【無催告解除特約・当然解除特約の有効性(借地借家法との抵触)】

1 無催告解除特約・当然解除特約の有効性

賃貸借などの契約について、債務不履行を理由として解除する時には、原則として催告をした上で、それでも履行がない場合にはじめて解除できることになっています。
詳しくはこちら|賃貸借契約の解除の種類・分類・有効性の制限
この点、催告解除(の意思表示)を不要とする特約が使われているケースもあります。
本記事では、このような無催告解除特約当然解除特約の有効性について説明します。

2 無催告解除特約の有効性(基本)

実際に無催告解除特約が問題になるのは、建物賃貸借や借地(土地賃貸借)です。この場合、借地借家法(旧借家法、借地法)との抵触が問題となります。
解釈の方向性としては、基本的に有効となります。賃料の滞納が典型例ですが、賃借人が基本的な義務を怠っているので、保護する必要性が小さいのです。

無催告解除特約の有効性(基本)

あ 賃料滞納による無催告解除

賃料滞納による無催告解除特約の設定自体が借家法に違反することはない
原則として有効である(後記※1
ただし、特約内容によっては無効となることもある(後記※2
ただし、特約の効力は一定の制限を受ける(後記※3
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p184(建物賃貸借)

い 賃料滞納以外の事由による無催告解除

無催告解除特約の設定は可能である
※判例多数

3 3か月滞納による無催告解除特約の有効性

実際に建物賃貸借(や借地)でよく使われる無催告解除特約は、3か月の滞納があった場合に解除できるというものです。3か月もの長期間の賃料の不払いがあれば、前述のように、賃借人を保護する必要性はもうないので多くの判例が解除を有効としています。

3か月滞納による無催告解除特約の有効性(※1)

あ 特約の内容

滞納家賃が3か月分以上に達したときは催告なしで直ちに解除できる

い 裁判例

賃借人の義務違反を理由とするものである
旧借家法6条に該当せず当然有効である
※大判昭和8年7月12日(建物賃貸借)
※最判昭和37年4月5日(建物賃貸借)

4 1か月滞納による無催告解除特約の有効性

1か月の滞納で無催告解除ができるという特約についてはどうでしょうか。1か月ごとに賃料を支払うというよくある方式を前提とすると、送金(銀行振込)を1日遅れたような状況も含んでしまいます。さすがにこの時点で、遅れて支払うチャンスを与えることをせずに解除するのはやりすぎだと思えます。
そこで、実務では無効であると判断する傾向が強いです。

1か月滞納による無催告解除特約の有効性(※2)

あ 特約の内容

1か月分の賃料を遅滞したときは催告を要しないで解除できる

い 肯定する古い裁判例

特約は有効である
※東京地判昭和28年11月24日(建物賃貸借)

う 否定する裁判例

ア 一般的見解 特約を正当化する特別の事情がない限り、当事者間の公正を害すること甚だしいので無効である
※東京地判昭和39年9月12日(建物賃貸借)
※大判昭和15年4月4日(建物賃貸借)(同趣旨)
イ 契約期間が長期であることを考慮した判断 40数年来その条項を採用したことがなかった
単に賃料支払の確実を期するほか他意ないものである→特約は無効である
※仙台高判昭和27年2月29日(建物賃貸借)
ウ 意識が薄かったことを考慮した判断 市販契約用紙の印刷文で、契約締結時に当事者間で確認されていなかった
当事者を拘束する力のない例文である→特約は無効である
※東京地判昭和39年7月6日(建物賃貸借)

5 無催告解除特約による解除の制限(有効性)

無催告解除特約については、以上のように、特約自体が有効か無効かという判断がなされることもあるのですが、有効だとしても、これとは別に、個別的な事情を前提として、解除を認めるか認めないか、という判断がなされることも多いです。
抽象的にいえば、催告をせずに(履行するチャンスを与えずに)解除をしても不合理ではない場合に、無催告解除を認める(契約終了とする)という判断基準になります。要するに、特約自体は有効だとしても、当該事案で賃借人を強く非難できないような状況であれば解除は認めないということです。

無催告解除特約による解除の制限(有効性)(※3)

(解除をすることについて)
催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に無催告解除ができる(解除が有効となる)
※最高裁昭和43年11月21日

6 無催告解除特約による解除の有効性を判断した裁判例(概要)

前述のように、無催告解除特約による解除は結局、個別的事案の内容によって、有効(契約が終了する)かどうかが判断されます。
実際に、無催告解除特約の有効性が問題となるケースは多く、個々の事案の内容によって解除を認めるかどうかが判断されています。具体的事案(裁判例)について、どのような事情がどのように評価(判断)されたのか、ということは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|無催告解除特約|事例|判例・消費者契約法による差止請求

7 当然解除特約の有効性

以上で説明した無催告解除特約は文字どおり(解除のプロセスのひとつである)催告を省略するものですが、さらに、解除(の意思表示)も省略する特約もあります。
要するに、一定の状況(債務不履行など)が生じた場合に、当事者のアクション(意思表示・通知)がなくても自動的に解除になるというものです。当然解除特約と呼んでいます。
昭和51年判例は、原則として有効と判断しました。しかしこれは個別的な事案の内容が影響しているので、一般化はできないと思われます。一般論としてはどちらかというと無効となる傾向が強いといえます。

当然解除特約の有効性

あ 当然解除特約の内容

一定の状況が生じた場合に当然に解除となる
催告・解除(通知)のいずれも不要である

い 当然解除特約の有効性

この効力を認めることが合理的ではない特別の事情がある場合
→解除の効力が生じない
※最高裁昭和51年12月17日

う 補足説明

昭和51年判例(い)では、当然解除特約(条項)が訴訟上の和解として成立していた
内容=1か月分の賃料滞納により当然解除となる
裁判所のチェックがなされているので効力を否定するのが困難であった
→一般的な合意でも同様の判断になるとは限らない
=一般的には無効となる可能性が高いと思われる

本記事では、無催告解除特約、当然解除特約(による解除)の有効性について説明しました。
実際には、個別的な事案によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借その他の契約の解除に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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