【遺族年金|内縁者の受給|重婚的内縁・養子縁組・『母子/父子』差別解消】
1 遺族年金|基本|主に『配偶者』が受給する
2 重婚的内縁×遺族年金|見解のバリエーション
3 重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間17年
4 重婚的内縁×遺族年金|正妻との離婚の合意なし
5 重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間36年
6 重婚的内縁×遺族年金|正妻との婚姻関係存続
7 重婚的内縁×遺族年金|独立して判断する見解
8 養子縁組×内縁|遺族年金→支給されない
9 遺族年金支給対象×『母子/父子』家庭
1 遺族年金|基本|主に『配偶者』が受給する
公的な『年金』の中に『遺族年金』という制度があります。
法律婚/内縁の違いが表面化することもあります。
まずは遺族年金の基本的事項を整理します。
<遺族年金|基本>
あ 種類
名称 | 制度 |
遺族基礎年金 | 国民年金に含まれる制度 |
遺族厚生年金 | 厚生年金に含まれる制度 |
い 受給者;配偶者×内縁
代表的な受給権者は『配偶者』である
『配偶者』には『内縁者』を含む
う 『配偶者』×条文の定義
婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む
※国民年金法5条7項
※厚生年金保険法3条2項
このように『事実婚=内縁』を『法律婚』と同等に扱う原則となっています。
しかし,特殊な事情があると『違い』が現れることもあります。
2 重婚的内縁×遺族年金|見解のバリエーション
『正妻』と『内縁の妻』の両方が存在するケースがあります。
いわゆる『重婚的内縁』と呼ばれる状態です。
この場合に『遺族年金の支給』が問題となります。
判例の見解は統一されておらず,揺れていると言えます。
<重婚的内縁×遺族年金|見解のバリエーション>
あ 正妻との関係形骸化を条件とする見解
次の両方の事情に該当する場合に内縁者への支給が認められる
ア 戸籍上の配偶者との別居期間が長いイ 戸籍上の配偶者への経済的支援がない
※東京地裁平成25年3月19日
※東京高裁平成19年7月11日
※名古屋地裁平成18年11月16日
※東京地裁平成15年10月30日
い 正妻との関係と内縁者への支給はリンクしない見解
次の2つは独立して判断すべきである
ア 戸籍上の配偶者への遺族年金支給イ 内縁者への遺族年金支給
※東京地裁平成18年2月17日
個々の判例における判断内容は次に説明します。
3 重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間17年
重婚的内縁における遺族年金の判断がなされた判例を紹介します。
正妻との関係が形骸化していました。
そのため内縁の妻への支給が認められました。
<重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間17年>
あ 戸籍上の妻
別居期間約17年
経済的な支援なし
い 内縁の妻
同居期間約16年
う 裁判所の判断
内妻への支給を認める
※東京地裁平成25年3月19日
4 重婚的内縁×遺族年金|正妻との離婚の合意なし
重婚的内縁における遺族年金の判例です。
正妻との婚姻関係は形骸化していないと判断されました。
その結果,内縁の妻への支給は認められませんでした。
<重婚的内縁×遺族年金|正妻との離婚の合意なし>
あ 戸籍上の妻
離婚についての具体的な合意がなかった
別居後も経済的に妻を支援していた
夫からの離婚請求が認容される余地はなかった
い 裁判所の判断
内縁の妻への支給を認めなかった
※東京高裁平成19年7月11日
5 重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間36年
判断の枠組みとしては前記の判例と同様のケースです。
<重婚的内縁×遺族年金|正妻別居期間36年>
あ 戸籍上の妻
別居期間約36年
生活費の送金は継続していた
い 裁判所の判断
内縁の妻への支給を認めなかった
=正妻への支給を認めた
※名古屋地裁平成18年11月16日
6 重婚的内縁×遺族年金|正妻との婚姻関係存続
判断の枠組みとしては前記の判例と同様のケースです。
<重婚的内縁×遺族年金|正妻との婚姻関係存続>
あ 戸籍上の妻
婚姻関係は『実体を失って形骸化していた』とは言えない
い 裁判所の判断
内縁の妻への支給を認めなかった
※東京地裁平成15年10月30日
7 重婚的内縁×遺族年金|独立して判断する見解
以上の判例とは判断の枠組みが異なる見解の判例もあります。
『正妻』『内縁の妻』の2つをリンクさせない,という考え方です。
<重婚的内縁×遺族年金|独立して判断する見解>
戸籍上の配偶者への支給と内縁者への支給は独立して判断すべきである
※東京地裁平成18年2月17日
8 養子縁組×内縁|遺族年金→支給されない
遺族年金における『配偶者』には内縁者も含みます(前記)。
内縁の夫婦が『養子縁組』をしたケースがありました。
このような特殊事情が問題なった判例を紹介します。
<養子縁組×内縁|遺族年金→支給されない>
あ 事案
AとBが内縁関係にあった
AとBが養子縁組をした
Aが亡くなった
Bは遺族年金の給付を申請した
い 裁判所の判断
養親・養子は婚姻ができない
→『婚姻関係と同様の事情』に該当しない
→遺族年金の支給を認めない
※民法736条
※東京高裁平成27年4月16日
9 遺族年金支給対象×『母子/父子』家庭
遺族年金は文字どおり『遺族』に支給される制度です。
この点,ルールの内容に改正がなされています。
以前は『母子』のみであったのです。
改正により『父子』家庭となった場合も支給対象に追加されました。
<遺族年金支給対象×『母子/父子』家庭>
あ 以前の制度
ア 問題点
遺族基礎年金は『母子』家庭にのみが支給対象であった
『父子』家庭は支給対象外であった
イ 理由
以前は家族のスタイルが単一的であった
昔のスタイル=『父』が収入を得る+『母』は専業主婦
い 法改正
ア 改良内容
平成26年4月から制度が改められた
父子家庭も遺族基礎年金の支給対象となった
イ 理由
産業構造が大きく変化し『昔のスタイル』が一般的ではなくなった
『昔のスタイル』は男女差別に該当する状態となった
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