芸術・美術関連の物を撮影する行為
か 迷惑防止条例違反|刑事
いわゆる『盗撮』と呼ばれる行為
き 児童ポルノ法違反|刑事
18歳未満のエロティック写真撮影・画像所持
く わいせつ物陳列罪|刑事
『わいせつ』姿態の撮影+公表
け 軽犯罪法『追随等の罪』|刑事
『撮らせてください』と『追随』する行為
以上は種類と典型例の1つだけをまとめたものです。
それぞれの内容については,以下順に説明します。
本記事ではあくまでも概要だけにとどめます。
詳しい内容はそれぞれのテーマについて別記事があります。
各テーマについてリンクを設置してあります。
必要に応じてご参照ください。
なお,以下は『概要』だけですがちょっと複雑です。
キャメラマンが撮影時に判断するのは難しいと思います。
上記の『カテゴリ全体』だけを最低限把握しておくのが現実的かもしれません。
5 肖像権侵害|民事|法的責任・概要
撮影に関する肖像権侵害の概要をまとめます。
<肖像権侵害|民事|非常に大雑把>
人物・容姿を画像=記録にする行為
典型例=顔が含まれる写真を撮影すること
<肖像権侵害|大雑把な基準>
あ 撮影対象の人物がしっかりと特定できる
い 写り込みではない
『風景(画像全体)がメイン』=『人物は想定外に写り込んだ』の場合
→肖像権侵害には該当しない方向性
う SNSなど,拡散可能性が高いところへの投稿(公開)
ア 原則論
肖像権は『撮影』自体で侵害される
→『拡散』がなくても肖像権侵害となる
イ 拡散(公開)した場合|影響
『公開目的だった』と認定されやすい
→違法性が高い,と判断される方向性
え 承諾がない
本人の承諾があれば違法性はない
個人の権利なので当然である
<肖像権侵害×法的責任|民事>
あ 差止請求
公表する行為を止める請求
例;Web上の画像削除・書籍の販売中止・回収
い 損害賠償請求
生じた損害を賠償する
主要な損害=精神的苦痛(慰謝料と呼ぶ)
肖像権に関する詳しい内容は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|肖像権|人物の撮影→公表は肖像権侵害になる|差止・損害賠償請求
6 プライバシー権侵害|民事|法的責任・概要
撮影に関するプライバシー権侵害の概要をまとめます。
<プライバシー権侵害|民事|非常に大雑把>
知られたくないことを公表する行為
『知られたくない』の判断が重要(後記)
プライバシー権の内容,判断基準をまとめます。
法的な基準はちょっと複雑で,かつ曖昧とも言えます。
<プライバシー権侵害|判断基準>
あ プライバシー情報
次のすべてを満たす情報
ア 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるイ 一般人が公開を欲しないウ 一般の人々にまだ知られていない
い 公開・公表
『プライバシー情報』を公開・公表した
う 不快・不安の発生
公開・公表の結果,被害者本人に実際に不快・不安の感覚が生じた
※東京地裁昭和39年9月28日;『宴のあと』事件
一定の事情があるとプライバシー権侵害は否定されます。
名誉毀損の違法性阻却という規定(後記)とほぼ同じ内容です。
<プライバシー権侵害|違法性阻却事由>
あ 『被害者』本人の承諾
い 公的な事項+公共性
う 正当な理由
個別的に事情を総合考慮する
ア 開示目的イ 開示の必要性ウ 開示行為の態様エ 被害者が受けた不利益の程度
<プライバシー権侵害×法的責任|民事>
差止請求・損害賠償請求
肖像権侵害(前記)と同様である
詳しくはこちら|プライバシー権のまとめ|判例の基準|定義の発展
プライバシー権侵害については公的ガイドラインが参考になります。
具体例として示しているものの概要を紹介します。
<ドローン・映像・ガイドライン|プライバシー|抜粋>
あ 画像処理の提言|基本
プライバシー侵害の可能性に配慮をする
例;撮影映像にぼかしを入れるなど
い 具体的内容
写り込みによりプライバシー侵害となる可能性がある場合
→削除やぼかしを入れるなどの配慮をする
う プライバシー侵害|対象物
ア 人の顔イ ナンバープレートウ 表札エ 住居の外観オ 住居内の住人の様子カ 洗濯物キ その他生活状況を推測できるような私物
※ドローン・映像・ガイドラインp8『3章 2』
詳しくはこちら|ドローン|撮影・映像ガイドライン|平成27年9月・総務省
7 パブリシティ権侵害|民事|法的責任・概要
撮影に関するパブリシティ権侵害の概要をまとめます。
<パブリシティ権侵害|民事>
商品価値のある写真を利用する行為
典型例;有名人を撮影し,写真を販売する
有名人・著名人が被写体に含まれる場合にだけ問題となるものです。
<パブリシティ権侵害|判断基準>
あ 概括的基準
もっぱら氏名・肖像の有する顧客吸引力の利用を『目的』とする場合
い 『もっぱら』の判断基準
例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合
ア 写真の大きさ・取り扱われ方等イ 記事の内容等
アとイを比較検討する。
次の場合に『もっぱら』(顧客吸引力利用目的)と言える。
・記事は添え物で独立した意義を認め難い場合
・記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合
※最高裁平成24年2月2日;ピンク・レディー事件
<パブリシティ権侵害|典型例>
あ 直接的な商品化
肖像自体を独立して鑑賞の対象とする商品として使用する
例;ブロマイド・グラビア写真
い 差別化として利用
商品などの差別化を図る目的で肖像を商品に付する
例;キャラクター商品
う 広告としての使用
肖像を商品の広告として使用する
※最高裁平成24年2月2日;ピンク・レディー事件
<パブリシティ権侵害×法的責任|民事>
あ 差止請求
公表する行為を止める請求
肖像権侵害(前記)と同様である
い 損害賠償請求
『損害』の算定に特徴がある
『商品化による利益』をベースにする
詳しくはこちら|著名人の氏名や画像・動画はパブリシティ権が認められる
8 名誉毀損・侮辱|民事+刑事|法的責任・概要
撮影による『名誉毀損・侮辱』についてまとめます。
最初に『刑事責任』つまり『犯罪の成立』に関して説明します。
(1)名誉毀損罪|基本
<名誉毀損・侮辱|民事+刑事>
名誉・社会的評価を落とす行為
『表現の自由』の尊重のため,一定の例外がある
<名誉棄損罪|構成要件・解釈>
あ 構成要件
公然と事実を摘示し,人の名誉を毀損すること
※刑法230条
い 『公然』
不特定または多数の者が『認識し得る』状態のこと
・実際に『認識した』である必要はない
※大判明治45年6月27日
・伝達対象が『少数』でも伝播可能性があれば成立する(伝播性の理論)
う 『毀損』
被害者の社会的評価が低下する危険が生じたこと
現実に社会的評価が低下することは必要ではない(抽象的危険犯)
※大判昭和13年2月28日
え 『事実の摘示』
『事実』が表現に含まれることが必要
『事実』がなく『評価』のみの場合は『侮辱罪』に該当する
お 事実の摘示の『方法』|例
特に制限はない
ア インターネットのサイト(掲示板)・アプリに投稿するイ 張り紙
か 対象人物の特定
氏名を明示しなくても『察知可能』で足りる
※最判昭和28年12月15日
<名誉毀損罪|罰則|法定刑>
懲役or禁錮3年以下or罰金50万円以下
※刑法230条
(2)名誉毀損罪|違法性阻却
名誉毀損罪は一定の『表現』を罰するものです。
『表現の自由』の保護のために特殊な規定があります。
一定の状況があれば『違法ではない』扱いとするのです。
これを『違法性阻却(事由)』と呼んでいます。
<名誉毀損罪|違法性阻却>
あ 基本的事項
次の3つ全部に該当すると免責される
趣旨=『表現の自由』の保護
い 公共性
公共の利害に関する事実である
『公訴提起前の犯罪行為』は該当するとみなす
※刑法230条の2第2項
う 公益目的
もっぱら公益を図る目的である
公務員・公職候補者に関する事実は『公共性+公益目的』が肯定される
※刑法230条の2第3項
え 真実性
真実であることが証明された
※刑法230条の2
(3)侮辱罪
名誉毀損罪と似ている犯罪類型として『侮辱罪』があります。
これについてまとめます。
<侮辱罪|構成要件・罰則>
あ 構成要件
公然と人を侮辱すること
い 『公然』
名誉毀損における『公然』と同じ(前述)
う 『侮辱』
他人の人格を蔑視する価値判断を表示すること
え 構成要件全体の解釈;通説
事実を摘示しないで名誉を毀損すること
お 罰則|法定刑
拘留or科料
※刑法231条
名誉毀損罪・侮辱罪については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|違法な表現行為の刑事責任(名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪)
(4)名誉毀損・侮辱|民事
<名誉毀損×法的責任|民事>
あ 損害賠償請求
い 謝罪広告
『名誉回復のための処分』が要求されることがある
※民法723条
う 差止請求
名誉毀損や侮辱に該当する行為は民事上は一般的な『不法行為』になります。
『人格権侵害』にも該当します。
そこで,肖像権侵害などと同様に損害賠償請求や差止請求が認められます。
『謝罪広告』だけは,名誉を毀損する行為だけに認められるものです。
9 著作権侵害|民事+刑事|法的責任|基本
撮影による著作権侵害について,基本的事項を説明します。
<著作権侵害|民事+刑事>
芸術・美術関連の物を撮影する行為
被写体は『著作物』だけが対象である
ただし『著作物』には意外なものも含まれることがある
大前提として『著作物』が被写体となった場合に違法となるのです。
『著作物』の判断が難しいというケースも多いです。
『著作物』の定義を紹介します。
<『著作物』の定義>
次のすべてに該当するもの
あ 思想or感情
い 創作的(創作性)
う 『表現』したもの
え 文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの
※著作権法2条1項1号
この定義だけだとどのような物が『著作物』であるのかよく分かりません。
そこで著作権法で『具体例』が挙げられています。
<著作物に該当する例|著作権法10条の例示列挙>
あ 言語の著作物;10条1項1号
小説・脚本・論文・講演
い 音楽の著作物;10条1項2号
う 舞踊・無言劇の著作物;1項3号
え 美術の著作物;10条1項4号
絵画・版画・彫刻
美術工芸品を含む;2条2項
応用美術=量産品については『審美性』があるもののみ
お 建築の著作物;10条1項5号
か 図形の著作物;10条1項6号
地図・学術的な性質を有する図面・図表・模型
き 映画の著作物;10条1項7号
映画・ビデオグラム・テレビジョン・テレビゲーム・コンピュータなどの画面表示
映画の効果に類似する視覚的・視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され+物に固定されている著作物を含む;2条3項
く 写真の著作物;10条1項8号
写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物を含む;2条4号
け プログラムの著作物;10条1項9号
電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの;2条1項10号の2
撮影で問題になりやすいのは『美術・芸術』の性格を持つ物です。
絵画・銅像だけでなく建物も含むことがあります。
次に『著作物』を『どうすると』違法になるのか,ということについて説明します。
撮影に関しては『複製権侵害』に該当します。
<『著作権』|複製権>
著作物を有形的に再製する権利
例;印刷,写真撮影,複写,録音,録画
※著作権法21条
以上をまとめると『美術・芸術品を撮影すること』が著作権侵害,ということになります。
ここまでを整理します。
<『著作権侵害』=著作権法違反とは>
あ 著作権侵害|基本的事項
次のすべてに該当する場合
→『著作権侵害』となる
い 著作権侵害|要件
ア 権利者以外が『著作権』を行使することイ 権利者の承諾なしウ 『利用制限の例外』に該当しない
う 著作権侵害|撮影の例
『著作物』を写真撮影する行為
→原則的に『複製権侵害=著作権侵害』に該当する
著作権侵害に該当する場合の法的責任をまとめます。
<著作権侵害=著作権侵害の法的責任>
あ 刑事(犯罪)
法定刑として懲役・罰金などの規定がある
※著作権法119条〜
い 民事的責任
ア 損害賠償請求
※民法709条〜
イ 差止請求
『人格権侵害』という解釈による
詳しくはこちら|著作権の基本(著作権法の趣旨や保護の構造と典型的なトラブル)
10 著作権侵害|刑事+民事|例外規定
著作権については『例外規定』が多くあります。
ここでは撮影に関するものを紹介します。
<屋外設置物の権利制限>
あ 前提条件
次のいずれにも該当する
ア 原作品イ 街路,公園その他公共の屋外ウ 恒常的に設置
い 権利制限
写真撮影などの利用は適法となる
=著作権侵害にはならない
※著作権法46条本文,45条2項
う 典型例
公共の場での銅像・モニュメントなど
え 権利制限の例外
『販売目的』の場合
→『権利制限の例外』が適用されない
→写真撮影は原則どおりに『違法』となる
※著作権法46条4項
公共の場でのモニュメントは『撮影されることが想定内』という考え方です。
条件の1つが『恒常的に設置』というものです。
そうすると『乗り物』は対象外となるはずです。
また『建物』についてはまた別の考え方もあります。
乗り物・建物について,次にまとめます。
<乗り物・建物×著作権侵害>
あ 事案
乗り物や建物の写真撮影を行った
例;自動車・飛行機・船・店舗・ビル・住宅
い 『屋外設置物』を適用する解釈論
乗り物については『恒常的に設置』に該当しない
しかし『権利制限』とする趣旨は同様である
→『屋外設置物の権利制限』を拡張or類推適用する
※著作権法46条本文,45条2項
※東京地裁平成13年7月25日;はたらく自動車著作権事件
う 著作物に該当しないケース
デザインによっては『創作性・芸術性』に欠ける
→そもそも『著作物』ではないことも多い
→この場合,写真撮影などは『著作権侵害』にはならない
※著作権法2条1項1号
街並みを撮影すると,ごく一部に『芸術・美術品』が入ってしまうこともあります。
これをいちいち『著作権侵害』として扱うのは不合理です。
そこで『写り込み』についての例外規定があります。
<写り込み|典型的事例>
町並みを撮影して動画を作成した
これを投稿サイトにアップロードして公表した
1つのシーンをよく見たら,美術館の入口が写っていた
エントランスの銅像も映っていた
<写り込み×著作権侵害|原則・例外規定>
あ 写り込み|原則論
著作物の写真撮影
→複製権侵害=著作権侵害に該当する
い 写り込み|例外規定|要件
『写真撮影の対象』と『写った著作物』の関係性
ア 分離困難イ 付随的ウ 軽微な構成部分
う 写り込み|例外措置
『い』のいずれにも該当する場合
→複製・翻案が適法となる
※著作権法30条の2
詳しくはこちら|街中,風景の撮影→投稿は著作権侵害の例外;屋外設置物,写り込み
11 迷惑防止条例違反|刑事|法的責任・概要
一般的に『盗撮』と言われる行為は『迷惑防止条例違反』のことです。
<迷惑防止条例違反|刑事>
いわゆる『盗撮』と呼ばれる行為
迷惑防止条例の中の『撮影』の規定は複雑です。
<犯罪とされる『撮影等』の行為|東京都・神奈川県共通>
次の『ア』〜『ウ』のすべてに該当する行為
ア 『人を著しく羞恥させる』or『人に不安を覚えさせる』イ 対象が『通常衣類で隠されている』『下着または身体』ウ 『撮影した』or『撮影目的でキャメラを差し向けた』or『撮影目的でキャメラを設置した』
※東京都迷惑防止条例5条1項2号
※神奈川県迷惑防止条例3条1項2号
『下着さえ写らなければ良い』というわけではありません。
被写体が『羞恥・不安』を感じるかどうか,で決まるのです。
主観的・曖昧なところが基準なのです。
裁判所の判断はもっと複雑になります。
以上の説明はかなり大雑把なものです。
迷惑防止条例違反になった場合の罰則をまとめます。
当然,地方自治体によって内容は異なります。
<盗撮・迷惑防止条例違反|罰則>
あ バラエティ
各自治体で『行為態様』によって数種類の罰則規定がある
い 罰則の種類|行為態様
ア 撮影した/キャメラを差し向けたイ 一般/常習
う 罰則内容|概要
ア 懲役上限
6か月〜2年(以下)
イ 罰金上限
50万円〜100万円(以下)
詳しくはこちら|盗撮・迷惑防止条例|東京都・神奈川県の条文規定・定義・罰則
12 児童ポルノ法違反|刑事|法的責任・概要
撮影が児童ポルノ法違反に該当することもあります。
意図的な『ロリ・ペド』テーマのものだけとは限りません。
想定外に違法に該当する可能性も十分にあり得ます。
<児童ポルノ法違反|刑事|非常に大雑把>
18歳未満のエロティック写真撮影・画像所持
対象となる『エロティック』加減・目的の基準があいまい
実在人ではないイラスト・ロボットも対象に含まれるリスクあり
例;アニメ系=アラレちゃんなど(ロボでもある)
例;ロボ系=ASIMOなど
条文上の『児童ポルノ』の定義からまとめます。
定義の中には性行為などの類型もあります。
しかしここでは撮影に関するものだけをまとめます。
<『児童ポルノ』の定義|ヌード系>
あ 基本的事項
『児童の姿態を描写』した写真・データの記憶媒体・その他の物
い 『児童』の定義
18歳未満の者
※児童ポルノ法2条1項
う ヌード系の定義
次のすべてに該当する
ア 衣服の全部or一部を着けない児童の姿態イ 殊更に児童の性的な部位が露出されor強調されている
『露出していない』ものも一定範囲で含まれる
ウ 性欲を興奮させ又は刺激するもの
※児童ポルノ法2条3項
『性的な部位』や『強調』という基準は判断のブレが大きいです。
曖昧と言えましょう。
『児童ポルノ』に該当する画像・写真をどうすると違法となるのか,について説明します。
『公然陳列』と『単純所持』の2つを順にまとめます。
<児童ポルノ『公然陳列』罪>
あ 目的
限定なし
い 対象行為
次のいずれか
ア 児童ポルノを不特定or多数の者に提供したイ 児童ポルノを公然と陳列したウ 児童ポルノのデータ(画像・動画等)をオンライン上で不特定or多数の者に提供した
う 法定刑
懲役5年以下or罰金500万円以下
併科あり
※児童ポルノ法2条6項
<児童ポルノ『単純所持』罪の成立>
あ 目的
自己の性的好奇心を満たす目的
い 対象行為
次のいずれか
ア 児童ポルノを所持したことイ 児童ポルノのデータを保管したこと
う 限定
次の事情が『明らかに認められる』場合に限定される
ア 自己の意思に基づいて所持するに至ったことイ 自己の意思に基いて保管するに至ったこと
え 法定刑
懲役1年以下or罰金100万円以下
※児童ポルノ法7条1項
<撮影×児童ポルノ法違反|具体例>
あ 事案
撮影した中にたまたま『女児の水浴びシーン』が含まれていた
い 法的判断|『所持』
児童ポルノの『所持』に該当する
う 法的判断|目的|通常
画像のメインは『風景・街並み』である
『女児』はごく一部であり,テーマではないと判断される
→『自己の性的好奇心を満たす目的』ではない
→児童ポルノ法違反には該当しない
え 法的判断|目的|例外
自宅の捜索で『ロリ系DVD・映像データ』が発覚した
スマホにJK系のゲームが入ってることが発覚した
→撮影には『性的目的あり』という認定につながる
このように『所持の目的』の判断は実務的には単純ではありません。
詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)
13 わいせつ物陳列罪|刑事|法的責任・概要
撮影が『わいせつ物陳列罪』に該当するケースもあります。
<わいせつ物陳列罪|刑事|非常に大雑把>
『わいせつ』な写真を撮影して販売やSNS投稿をした
『わいせつ』の判断基準があいまいである
意図的な撮影テーマの設定でなければあまり心配はないでしょう。
しかし『わいせつ』の範囲は曖昧です。
以前も今も熾烈な見解の対立が生じ続けています。
まずは条文の規定をまとめます。
<わいせつ物陳列罪|基本的事項>
あ 構成要件
わいせつ物を頒布or公然と陳列した
い 『わいせつ物』
わいせつな文書・図画・データを含むメディア
う 罰則|法定刑
懲役2年以下or罰金250万円以下or科料
懲役と罰金の併科あり
※刑法175条1項
条文の『わいせつ』の解釈論について,確立した判例の基準を紹介します。
<『わいせつ』の定義|わいせつ3要件>
次の3つの要件を満たす
あ 徒に性欲を刺激・興奮させること
い 普通人の正常な性的羞恥心を害すること
う 善良な性的道義観念に反すること
※最高裁昭和26年5月10日;サンデー娯楽事件
このように『基準』という言うにしては曖昧です。
再現可能性が高くないです。
キャメラマンが『撮影の範囲』をハッキリ判断できるとは言えないと思います。
詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本)
14 軽犯罪法『追随等の罪』|刑事|法的責任・概要
軽犯罪法に『追随等の罪』があります。
責任が軽いのとともに『簡単に該当してしまう』という規定です。
まさに『基準が不明確』です。
キャメラマンが有罪となった実例もあるものです。
まずは基本的な事例から紹介します。
<軽犯罪法『追随等の罪』|刑事|非常に大雑把>
『撮らせてください』と『追随』する行為
これ以外にも『追随』が広く対象となっている
恋愛感情がある場合
→ストーカー規制法違反もあり得る
『追随等の罪』の条文をまとめます。
<軽犯罪法|追随等の罪|条文>
あ 構成要件(条文)
他人の進路に立ちふさがつて,若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず,又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者
い 法定刑
拘留or科料
※軽犯罪法1条28号
キャメラを持った者が有罪となった事例を紹介します。
<追随等の罪|略式命令|カメラ小僧事件>
女子高校生に対して執拗につきまとった
『写真を撮らせてくれませんか』などと声をかけた
→略式命令の請求がなされた
※『月報司法書士2015年9月』日本司法書士会連合会p54〜55
詳しくはこちら|軽犯罪法『追随等の罪』|具体的事例・判例|ナンパ・カメラ小僧・一目惚れ
詳しくはこちら|軽犯罪法『追随等の罪』・ストーカー規制法・客引き行為|基本
15 『盗撮』認定リスク|具体的典型例|スマホ所持者全員がターゲット
盗撮,つまり迷惑防止条例の規定を前提とすると,次のような不合理が生じます。
<『盗撮』認定リスク|具体的典型例>
あ 電車内でスマホでグノシー(ニュースアプリ)を見ているだけ
→足の間にキャメラを向けた→条例違反→逮捕リスク
これは実際にニュースで報道された類型です。
い グーグル・グラスを着用して歩いた
→民家,足の間にキャメラを向けた→条例違反→逮捕リスク
う 公園,遊園地で友人,家族や風景を撮影した
→背景に入った裸の小児(男女)が映り込む→条例違反→逮捕リスク
え パラグライダーで滑空中に風景を撮影
→民家の窓が視野に含まれていた→条例違反→逮捕リスク
お キャメラ付き小型ドローンの飛行中に民家の上を通過
→『え』と同様
なお,『ドラえもん』では22世紀に登場していましたが,現実のテクノロジー進化が『前倒し』になっています。
関連コンテンツ|無人ドローン運用に必要な許認可とケアすべき法律問題
以上はあくまでも『条例違反に該当すると主張される・認定されるリスク』です。
理論的には,例えば,スマホの裏面キャメラが『女性の脚』の方向を向いていても,キャメラアプリを起動していなければ『キャメラを差し向けた』には該当しないと言えるでしょう。
ただ,起動したかどうか,ということが証明しにくい,ということです。
この点は次のバージョンのiOSに『アプリ起動履歴記録』の機能が登載されることに期待します。
16 ルールが不明確→過剰/過小適用の両方が害悪→法整備が必須
迷惑防止条例も含めて多くの法的責任について,基準が曖昧です。
ルールの明確化をしないと『適用すべき罰則が適用されない』という不合理な人権侵害が生じるリスクを生みます。
一方『適用されるべきでない罰則が適用されてしまう』→テクノロジーの進化にブレーキ,ということも生じます。
また撮影などのアートの世界への萎縮的効果も非常に心配です。
例えばキャメラマンはシャッターを押すたびに,明確な判断をしなくてはならないのです。
『違法性判断』の昨日を持つアプリの登場に期待したいくらいです。
刑事・民事ともに『適法/違法』の境界を明確にする法整備が必要です。