【家事審判の対審構造の特徴(処分権主義・弁論主義・既判力なし)】
1 家事審判|『不成立』はない|調停とは違う
2 家事審判/調停|不成立|ありがちな誤解
3 家事審判における処分権主義・弁論主義
4 当事者の請求以上を認める審判|具体例
5 家事審判の既判力|ないが現実的には尊重される
1 家事審判|『不成立』はない|調停とは違う
家事審判は『家事調停』に続いて行われることが多いです。
そこで手続の内容を間違ってしまう方もよくいらっしゃいます。
『不成立』について整理しておきます。
<家事審判|『不成立』はない>
あ 家事審判|実務的な進行
審理の中で『和解協議』が行われることが多い
実際に和解が成立して終了するケースも多い
い 家事審判|最終段階
協議により和解に至らない場合
→家裁が『審判』を行う
家裁による判断結果の『決定』である
う 比較|家事調停
調停では原則的に『当事者の合意』がない限り成立しない
→『不成立』として手続が終了する
2 家事審判/調停|不成立|ありがちな誤解
家事審判・調停は『不成立』の扱いに違いがあります(前記)。
これについて,当事者には誤解が生じやすいです。
これをまとめます。
<家事審判/調停|不成立|ありがちな誤解>
あ 前提事情
家事調停が『不成立』となり終了した
→手続が家事審判に移行した
い 当事者の誤解
『相手が拒否したので手続が振り出しに戻った』
『また同じことが繰り返されるのではないか』
審判については『不成立』はないのです。
『どちらかが拒絶するから振り出しに戻る』ということはありません。
審判が出されれば非常に強力な解決となります。
仮に相手方が審判内容に従わない場合,差押などの強制執行が可能です。
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など
3 家事審判における処分権主義・弁論主義
一般的な訴訟では『処分権主義』が採用されています。
しかし,家事審判は『処分権主義』が採用されていません。
この特殊な性格についてまとめます。
<家事審判における処分権主義・弁論主義>
あ 処分権主義の内容
『当事者の請求』の範囲内で裁判所が判断する
→裁判所が考えたことでも判決に反映できない
い 一般的な訴訟の処分権主義
『訴訟』一般では『処分権主義』が採用されている
※民事訴訟法246条
う 家事審判における処分権主義の排除
家事審判では『処分権主義』が採用されていない
→『当事者の主張なし』でも裁判所が審判に入れることができる
※最高裁平成2年7月20日;財産分与に関する控訴審での不利益変更
※犬伏由子/谷口知平ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣p206
え 裁判所の後見的役割(弁論主義の排除)
家事審判では裁判所に『後見的役割』が求められている
→家裁に大きな裁量が認められている
※家事事件手続法56条;職権での調査・証拠調べ
4 当事者の請求以上を認める審判|具体例
家事審判では『処分権主義』が採用されていません。
そこで『当事者の請求以上』の審判が出されることがあります(前述)。
具体的なケースを紹介します。
<当事者の請求以上を認める審判|具体例>
あ 離婚時の財産分与|請求金額以上を認めた
例;『扶養的財産分与』の中の『割引率』の解釈に関して
当事者の主張する解釈よりも『有利』な解釈を裁判所が採用した
詳しくはこちら|扶養的財産分与|離婚後の生活保障が認められることもある
い 離婚時の財産分与|『マイナス分』を認めた
財産分与でマイナス(逆方向に支払いを命じる)が認められることは少ないが,認めることもある
詳しくはこちら|財産分与の計算における不合理な支出(浪費・事業の損失)の持ち戻し
当事者が『マイナス分』はあきらめて主張していなかった
→裁判所が審判の中で『マイナス分』を採用した
5 家事審判の既判力|ないが現実的には尊重される
家事審判が一般の訴訟と違うものとして『既判力』があります。
このことについてまとめます。
<家事審判の既判力>
あ 既判力|典型例
訴訟→判決確定に至った場合
→『確定判決』には既判力がある
※民事訴訟法114条
い 既判力の意味
その後の裁判が『確定判決』に拘束される
=『確定判決』の内容を前提として別の判断を行う
う 既判力が生じるもの
裁判形式 | 既判力の有無 |
訴訟手続→判決 | あり |
審判手続→決定 | なし |
調停手続→調停調書 | なし |
え 審判×既判力|実務
家事審判には既判力はなし(上記)
しかし審判内容は現実的に尊重される
→別の審判・訴訟ではこの判断が前提とされることが多い
特に前提事情に変更がない場合は特にこの傾向が強い
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。