【明渡猶予の合意|書面作成方法|債務名義化=訴え提起前の和解】

1 明渡猶予の合意|条項・具体例
2 明渡猶予の合意×執行力・有効性
3 明渡の合意×債務名義|明渡の強制執行ができる
4 建物明渡×債務名義|訴え提起前の和解が代表的
5 訴え提起前の和解×明渡猶予|効力・有効性・作成ハードル
6 明渡の和解調書に基づく明渡実現|大きなメリット

1 明渡猶予の合意|条項・具体例

賃料滞納などのケースで,賃貸人・賃借人で協議をすることがあります。
退去の方向で合意が成立することもあります。
具体的には一定の準備期間を設定することが多いです。
これを『明渡猶予』と呼んでいます。
一般的に決めておく内容=条項を整理します。

<明渡猶予の合意|条項・具体例>

あ 契約解除の確認

合意解除or債務不履行解除

い 明渡期限
う 清算内容
え 残置動産の所有権放棄

期限までに明渡がなされない場合の規定

2 明渡猶予の合意×執行力・有効性

明渡猶予の合意をした場合,執行力・有効性の問題があります。

<明渡猶予の合意×執行力・有効性>

あ 明渡の合意×執行力

一般的な書面での合意には『執行力』がない
→そのまま強制執行をすることができない(後記)

い 明渡猶予の合意×有効性

記載内容どおりの法的効果が生じるとは限らない
『新たな賃貸借』などの別の解釈が生じるリスクがある
詳しくはこちら|建物賃貸借における期限付合意解除(合意解除+明渡猶予)の有効性

3 明渡の合意×債務名義|明渡の強制執行ができる

明渡の合意どおりに強制執行ができるようにしておく方法があります。

<明渡の合意×債務名義>

あ 一般的な書面×明渡強制執行

一般的な書面で『明渡の合意』をした場合
→強制執行のためには『訴訟→判決獲得』が必要となる

い 債務名義×明渡強制執行

明渡の合意が『債務名義』となっている場合
→これに基いて強制執行ができる
=訴訟提起・判決獲得というプロセスが不要となる

『債務名義』があると強制執行ができるのです。
『債務名義』の内容については次に説明します。

4 建物明渡×債務名義|訴え提起前の和解が代表的

建物明渡の合意についての債務名義の具体的内容をまとめます。

<建物明渡×債務名義>

あ 債務名義|種類全体

合意に基づく債務名義は和解調書・公正証書などがある
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など

い 公正証書→明渡執行はできない

公正証書による強制執行は『金銭・代替物』に限定されている
→建物の明渡は対象外である

う 訴え提起前の和解→最適

建物明渡の強制執行も可能である

5 訴え提起前の和解×明渡猶予|効力・有効性・作成ハードル

明渡猶予の合意を訴え提起前の和解にすると大きなメリットがあります。
メリットと作成時のハードルをまとめます。

<訴え提起前の和解×明渡猶予>

あ 債務名義としての効力

『訴え提起前の和解』は明渡の債務名義となる
→期限までに退去しない場合に強制執行ができる

い 内容の有効性

裁判所が関与して作成されている
→条項内容が『無効』となる可能性がとても低い

う 残置動産の所有権放棄条項

一般的には無効となる可能性が高い
詳しくはこちら|所有権放棄・自力救済特約|基本|有効性判断基準
しかし訴え提起前の和解の条項は原則的に有効である(前記)
→賃貸人自身による残置動産の廃棄が適法となる

え 作成時・裁判所のチェック

内容によっては裁判所が条項として認めないことがある
『無効』と思われる条項については削除が要請される

このように『訴え提起前の和解』は非常に強力な手段です。
その反面,無効と思われる条項は排除されてしまうということです。
訴え提起前の和解の手続全体については別に説明しています。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)

6 明渡の和解調書に基づく明渡実現|大きなメリット

訴え提起前の和解により『明渡の合意』をするケースも多いです(前記)。
その後実際に期限までに賃借人が退去しない場合の対応についてまとめます。

<明渡の和解調書に基づく明渡実現>

あ 執行官による明渡の強制執行

『明渡』の債務名義として和解調書を利用する
メリット=『提訴・判決獲得』を省略できる

い 賃貸人による残置動産の廃棄

『明渡の強制執行=賃借人の退去』が終わった時点
→残置動産をオーナー自身が廃棄処分する
メリット=裁判所の執行手続を省略できる

本来的な方法よりも大幅に手間・金銭・時間的コストが削減できるのです。

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