【留置権|基本|典型例・要件・効果・使用/保存行為】
1 留置権|典型例
2 留置権|要件・効果
3 第三者の所有物×留置権|基本
4 第三者の所有物×留置権|典型例
5 留置権|対象物|動産/不動産
6 留置権|対象物の使用・保存行為
7 留置権×競売|概要
1 留置権|典型例
本記事では留置権の基本的事項を説明します。
まずは典型的な活用事例・具体例をまとめます。
<留置権|典型例>
あ 前提事情
自動車所有者が自動車修理を依頼した
自動車所有者が代金を払わない
い 留置権の行使
修理店は自動車の返還を拒否できる
主張=『修理代金をもらうまで自動車を渡さない』
※民法295条
常識的なことが法律に規定されていると言えましょう。
2 留置権|要件・効果
留置権の法律的な要件・効果を整理します。
<留置権|要件・効果(※1)>
あ 留置権の要件
次の2つの両方に該当する
ア 弁済期到来・未履行
ある物に関して生じた債権が弁済されていない
担保物と被担保債権の『牽連性』が必要である
イ 占有
担保物を『債権者』が占有している
い 留置権の効果
ア 本来的な効果;心理的プレッシャー
債権者は弁済を受けるまで,担保物を留置できる
イ 拡張された効果;強制換価
債権者は担保物の『競売』を申し立てることができる
※民法295条
※民事執行法195条
留置権が成立するのは債権と対象物の一定の関係が必要です。
これを専門的には『牽連性』(けんれんせい)と呼んでいます。
簡単に言うと『結びつきが強い』という意味です。
修理代金と修理対象物がその典型例です。
3 第三者の所有物×留置権|基本
『債務者以外の第三者』の所有物を預かるケースもあります。
債務者が代金を支払わない時に留置権の成立が問題となります。
所有者には『代金不払い』などの『落ち度』はありません。
それでも留置権を認める見解が一般的です。
<第三者の所有物×留置権|基本(※2)>
債務者の所有物ではない場合でも
→民法上の留置権は成立する
※名古屋高裁金沢支部昭和33年4月4日
※学説;我妻,柚木,末広・現代,富井,三猪,中島,田島,川名
※『注釈民法 物権3』有斐閣p32
『担保』という機能を重視する見解が一般的なのです。
4 第三者の所有物×留置権|典型例
第三者の所有物についての留置権を活用するケースは多いです。
<第三者の所有物×留置権|典型例>
あ 多重下請け構造
下請けが重なる構造は多い
例;工事・加工業など
い 典型的トラブル
代金の未払い・滞納が生じる
→回収できない者は『元請け』に支払えなくなる
→この状況が繰り返される
う 留置権の活用
占有している物の所有権は発注者ではないことが多い
→この場合でも留置権が成立する(前記※3)
→留置権の行使による対抗措置が適法に行える
=『代金が支払われるまでは引渡をしない』という主張
え 注意点
一般的な留置権の要件(前記※1)を満たす必要がある
5 留置権|対象物|動産/不動産
留置権は動産・不動産のいずれにも適用できます。
<留置権|対象物|動産/不動産>
留置権の対象物について
→法律上制限はない
→動産・不動産のいずれも適用される
なお『留置権に基づく競売』も認められています。
詳しくはこちら|留置権|競売|換価金の法的扱い・他の担保権の扱い
不動産についての留置権はとても強いと言えましょう。
6 留置権|対象物の使用・保存行為
留置権の対象物の使用に関しての規定があります。
一般的な使用はできませんが,保存行為はできるのです。
<留置権|対象物の使用・保存行為>
あ 対象物の使用
留置権者は対象物を『使用』することはできない
債務者の承諾を得た場合だけは可能である
※民法298条2項本文
い 保存行為|規定
留置権者は対象物の『保存行為』を行うことができる
※民法298条2項ただし書き
う 保存行為|具体例
対象物である家屋に居住すること
→保存行為に該当する
※大判昭和10年5月13日
7 留置権×競売|概要
留置権に基づく競売は,民法上規定がありません。
しかし,民事執行法に規定があります。
結論として競売を利用できるのです。
競売に関していくつかの解釈論があります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|留置権|競売|換価金の法的扱い・他の担保権の扱い