【撤回が『効力を生じない』の解釈と元の遺言の復活の有無】
1 撤回が『効力を生じない』の規定と基本的解釈
2 撤回が『効力を生じない』に該当する具体例
3 撤回が『効力を生じない』に該当しない具体例
1 撤回が『効力を生じない』の規定と基本的解釈
遺言の『撤回』自体をさらに『撤回』することがあります。
これと似ているものとして『撤回が効力を生じない』というケースもあります。
(別記事『撤回の撤回』;リンクは末尾に表示)
『撤回が効力を生じない』ということは『元の遺言が復活する』ように思えます。
しかし法律の規定や解釈はそう単純ではありません。
本記事では『撤回が効力を生じない』の解釈論について説明します。
<撤回が『効力を生じない』の規定と基本的解釈>
あ 条文の規定|基本
撤回が『効力を生じない』場合
→原則的に第1遺言は復活しない
※民法1025条
い 『効力を生じない』の具体的内容
『効力を生じない』の内容について
→後発的な事情による失効だけである
原始的な『無効』はこれに該当しない
う 『無効』との違い
『撤回』が『無効』である場合
=『後発的な事情による失効』ではない
=撤回の効力が当初から生じない
つまり『撤回』自体が存在しない
→民法1025条の適用はない
=第1遺言が復活する
基本的な解釈はこのようになっています。
典型的な具体例を次に紹介します。
2 撤回が『効力を生じない』に該当する具体例
『効力を生じない』に該当する典型例をまとめます。
<撤回が『効力を生じない』に該当する具体例>
あ 受遺者が相続開始前に死亡した
ア 第1遺言
『甲不動産をBに遺贈する』
イ 第2遺言=抵触遺言
『甲不動産をAに遺贈する』
ウ Aの死亡
遺言者が亡くなる前にAが亡くなっていた
→第2遺言は『効力を生じない』に該当する
※民法994条
い 解除条件が成就した
ア 第1遺言イ 第2遺言=撤回遺言or抵触遺言
『解除条件』が付けられていた
ウ 解除条件の成就
その後,解除条件が成就した
→第2遺言は『効力を生じない』に該当する
※民法127条2項
3 撤回が『効力を生じない』に該当しない具体例
『効力を生じない』に該当しない典型例をまとめます。
<撤回が『効力を生じない』に該当しない具体例>
あ 遺言能力がなかった
ア 第1遺言イ 第2遺言=撤回遺言or抵触遺言
第2遺言を作成した時に『遺言能力』が欠けていた
→第2遺言は『無効』である
『効力が生じない』には該当しない
い 方式違反が存在していた
ア 第1遺言イ 第2遺言=撤回遺言or抵触遺言
方式違反があった
→第2遺言は『無効』である
『効力が生じない』には該当しない
※大阪高裁平成2年2月28日
※東京地裁平成9年10月24日
遺言が無効となる要因については,これ以外にもいろいろとあります。
遺言無効については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効|全体|無効となる要因の種類・民法規定の適用の有無
また遺言無効のうち『遺言能力』についても別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言能力|基本・全体|年齢・実質的判断|精神状態・遺言の複雑性・背景
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