【公正証書遺言の証人の『承認』の内容と欠格・不適格と有効性】

1 『証人』の『承認』の規定と解釈

公正証書遺言や秘密証書遺言の作成には『証人』の立ち会いが必要です。
詳しくはこちら|遺言の方式・種類|自筆証書・公正証書・秘密証書遺言
『立会証人』と呼ぶこともあります。本記事では証人の行うことと、証人になれない者の範囲について説明します。
まず、証人が行うことは『承認』と規定されています。『しょうにん』という読み方が2つ出てくるのでまぎらわしいです。また、承認の内容についても解釈論があります。条文上は『筆記の正確性』だけを確認するように読めます。しかし、確認する対象は、判例では広く解釈されています。

『証人』の『承認』の規定と解釈

あ 条文の規定

『筆記が正確であること』を『承認』してから署名・押印をする
※民法969条4号

い 学説・見解

遺言が『成立した』事実を証明するだけではない
『遺言者の真意に基づいて成立した事実』を証明する責任を負う
※中川善之助『民法大要 親族法・相続法 補訂版』勁草書房p294
※久喜忠彦『遺言における証人と立会人』有斐閣p186

う 判例

証人は次の事項を確認する
ア 遺言者に人違いがないことの確認イ 遺言者の精神状態の確認ウ 公証人の筆記の正確なことの確認 ※最高裁昭和55年12月4日

2 証人の立ち会う範囲

証人の行う事務の範囲の解釈が、公正証書遺言の有効性の判断につながることがあります。そのため、立ち会う範囲については細かい解釈論があります。原則的には遺言者の署名・押印に立ち会うことが必要です。しかし、これを欠いても救済的に有効となる傾向もあります。

証人の立ち会う範囲

あ 証人の立ち会う範囲

筆記が正確なことを承認する
遺言者+証人が署名・押印をする
※民法969条4号

い 署名・押印への立会義務

証人は『遺言者による署名・押印』に立ち会うことを要する

う 署名・押印への立会の欠如と有効性

ア 事案 証人が『遺言者による署名・押印』に立ち会わなかった
しかし、次のような事情はまったくうかがわれなかった
ア 遺言者が従前の考えを翻したイ 遺言公正証書が遺言者の意思に反して完成された →遺言は有効であると判断した
※最高裁平成10年3月13日

3 遺言の証人・立会人の欠格と不適格

公正証書遺言の証人や立会人になる者には一定の条件があります。証人や立会人になることができない事情を『欠格・不適格』と呼びます。この内容をまとめます。

遺言の証人・立会人の欠格と不適格

あ 欠格

ア 絶対的欠格者 ・未成年者
イ 相対的欠格者 ・推定相続人・受遺者(※1)
・上記※1の配偶者・直系血族
・公証人とその関係者
関係者=公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人
※民法974条

い 不適格(証人適格)

実質的に判断・確認する能力がない
形式的な規定・条文があるわけではない

4 全盲の者の証人適格

全盲の者が証人になれるかどうかの見解が対立したケースがあります。最高裁判例で、証人になることができると判断されました。

全盲の者の証人適格

全盲の者でも『承認』の内容を遂行することができる
民法974条の欠格者には該当しない
→証人としての適格性を肯定した
※最高裁昭和55年12月4日

5 証人欠格と遺言の有効性(基本)

証人の欠格者が証人として立ち会うと、公正証書遺言の方式に違反することになります。そのため、原則的に遺言は無効となります。

証人欠格と遺言の有効性(基本)

公正証書遺言を作成した
2人の証人のうち1人が欠格者であった
→遺言は無効となる
※民法960条、969条1号
※最高裁昭和47年5月25日

6 欠格・不適格の証人の人数と遺言の有効性

証人欠格者が証人となった場合でも無効になるとは限りません。人数の状況によっては効力が維持されます。

欠格・不適格の証人の人数と遺言の有効性

『証人欠格者・不適格者』がいる場合
→これらの人数を除外する
→『証人の人数』が不足する場合
→遺言は無効となる
※大阪地裁平成5年5月26日

7 証人適格を欠く者の立会と遺言の有効性

証人の人数はクリアしても、立ち会った者の態度・言動によって遺言が無効となることもあります。立ち会った者によって、遺言内容に影響が生じたようなケースです。

証人適格を欠く者の立会と遺言の有効性

あ 前提事情

証人適格を欠く者が遺言作成に立ち会った
『立会人』としてではない

い 解釈

特段の事情がない限り遺言が無効となるものではない

う 特段の事情

立ち会った者によって次の結果が生じた場合
→遺言は無効となる
ア 遺言の内容が左右されたイ 遺言者が自己の意思に基づいて遺言をすることを妨げられた ※最高裁平成13年3月27日

8 公正証書遺言作成の際のトラブル予防策(概要)

上記のように、公正証書遺言を作成する際の証人によって後から無効となるリスクがあるのです。そこで、作成の際は、無効となることがないように工夫することが好ましいです。このような工夫・注意点については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公正証書遺言の無効リスク極小化と無効事由(全体・主張の傾向)

本記事では、公正証書遺言の証人に不備があったため遺言が無効になるということについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に公正証書遺言その他の相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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