【賃借人の破産や差押によって解除する特約は無効である】
1 賃借人の資力の悪化による解除の特約の有効性
2 旧借家法の賃借人の破産による契約終了(参考)
3 賃借人の破産や差押による解除の特約は無効である
4 賃料の不払いによる解除は有効である(参考)
5 賃貸人の破産による解除の特約は無効となる(概要)
1 賃借人の資力の悪化による解除の特約の有効性
不動産の賃貸借契約では通常『契約終了・解除』に関する条項(特約)があります。
このような解除の特約にはいろいろな種類のものがあります。
詳しくはこちら|不動産の賃貸借における禁止事項の特約と違反による解除・解約の有効性
その1つとして,賃借人が差押を受けるとか,賃借人について破産開始決定がなされたことを解除の事由とするものがあります。
本記事では,このような賃借人の資力(経済的状況)の悪化により解除を認める特約の有効性について説明します。
2 旧借家法の賃借人の破産による契約終了(参考)
以前は民法上に,賃借人の破産によって賃貸借契約を終了できる規定がありました。
正確には,賃貸人が解約申入をすれば,その6か月後に賃貸借契約が終了するというものでした。
<旧借家法の賃借人の破産による契約終了(参考)>
あ 旧民法621条の規定
賃借人が破産宣告を受けた場合
→賃貸人は解約申入をできる
い 旧民法621条と旧借家法の関係
旧民法621条が適用される場合
→旧借家法による保護の規定は適用しない
※最高裁昭和45年5月19日
う 解約予告期間の解釈
解約申入から契約が終了するまでの期間について
民法617条1項の『3か月』の規定は適用しない
旧借家法3条1項の『6か月』の規定を適用する
→解約申入から『6か月』経過時に終了する
※旧民法621条
※借家法1条ノ2,3条1項,6条
※東京高裁昭和63年2月10日
え 規定の廃止
現在では旧民法621条の規定は廃止されている
現在では,この規定自体が廃止されています。
むしろ解釈としては,賃借人の破産があっても解除を認めない方向性となっています(後記)。
3 賃借人の破産や差押による解除の特約は無効である
差押や破産を理由とした解除を特約で定めるケースはよくあります。
このような特約は判例で無効と判断されています。
この判例は,旧借家法の時代における判断として,差押・破産を理由とする解除を否定したのです。
現在の民法では,破産による解約申入の規定が削除されています。
差押・破産による解除の特約が無効となる可能性は,より上がったといえます。
<賃借人の破産や差押による解除の特約の有効性>
あ 特約の内容(前提)
賃借人が差押を受け,または破産(宣告)の申立を受けた場合
→賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる
い 裁判所の判断
無効である
※旧借家法1条ノ2,6条
※最高裁昭和43年11月21日
う 法改正の影響
『い』の判例の後において
破産宣告により賃貸人が解約申入ができる規定(旧民法621条)が廃止された
→同様の内容の特約(あ)が無効となる傾向がより強くなった
4 賃料の不払いによる解除は有効である(参考)
賃借人の資力が悪化した場合は,実際には賃料が支払われない事態となるのが通常です。
賃料の不払い(滞納)は非常に重大な債務不履行です。
賃料の不払いを理由とする解除は原則的に有効です。
詳しくはこちら|賃貸借契約の解除の種類・分類・有効性の制限
これは,差押や破産を理由として特約により解除することとはまったく別のものです。
5 賃貸人の破産による解除の特約は無効となる(概要)
以上の説明は,賃借人の資力の悪化を理由として賃貸借契約を解除するというものでした。
一方,賃貸人の破産や賃貸の対象物の競売を理由として契約を解除する特約が問題となったケースもあります。
賃貸借契約が解除されると,賃借人はその後退去する義務が生じ,これについて賃貸人が負うはずの損害賠償責任が免除されることになります。
このように賃借人の不利益が大きいので,無効と判断する判例や実務における解釈の傾向があります。
詳しくはこちら|賃貸人の責任免除特約|事例|判例・消費者契約法による差止請求