【不動産の賃貸借における禁止事項の特約と違反による解除・解約の有効性】
1 特約・条項の有効性|大原則=契約自由の原則
2 特約・条項の有効性|例外=条項の無効|不動産賃貸借
3 特約による禁止事項|対象行為|種類・全体
4 特約による禁止事項|違反時の効果|全体
5 禁止事項違反×解除|法的構成
6 禁止事項違反→解除×有効性
7 禁止事項違反×更新拒絶・解約申入
1 特約・条項の有効性|大原則=契約自由の原則
不動産の賃貸借契約では特約・条項の有効性が問題となることが多いです。
これに関して,まずは大原則から説明します。
<特約・条項の有効性|大原則=契約自由の原則>
私法上の契約は自由である
方式・内容ともに政府は介入しない
契約における特約・条項についても当事者が自由に設定できる
一定の範囲で例外もある
2 特約・条項の有効性|例外=条項の無効|不動産賃貸借
不動産の賃貸借では,特約・条項が無効となることもあります。
無効となる理論的な種類はいくつかあります。
法的な理論構成の種類をまとめます。
<特約・条項の有効性|例外=条項の無効|不動産賃貸借>
あ 合意が成立していない
明確な合意が認められないというケース
形式的な合意・調印があっても『合意なし』と判断されることがある
例;当事者が十分に内容を理解していなかった
い 公序良俗違反
『公の秩序・善良な風俗』に反する内容
→無効となる
※民法90条
う 強行法規違反|借地借家法
一定の事項は『賃借人』に不利なものを無効とする
『片面的強行法規』と呼ばれる
え 強行法規違反|消費者契約法
『事業者』と『消費者』の契約が前提である
一定の範囲で『無効・取消』の対象となる
詳しくはこちら|消費者契約法|基本|不当勧誘行為・不当条項・差止請求
3 特約による禁止事項|対象行為|種類・全体
賃貸借契約では通常,条項・特約で『禁止事項』を設定します。
このような条項・特約の有効性が問題となることは多いです。
まずは『禁止事項』として設定される事項の典型例をまとめます。
<特約による禁止事項|対象行為|種類・全体>
あ 迷惑行為系
ア 粗暴な言動イ 他の居住者との抗争ウ 騒音・悪臭エ ペット飼育オ その他風紀・秩序を乱す行為 詳しくはこちら|不動産賃貸借|解除特約|有効性有効性|ペット飼育・迷惑行為
い 犯罪系
ア 危険ドラッグの所持・持ち込みイ 逮捕・捜索 詳しくはこちら|賃借人の犯罪や逮捕・捜索による解除特約は有効となることもある
う 財産管理能力系
後見・保佐・補助の申立・決定
え 資力系
ア 破産・民事再生・会社更生の申立・決定イ 強制執行・保全を受けた
内容・例=差押・仮差押・仮処分
詳しくはこちら|賃借人の破産や差押によって解除する特約は無効である
お 企業・M&A系
資本・支配関係の変化
=チェンジオブコントロール条項(COC)
詳しくはこちら|会社の支配権や役員の変動を禁止する特約(COC条項)と解除の効力
4 特約による禁止事項|違反時の効果|全体
通常,特約による禁止事項に違反した場合の効果も規定します。
違反時の効果,ペナルティの内容の典型例をまとめます。
<特約による禁止事項|違反時の効果|全体>
あ 解除
賃貸借契約を解除できる
ア 催告後に解除するイ 無催告解除ウ 当然に解除となる
法的には『契約終了』という意味である
い 更新拒絶・解約申入
後述する
う 損害賠償
違反者は損害賠償責任を負う
5 禁止事項違反×解除|法的構成
特約による禁止事項の違反を理由として解除するケースは多いです。
この場合の理論的な枠組みはちょっと複雑です。
<禁止事項違反×解除|法的構成>
あ 『債務』不履行
一般的には『禁止事項遵守』は賃貸借の本質的『債務』ではない
→債務不履行による解除は適用されないことが多い
い 信頼関係破壊による解除
禁止事項違反は信頼関係破壊に該当しやすい
→信頼関係破壊を理由とする解除が可能なことがある
この場合催告は不要である
※最高裁昭和50年2月20日
詳しくはこちら|信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準
6 禁止事項違反→解除×有効性
一般に不動産賃貸借契約の解除は大きく制限されます。
法律上の『特約の有効性』として問題となるのです。
有効性に関する法律の規定や効果・手続についてまとめます。
<禁止事項違反→解除×有効性>
あ 禁止事項違反による解除条項の特徴
次の法律の規定と抵触することが多い
ア 借地借家法の『借家人保護』の規定イ 消費者契約法の『消費者保護』の規定
い 法律との抵触による無効
特約・条項が借地借家法・消費者契約法に違反する場合
→無効となることがある
詳しくはこちら|不動産賃貸借|解除特約|有効性|ペット飼育・迷惑行為
詳しくはこちら|不動産賃貸借|解除特約|有効性|差止請求
う 適格消費者団体による差止請求
特約・条項が消費者契約法に違反する場合
→適格消費者団体による差止請求の対象となる
詳しくはこちら|消費者契約法|差止請求|適格消費者団体・公表・提訴前フロー
7 禁止事項違反×更新拒絶・解約申入
禁止事項違反を理由として契約を終了させる方法は『解除』だけではありません。
更新拒絶・解約申入という手段があります。
<禁止事項違反×更新拒絶・解約申入>
あ 賃貸人による更新拒絶・解約申入
禁止事項違反があった場合
→賃貸人が『更新拒絶or解約申入』を行う
い 違反行為の反映
違反行為が『正当事由』の1つとして考慮される
→契約終了が実現する可能性が高くなる
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重
う 『解除』との違い|まとめ
契約終了の原因 | 契約終了時点 | 明渡料 | 条項の有効性 |
解除 | 即時 | 不要 | 無効になりやすい |
更新拒絶 | 契約期間満了時 | 必要 | 無効になりにくい |
解約申入 | 申入から6か月以上経過時点 | 必要 | 無効になりにくい |
解除よりも更新拒絶・解約申入の方が無効となりにくいです。
その代わり,オーナーの時間的・費用的負担が大きいです。