【所有権放棄・自力救済特約|基本|有効性判断基準】
1 建物内動産×所有権放棄|判断基準
建物の賃貸借において、明渡の際に『建物内の動産』の処理が問題になります。
賃貸人が廃棄すると損害賠償や器物損壊罪に抵触する可能性があるのです。
このような『実力行使』のことを『自力救済』と呼ぶこともあります。
一方『賃借人が動産の所有権を放棄した』場合であれば法的問題は生じません。
『所有権の放棄』についての判断基準をまとめます。
建物内動産×所有権放棄|判断基準
あ 判断基準
次のような事情を総合的に考慮する
い 所有権放棄を肯定する事情|具体例
ア 経済的価値
明らかに経済的価値がない
イ 動産所有者の意思表示
動産の所有者=建物賃借人が賃貸人に『捨てても良い』と言った
ウ 所有権放棄条項
賃貸借契約書などに『所有権放棄条項』が含まれている
多くの事情を総合的に評価・判断するのです。
次に説明します。
2 自力救済の適法化・所有権放棄特約|具体例
賃貸人が直接的に『明渡』を実行すると違法となることがあります。
『自力救済』と呼ばれるものです。
この点、『所有権放棄』の特約・条項があれば適法になりやすいです(前記)。
実際に多くの建物賃貸借契約書には条項として入っています。
具体例を紹介します。
自力救済の適法化・所有権放棄特約|具体例
賃貸人は、鍵の交換及び残置動産の処分をすることができる。
ただし、法的な効力としてはちょっと複雑です。
次に説明します。
3 自力救済・所有権放棄特約|基本・一般論
自力救済・所有権放棄の特約条項は無効となることもあります。
有効性の判断についてまとめます。
自力救済・所有権放棄特約|基本・一般論
あ 典型例
明渡を賃借人が自ら履行する内容の特約
い 解釈論|原則
公序良俗に反する
→無効となる
※民法90条
う 解釈論|例外
緊急やむを得ない特別の事情がある
+権利を保全するためには裁判を待ついとまがない
→必要な限度を超えない範囲で許される
※最高裁昭和40年12月7日
もともと、占有排除のためには裁判所が関与した手続を取るのが大原則なのです。
所有権放棄特約はこの大原則を免れるものです。
そこで制限的に解釈される傾向があるのです。
所有権放棄特約・条項があれば『私的執行が適法となる』とは言い切れないのです。
4 自力救済・所有権放棄特約の有効性(概要)
自力救済・所有権放棄の特約は『一定の範囲』に限って有効となります(前記)。
『有効となる範囲』について概要をまとめます。
自力救済・所有権放棄特約の有効性(概要)
あ 有効となる範囲
賃借人が退去後の残置動産をオーナーが処分・撤去できる、という範囲で有効である
賃借人が退去していない場合は、オーナーは処分・撤去できない
※東京高判平成3年1月29日
詳しくはこちら|建物明渡の自力救済特約の有効性を判断した裁判例
い 『退去』の意味
『賃借人の占有がない』という状態のことである
詳しくはこちら|建物の占有の判断の基準と具体例(建物賃貸借の退去の判定)
つまり、賃借人が居住している限りは、賃貸人は手を出せない、という意味です。
この基準自体は多くの判例で採用されている原則的なものです。
実際には個別的な特殊事情が判断に大きく影響します。
本記事では、自力救済特約(所有権放棄特約)の有効性について基本的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物の明渡(建物の賃貸借の終了)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。