【離婚意思の内容(形式的意思)と離婚意思が必要な時点(離婚届の作成・提出時)】
1 離婚意思の内容と離婚意思が必要な時点
2 『離婚意思』の種類(形式的意思と実質的意思)
3 戸主を変更するための離婚と婚姻(有効判例)
4 不正な生活保護受給のための離婚(有効判例)
5 離婚意思が必要とされる時点
6 離婚意思が欠ける離婚届が提出される典型的な状況
7 協議離婚の効力が生じる時点(概要)
8 離婚届の提出未了(離婚が成立していない)状況の具体例
9 協議離婚の要件全体のまとめ
10 離婚意思を欠く離婚届の処理と無効確認訴訟(概要)
11 婚姻の要件との比較(参考)
1 離婚意思の内容と離婚意思が必要な時点
いったん離婚届が提出された後に,離婚が無効となることがあります。
というのは,仮に役所に離婚届が提出されても,離婚意思が欠けると理論的には離婚は無効となるのです。
本記事では,離婚意思の内容と,いつの時点で離婚意思が必要かという2つについて説明します。
2 『離婚意思』の種類(形式的意思と実質的意思)
離婚が成立するために必要な離婚意思の内容は,2種類の考え方があります。
形式的に戸籍上の夫婦関係を解消する,というものと,実質的に夫婦としての共同生活を解消するというものです。
判例や実務は形式的意思で足りるという見解がとられています。つまり,仲違いして同居をやめる気持ちがなくても,単に戸籍上の夫婦を解消するという気持ちでも離婚は有効となるのです
<『離婚意思』の種類(形式的意思と実質的意思)>
あ 形式的意思説の内容(※1)
離婚届を提出する,戸籍上の婚姻状態を解消するという意思で足りるという見解
判例・実務はこの見解をとっている
※大判昭和6年1月27日
※大判昭和16年2月3日
※最高裁昭和38年11月28日(後記)
※最高裁昭和57年3月26日(後記)
法律婚から内縁関係への変更を認める見解である
詳しくはこちら|内縁|基本|婚姻に準じた扱い・内縁認定基準|パートナーシップ関係
い 実質的意思説の内容
『あ』の形式的意思に加えて共同生活を解消する意思も必要とする見解
現在の実務では採用されていない
『あ』の判例より前の時代にはこの見解が採用されることもあった
※大判大正8年6月6日(実質的意思を欠く離婚届提出について公正証書原本不実記載等罪が成立した)
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例の集約
3 戸主を変更するための離婚と婚姻(有効判例)
実際に判例が形式的な離婚意思で足りると判断した事例を紹介します。このような事例をみると,形式的な離婚意思とはどのようなものかがよく分かります。
まず,以前の法制度で存在した戸主を変更するという目的で離婚届を出してすぐに婚姻届を出すという方法を行った実例です。
最高裁はこの離婚(と婚姻)を有効と認めました。
<戸主を変更するための離婚と婚姻(有効判例)>
あ 離婚する意図
妻を戸主としていた(当時の法律による制度)
夫を戸主にするために離婚届を出して数日後に夫を戸主とする婚姻届を出すことを考えた
このとおりに協議離婚届・婚姻届を役所に提出した
い 裁判所の判断
方便のため離婚の届出である
しかし,夫婦の両方が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてなしたものである
離婚の意思がないとは言えない
離婚は有効である
※最高裁昭和38年11月28日
4 不正な生活保護受給のための離婚(有効判例)
次に,不正に生活保護を受給するために夫婦という状態を解消しようという発想を実行した事例です。
最高裁は,形式的に離婚する意思は欠けていないので,離婚は有効であると判断しました。
<不正な生活保護受給のための離婚(有効判例)>
あ 不正な生活保護受給のための離婚
生活保護金を不正受給した
その返済を免れ,引続き,従前と同額の生活保護金の支給を受けることを考えた
そこで協議離婚届を役所に提出した
い 裁判所の判断
形式的な離婚意思が存在する
→離婚は有効である
※最高裁昭和57年3月26日
5 離婚意思が必要とされる時点
以上のように,離婚が成立するには,形式的に離婚する意思が必要です。
次に,この離婚意思が存在することが必要な時点ですが,2つあります。
離婚届(書面)を作成(署名・押印)する時点と離婚届を役所に提出する時点の2つです。
<離婚意思が必要とされる時点>
あ 離婚意思が必要な2つの時点
離婚意思は『い・う』の両方の時点で必要である
い 届出作成(調印)時
離婚届出(書)を作成する時点
う 届出時
届出(離婚届の提出)の時に離婚意思が撤回されていないことである
届出作成の後に翻意していないという状況のことである
※最高裁昭和34年8月7日
6 離婚意思が欠ける離婚届が提出される典型的な状況
実際に,離婚届が提出されたにも関わらず,離婚意思がないため離婚が無効となるケースがあります。
典型的な状況としては,最初から離婚する気持ちがないというものと,最初は離婚する気持ちであったが,離婚届の署名・押印の後に気が変わったというものがあります。
<離婚意思が欠ける離婚届が提出される典型的な状況>
あ 届出時に離婚意思なし
夫婦両方が離婚するという気持ちを持っていた
そこで夫婦が離婚届に署名・押印した
その後,妻が考え直して離婚する意思を失った
しかし夫は署名・押印済みの離婚届を役所に提出した
い 届出作成時に離婚意思なし
夫が妻を脅して,『離婚届に署名・押印をしろ』と言った
妻はやむを得ず応じて署名・押印をした
しかし,離婚するという気持ちはなかった
7 協議離婚の効力が生じる時点(概要)
以上のように,協議離婚が成立するのは,離婚届が役所に提出され,かつ,離婚意思がある場合です。
離婚が成立するタイミングとしては,離婚届の提出の時点となります。
正確には,離婚届が市区町村役場の戸籍係に提出されると受付がなされ,その後チェックを経て受理されます。受理されて初めて協議離婚が戸籍に記載されます。つまり,法的な効力が発生するのです。
なお,離婚の日付としては受付の日となります。
一方,離婚届に署名・押印した時や,夫婦で離婚することを約束した時点(段階)では理論的に離婚は成立していません。
離婚のように,役所への届出の提出によって新たな身分関係が作られる(成立する)ものを創設的届出と呼んで(分類して)います。
詳しくはこちら|離婚の形式の4種類(協議・調停・審判・裁判離婚)と成立時点
8 離婚届の提出未了(離婚が成立していない)状況の具体例
前記のように,どんなに夫婦が離婚する気持ちを持っていても,離婚届の提出がない限り協議離婚は成立しないのです。
例えば,離婚届への署名・押印が終わったとか,離婚するという書面に調印したなどの段階で離婚が成立したと誤解される方が多いです。離婚届の提出がない限り,離婚をする(離婚届を提出する)約束にすぎません。これでは法律的な効力がないのです。
<離婚届の提出未了(離婚が成立していない)状況の具体例>
あ 夫婦の合意のみ(離婚届の作成なし)
夫婦で離婚するということに合意した
しかしまだ離婚届を作成(署名・押印)していない
い 離婚届の作成のみ(提出なし)
夫婦両方が離婚届に署名・押印をした
しかしまだ離婚届を役所に提出していない
う 離婚協議書の調印のみ
夫婦で話し合い,離婚する条件について合意した
そこで夫婦で(私文書の)離婚協議書を作成し,署名・押印をした
(協議離婚の予約と呼ばれる)
詳しくはこちら|協議離婚の予約(離婚する合意)は無効である
(公正証書で作成しても同様に離婚の成立にはならない)
なお,調停や訴訟の中で離婚することの合意に達して,調停調書や和解調書が作成された場合には,この調書作成の時点で法的な離婚が成立します。
詳しくはこちら|離婚の形式の4種類(協議・調停・審判・裁判離婚)と成立時点
9 協議離婚の要件全体のまとめ
以上で説明したように協議離婚が成立するには,いくつかの細かい要件があります。協議離婚の要件の全体をまとめます。
<協議離婚の要件全体のまとめ>
あ 実質的要件
ア 基本的な内容
離婚意思の合致が必要である
イ 離婚意思の意義(内容)
形式的意思のことである
ウ 離婚意思の存在時期
届出書作成時,届出時の両方の時点において
離婚意思が必要である
い 形式的要件
離婚届の提出(届出)
10 離婚意思を欠く離婚届の処理と無効確認訴訟(概要)
前記のように,離婚届が役所に提出されるとようやく協議離婚が成立します。
しかし,離婚意思が欠けると離婚は無効となります。
そうはいっても,役所では夫婦両方に離婚意思を改めて確認するようなことはしていません。そこで,仮に夫婦一方の離婚意思が欠けていても戸籍に『協議離婚』の記録がなされます。
もちろん,理論的には離婚は無効です。
このような場合には,裁判所に離婚の無効を確認する判決(または審判)をもらい,判決書を役所に提出することで,ようやく戸籍の『協議離婚』の記録が解消されるのです。
詳しくはこちら|離婚意思を欠く離婚届の処理と対応・予防策(無効確認訴訟・不受理申出)
11 婚姻の要件との比較(参考)
なお,結婚(婚姻届)については,協議離婚(離婚届)と似ていますが違いもあります。
婚姻届を役所に提出することで婚姻が成立します(創設的届出)。
ただし,婚姻意思は形式的意思では足りず実質的意思までが必要とされます。この部分は婚姻届と離婚届で解釈が異なるのです。
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる
このことは,偽装結婚という刑事事件の判断では重要になってきます。
本記事では,協議離婚の要件である,離婚意思と離婚届の提出の基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,離婚の有効性が変わってきます。
実際に協議離婚の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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